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心の中の戦争

 そろそろ「こんばんは」でしょうか。

 ユークリットです。

 人生楽しみありゃ次は苦しみですよね?

 プラマイちょいプラで過ごしたいと願っています。



 俺がアルフィアさんを見舞い病室から出るのを待っていた6人。

 ドカチーニさん、フィーナさん、ホルスたん、マリー、ベス、アン。

 なぜか俺を囲むようにして全員で食堂へ移動する。

 確かにそろそろ夕食の時間。

 食堂へ移動するのは良い。


 だがなぜ俺を囲う必要がある?

 何かあるのなら言って欲しい。

 無言で囲うのはやめてくれ。


 俺は、自分で動けないアルフィアさんを襲う、危険人物とみなされたのか?

 冤罪だ!

 俺のサイコパスはクリアなはずだ!

 断固として抗議する。

 心の中で叫んでいるだけですが。


 俺は朝から色々ありすぎて限界なんだ。

 アルフィアさんから束の間の安らぎを得て何が悪いのだ?

 わずかに回復した俺の精神力を再び削らないで欲しい!

 心の叫びは誰にも届かない。

 俺の包囲が解かれる事はなかった。

 無言の圧力が俺の精神を削りまくる。


 そちらがその気ならば仕方が無い。

 よろしい。

 ならば戦争だ。



 俺は俺のいくさを始めよう。

 最終目標はベスとアンを取り戻す事。

 現在の彼我戦力差は1対6。

 2人を取り戻せば3対4にまで戦力差は縮まる。

 ここで確実に和平交渉へ持ち込もう。


 戦略プランは立った。

 後は高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に実行するだけだ。


 前方をホルスたんとマリーが、後方をドカチーニさん達4人が俺を囲う。

 絶望的な状況だが救いはある。


 戦場が俺の心の中という圧倒的に有利な条件下だ。


 加えてアンとマリーは口を開かない。

 強力な心的威圧要員ではあるが直接口撃こうげきをしてくる事は考えられない。

 まずは敵戦力の弱いと思われる所から各個撃破だ。



 いざ開戦と意気込んだが、マリーは早々に厨房へ消えていく。



 初戦は戦わずして勝った。

 これで1対5だ。

 前方はホルスたんだけ。

 ロングブーツは面倒なので草鞋わらじを履いている時に相手からの口撃が開始された。

 相手はホルスたん。

 並んで座り履物を履く瞬間を狙われた。


「ユークリット。あたいと一緒に夕食を食べないかい?」

「何かあったのですか? 少し元気がないようですが?」

「そんな事はないのさ。ちょっとあんたに聞きたい事があるってだけさ」

「でしたら今夜はベスとアンと久しぶりに食堂で食べたいと思っていますので」

「思っているからなんなのさ!? あんたはあたいと食べるのかい? 食べないのかい?」


 ホルスたんの語気が段々と強くなる。

 顔はこちらを向いていないがアスリートフォームの彼女は凛々しさを感じる美人。

 美人の横顔は、そこにあるだけで、迫力がある。


「ベスとアンと一緒に食べたいと思っています。今夜は遠慮していただきたけませんか」

「そうかい! 何であたいだけ何ももらえないし食事もしてくれないのさ!」

「ちょっと待ってください。一体何の事ですか?」

「今のあんたを見るとあたいの角がかゆくなるのさ。さっさと行っちまうのさ」

「何ももらえないってお土産の事ですか? 次は用意します。そんなに怒らないでください」

「そんな事を言っているんじゃないのさ! あんたが行かないならあたいが行くよ」


 ホルスたんは先に立ち上がり、夕食の注文を厨房へ直接すると、1人で食卓を占拠する。

 彼女を怒らせてしまったようだ。

 お土産を用意しなかった事が悪くないとすれば何が悪いのだろうか?


 もしかして俺が他の女性ばかり構うからねた?


