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萌捗尊(アルフィア視点)

いつも私の妄想しょうせつをお読みいただきありがとうございます。

再びシーリン迷宮冒険譚の続きです。

話は休憩時間にフィーナが往診へ出向くところから再開します。

「ネモ。今日も歩くから」

「奴が置いていった杖を使うのか?」

「そうよ。先日は無理しすぎたけど。部屋の中を往復する事から始めるわ」

「それが良い。オレの目が届くからな。おまえが1人で廊下へ出るのはまだ早い」


あたしアルフィアは負けられない相手を頭へ思い浮かべて相棒のネモへ告げた。

先日は帰り道で力尽きた。

正直なところ悔しいがネモの言う事に反論も出来ない。


常に開けっ放しである扉の陰からフィーナ先生が覗くように顔を出す。


この方は貧乏人から一切治療費を取ろうとしない、あたしが尊敬する治療師様だ。

そのかわり貴族様や士族様、冒険者など金銭的に裕福な者からは容赦なく治療費を取る。

かく言うあたしも一日一朱の入院費を払い続けている。

朝の挨拶は、あたしが考え事をしていた為、ネモに先を越されてしまった。


「おはようございます」

「おはようございます先生。今日は遅かったですね。何かあったのですか?」

「おはようアルフィアちゃん、ネモ。今朝は色々と忙しくて。今日の調子はどうかしら?」

「いつも通りですけど、ベスには負けていられませんから、頑張りますよ」

「オレが手伝っているのだ。負けるはずがない」


ネモは直接見ていないから知らないだけね。

先日、ベスを見舞いへ行った時、彼女の回復具合に目を見張ったわ。

彼女から受けた嫉妬の視線は微笑ましいと思うほど可愛いものだったけどね。

まさかユークリットがくれた【杖】に嫉妬するとは思わなかったわ。


「ネモの献身的な協力には毎日感謝しているわ。だけどそれだけではベスに勝てないの」

「あの生意気な娘にオレが負ける事はない」

「あたしにネモがいるのと同じでベスにはアンがいるの」

「そうね。ネモも頑張っているけどアンちゃんには負けるわね」

「……サポート特化型のシャイニールナルナが相手では流石にオレでも分が悪いか……」

「しゃいにぃ? 何?」

「気にするな。オレだけが知っていれば良い事だ。敢えて言うならばオレの嫁達の……」

「はいはい。先生はこれからベスの往診ですか?」


突然始まり止まらないネモの嫁関連の話を無視してフィーナ先生と会話を続ける。


「そうよ。アルフィアちゃん。杖を使ってベスの見舞いへ行ったと聞いたわ」

「はい。思ったよりも大変でしたが何とか往復出来ました」

「そう。それなら帰りは自分の足でね。ネモ。アルフィアちゃんを抱き上げてね」

「ちょっと待ってください!」


ネモはあたしの言葉よりもフィーナ先生の言葉を優先する。

あたしでは止まらない嫁関連の話を中断するほどだ。

彼は寝所から降りるとあたしの体の下へ腕を差し込み持ち上げ……られない。

大きく一呼吸して再挑戦……あたしの体が完全に寝所から離れる事はなかった。


「不吉だ……アルフィア。ここを離れる時ではないぞ」

「あらあら。ネモだとアルフィアちゃんは持ち上げられないようね。マリー……」


先生は廊下へ振り返り声を掛けても、珍しくそこにマリーがいない。


「あらあら。アルフィアちゃん。少し待っていてね。ユークリットを呼んでくるわ」

「先生! 待って!」


あたしは止めるけど、フィーナ先生は聞く耳を持たずに廊下へ消えて行く。

さほど時間を待たずにユークリットを伴ったフィーナ先生が戻ってくる気配を感じる。

その間ネモはあたしを持ち上げようと気張っていたが無駄な試みに終わった。


「フィーナさん。助かりました。あの場から抜け出せるのでしたら何でも手伝います」

「ユークリットが居ればあたしも心強いわ。お願いね」

「力仕事なら任せてください!」


廊下から二人の声が聞こえると、ネモはあたしを持ち上げる事を諦め、いつもの場所へ。

何食わぬ顔をしてあたしの寝所へ上がり、毎日行っている運動の補助を再開する。

フィーナ先生が部屋に入るとすぐにユークリットへ指示を出す。


「ユークリット。アルフィアちゃんを抱き上げてね」

「お安いご用です」


ユークリットは左腕を肩甲骨の下、右腕を膝の下に回して、あたしを抱き抱える。

ネモとは違い楽々と持ち上げて、あたしへ声をかけてきた。


「アルフィアさん。私の首に腕を回してもらえると安定するので助かります」

「これで良い?」

「こうしていると初めて会った時を思い出しますね」


あたしは大怪我で朦朧としていたので記憶が曖昧だけどユークリットに助けられた。

今、両手足が揃っているのは彼の機転によるものだ。

彼の太い首へ回した右腕から良く鍛え上げられている筋肉の感触が伝わる。

あたしを支える両腕も一流冒険者と比べたって遜色がない。

外見は男としての魅力が溢れているだけに中身の残念さ……際立つなぁ。

これだけ立派な体を持っているのに男として臆病すぎよ。

変態だし。


ベスは本気でこいつが良いのかしら?