 やめろユークリット。

 危険な考えだ。

 何度同じ過ちを犯そうとしている。

 学生時代を思い出せ。




………………




 そうあれは放課後の部活での一場面。

 俺は、過酷なサーキットトレーニングが終わり、グランドの片隅へ座り込む。

 本来は良くないと言われているが、5分しか体力が持続しない俺は、構わず座り込んだ。


「先輩お疲れ様です。タオルをどうぞ」


 この後輩は必ず一番最初にタオルを俺へ渡してくれる。

 そのくせ恥ずかしがって俺と目を合わさない。

 その仕草が非常に可愛い。

 ショートカットが良く似合う普段から元気いっぱいなお気に入りの後輩だ。


「いつもありがとう」

「いえ。仕事ですから」


 タオルを渡すと同時に一言会話を交わし、他の部員へタオルを渡す為、立ち去る彼女。

 ずっと彼女を見守ってきた俺には分かる。

 彼女が目を逸らして話す相手は俺だけだと。

 確定だ。

 俺は特別。

 彼女は俺に気がある。

 確信した俺は部活後に彼女を校舎裏へと呼び出した。



「先輩。わたしに何か御用でしょうか?」

「俺は君の事をいつも見ていた。俺だけ特別扱いだった事も知っている。付き合おう!」

「はぃぃ!?」

「ありがとう。これで今日から俺達は【カレカノ】だな」

「わたしを彼女にするだなんて。先輩。何を言っているのですか?」

「今君は『はい』と言ってくれたじゃないか」

「いえ。あれは『この人はいきなり何を言い出すんだ』という疑問の『はぃぃ?』です」


 彼女と目が合った。

 もしかしたら初めてじゃないだろうか。

 普段の元気いっぱいな彼女からは想像出来ないクールな瞳だ。


「簡単に言うと『俺と付き合う気はない』って事かな?」

「わたしは『わたしが先輩を好きだ』と勘違い出来る先輩の神経回路が理解できません」

「君はいつも一番最初に俺からタオルを渡してくれていたじゃないか」

「最初に先輩へ渡せば『まだ仕事がありますので』と言って逃げられるからです」

「いつも恥ずかし気に顔を逸らして話していたのは?」

「先輩と目を合わせて話をすると【呪われる】と噂があるからです。とにかく失礼します」


 彼女は走り去った。

 暗くなった校舎裏に俺だけ残して。

 彼女が途中、校舎の角で、頭を何度も下げている。

 校舎の影で誰かとぶつかったのか?

 彼女が消えると校舎の角から【漆黒の長い長い髪の毛に隠れた眼鏡】が俺を覗いていた。



 この日以降、呪いの効果なのか、後輩からタオルを手渡される事は二度となくなった。




………………




 やはりホルスたんが『俺に気がある』と思う事は危険すぎる。

 彼女とは【荷揚げ屋】のライバル。

 ライバルとしての彼女を失う事は【恋人】を失うよりも手痛い。

 彼女が俺に対して怒りを示している事は遺憾だがベスとアンから引き離せた。


 大局的に見ればベスとアンを取り戻す為の大きな障害を取り除けたと言える。


 戦果だけ見れば【泣けそうな展開】だが戦争は元よりむなしく悲しいものだ。

 この悲しみを乗り越えて、俺は俺の戦争を俺の為に、続けなければ犠牲が報われない。

 俺はベスとアンを必ず取り戻す。



 後は後方の4人。

 戦力比は1対4まで縮む。

 だがこれから相手をするのは敵本隊。

 いくさの本番はこれからだ。

 難易度の高いミッションが俺を待っている。

 愛娘達2人を連合軍から裏切らせて味方に付けると言うミッションが。



 ドカチーニさんとフィーナさんが座って履物を履いている。

 ベスとアンは裸足だ。

 この異世界で子供が履物を履いているのは裕福な家くらいだ。

 誘拐の心配もある為、わざと履物を履かせていない。

 別に俺がベスとアンを虐待している訳ではない。


 ベスとアンがわずかに2人から離れる。

 2人を味方に取り戻せばこの戦争も終わる。

 戦力比も3対2と逆転。

 停戦は確実だ。

 ここぞとばかりに俺は愛しい娘達へと声を掛けた。


「今日は久しぶりに食堂で夕食を食べませんか?」

「私達も丁度その話をしていました。今夜はドカチーニさんとフィーナさんと食べます」

「では5人で食事と言う事ですね」

「五人……ですか? 食卓は四人掛けですよ」

「何度も5人で食べた事ありますよね?」

「そうでしたか? 今日は四人で食べる約束なのです」

「私も御一緒したいのですが」


 こちらをチラリとも見ようとしないベス。

 同じくベスだけを見て体を支えながらコクコクうなずくアン。

 2人はかたくなに俺の提案を拒む。

 外交交渉は完全に膠着こうちゃく状態だ。


 そこへドカチーニさん達が会話へ参入してきた。


「ユークリット。背中から刺されないだけありがたく思え。嬢ちゃん達はお怒りだ」

「お怒りですか? 誤解を解く為にも食事を御一緒したいのですが」

「あらあら。ユークリットは二人の怒っている理由はわかっているのかしら」

「分からないからこそ御一緒したいのですが」

「今日はあきらめろ」

「今日は諦めなさい」

「絶対。絶っ対。絶っっ対。怒っている理由が分かるまでユークリットと口を利かないわ!」


 ベスさん。

 ベスさん。

 お怒りで我を忘れたようですね。

 敬語が無くなりましたよ。

 あなたは親しいヒトへしか敬語が無くならないのに。

 だが和平交渉の糸口が見えた!

 ベスは俺を親しいヒトだとみなしている。



 ドカチーニさん達4人がいつも俺が使っていた食卓へ移動する。

 その後のドカチーニさんは愉快そうにニヤニヤするだけ。

 フィーナさんは申し訳なさそうに両手を合わせてくれたが基本無視。

 残りの2人は全く俺の相手をしてくれなかった。

 俺など空気のように扱ってドカチーニさん達と4人で食事を楽しんでいる。


 ごめんネモ。

 俺がおまえを無視した時の気持ちは身に染みて分かったよ。

 直接謝ったりしないけどな。



 和平交渉どころでは無かった。

 圧倒的戦力差で戦争にすらならない状態。

 この期に及んで瀬戸際外交などやろうものなら【ペシャリ】と潰され戦争は終わるだろう。

 ベスが「口を利かない」と言った時点で勝負はついていたのだ。


 俺の戦争は終わった。


 自分の孤立を深めただけだった。

 得たものが全く無い戦争だった。

 唯一の救いは俺の心の中だけの戦争だったことだった。

 心の中は廃墟と化したが現実世界への影響は小さい。

 大人しく現実へ帰還しよう。

 個人の戦場において生還する事以上の戦果はないのだから。




 廊下を移動中に皆が俺を囲っていた謎は最後まで分からなかった。

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