あたしもはっきり聞いた訳じゃないけど、ベスは絶対に【男として好き】よね。

アンだってあやしいわ。

ベスの手前、気持ちを抑えている感じはするけど、彼を見つめる瞳は恋する乙女だ。

あたしの口から聞いたら夜寝て永遠に起きられなくなりそうだけどシーリンだって……

病室まで聞こえてくる酔っぱらい達の噂話を信じれば、これまで彼女に男の影はなかった。

最近はユークリットとの噂話があたしの耳まで届いている。

ベスとアンとシーリン。

三人で彼の頭を坊主にしているのだから本当に……


「アルフィアさん? どうかしましたか?」

「ごめんね。少し考え事をしていて。顔が真っ赤だけど、やっぱりあたし重いかしら?」

「いえ。重さは軽いくらいですが、私は女性と触れる機会が少なくて……」

「もしかして恥ずかしいの?」

「……はい……」


顔と言葉に反して、彼の手のひらは懸命に手首を曲げて、あたしの体を触れまくっている。

特に彼の左手は少しずつ胸へ近づこうとするいやらしい気配を感じる。

人差し指を指一本移動させると続いて中指薬指小指と動かしにじり寄る。

あたしなら気が付かないとでも思っているのかしら?

鼻の下が伸びた顔と言い、他人事ながら溜息が出るくらいなさけない。


「アルフィアちゃん、ユークリット。次へ行くわよ。杖も忘れないで」

「帰りは歩けと言う事ですね?」

「その通りよ。少しだけ無理をする事が回復の近道よ。やり過ぎは逆効果だけどね」

「分かりました。頑張ります」

「フィーナ様。オレはどうしましょうか?」

「あらあら。ネモ。あなたもベスちゃんの往診へ付いて来たいの?」

「シャイニールナルナと会えるのは嬉しいが赤目のガキには会いたくないです」

「ネモさんよぉ〜。『赤目のガキ』ってのは誰の事か教えてもらおうか?」

「ユークリットさんはお莫迦ばかさんで最後まで聞かないと分からないのでちゅねぇ?」

「うちの娘に『赤目のガキ』なんて居ないから教えてもらおうと思ってなっ!」

「誰の事か目星が付いているから怒っているのだろう!」


頭同士のぶつかる凄い音がして、あたしの目の前でユークリットとネモが額を付けて押し合う。

額を支点にしてぐりぐりと押し合う様は、鼻の頭どころかすぼめた唇すらも触れ合いそうだ!

零距離でののしり合う二人を横目にあたしは『おしい! あと一寸!』と興奮してしまう。

あたしにも二人のつばがかかるくらいだし、お互いの交換は確実ね。

表面上は仲が悪く見える二人だけど、心同士は【運命の二人】と言えるほど繋がっていて……

体力的には圧倒的なユークリットをネモが押さえ込み、ユークリットも口では嫌がりながら……

『ユークリット。唾液の交換は終わっているのだ。後は言わなくても……分かるだろう?』

『ネモ! 俺とお前の関係は俗物的な行為で確かめる必要はない!』

『ユークリット。これは契約だ。おまえがオレのモノになる為のな!』

『やめろネモ! これは命令だ……いや友人としての願い……お願いします御主人様……』

あたしの妄想が暴走しているわ。

ネモの言葉を借りれば「萌える」もしくは「捗る」むしろ「尊い」でも良さそうね。


「二人共。アルフィアちゃんに迷惑がかかるでしょう? 離れなさい」


フィーナ先生の言葉へ大人しく従う二人。

残念。

二人のつばはあたしにもかかったけど迷惑がかかったと思わないわ。

声には出さないけど、もうしばらくそのままで良かったのに。

少し乱れた身なりを整えネモが聞く。


「往診に帯同する事は遠慮します。その上でオレはどうしましょうか?」

「そうねぇ……病室は毎日綺麗にしているし……ネモはお昼まで好きにしてちょうだい」

「分かりました」

「アルフィアちゃん、ユークリット。ベスとアンの部屋に行くわよ」

「本来は俺の部屋なのですが……」




ユークリットの独り言は無視されて、あたしは彼に抱かれて彼の部屋へ向かう。

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― 新着の感想 ―
[一言] アルフィアさんにそんな趣味があったとは笑 ……羨ましすぎるぞユークリッド、あとでシーリンさんとベスとアンに見つかってお仕置きされてしまえw
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