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アルフィアさんへ土産を渡そう

 わずかに見えてきました投げ槍の特許料をもらい左団扇で暮らす異世界ウハウハ生活。

 こんにちは。

 ユークリットです。

 鉄さんとドカチーニさんが鬼ではなく仁王様に見えてきました。

 せっかく異世界来たのですから楽をして暮らしたいのが私の本音です。



 陽の傾きが45度を越えようとする頃。

 夕方となる前に斡旋屋へ帰る準備を始める。


 片付けながら訓練場での出来事が思い浮かぶ。

 良かった事は【動く的】とならずに済んだ事。

 悪かった事は【筋肉達】と常に行動を共にした事。

 危険をおかして女性と過ごすか、安全に男共と過ごすか、悩んだ結果である。

 俺は【安全】を選んだ。

 女性と言っても相手はシーリンさんだし。

 どう考えても【危険】と【褒美】が釣り合わない。


「また来いよ」

「はい。またお邪魔します」


 鉄さんと弟子達に見送られて訓練所を後にする。

 今日だけで色々な事があった。

 ありすぎた。

 頭の悪い俺では全て思い出す事なんて出来ないくらいだ。



 大事な事だけ忘れないように思い出して整理しておこう。

 俺はメモ帳なんて便利なアイテムを所持していない。

 羊皮紙は意外と高価だし。

 紙に至っては『存在すれども入手が至難』である。

 今日の出来事は脳へ刻み込んでおこう。



 絶対に忘れていけない事は【セーレ】の存在だ。

 彼はドカチーニさんの右目を悪気も無く奪っている。

 大怪我を負ったドカチーニさんだが、本人まで含めて誰一人としてセーレを恨んでいない。


 やはり異世界では現代日本の常識は通じない。


 法はあってないようなものだ。

 集団による不文律の約束事はあるが。

 基本的には強い者が正義であり法律だ。

 他人に俺の正義を押し付ける気は無いが、理不尽な相手の正義を跳ね返す力は欲しい。

 この異世界で生き抜く為には、どうあっても最低限の武力を保持しないといけないな。



 そんな事を考えながら歩く俺の近くにベスとアンがいない。



 果たして彼女達が俺をゆるしてくれる時は来るのか?

 お怒りの原因を確定していない俺は土下座以外に赦しをう武器を持っていない。

 上から「俺がお前達を育ててやっている」と言った瞬間に彼女達は俺の元を去るだろう。


 それだけは分かる。


 彼女達は確実に屋根付きの暖かいベットよりも雨ざらしの雑魚寝を選ぶだろう。

 彼女達へ依存しているのは俺だ。

 彼女達なしで俺は異世界を生きる気力がたもてるだろうか。

 はっきり言って自信はない。

 勝手気ままな独り行動は好きだが本物の孤独には耐えられない。

 どれだけ考えても彼女達からゆるしてもらう以外に手はない。



 俺は前を歩く4人を最後迄うらやましくながめながら斡旋屋へ歩いて帰った。

 愛娘達へ呪いの笑顔を向け続ける【笑顔を見てはいけないあのヒト】に左腕を極められて。

 仕事帰りの男共のヘイトを一身に集め続けて。



 斡旋屋へ戻ると入口に【臨時休業】の看板。

 ドカチーニさんから「看板を片付けておけ」と自然に業務命令をいただいた。

 シーリンさんに固められていた左腕をほぐしてから看板を持ち上げる。


 扉を開けて食堂へ入ると厨房からマリーが出迎えてくれた。

 ベルガーさんは厨房から現れない。

 俺は厨房の入口へ背嚢はいのうを置くとベルガーさんへ声をかける。


「ベルガーさん。お弁当ごちそうさまでした。背嚢は入口へおいておきます」

「おう」


 その一言で料理を作る事へ集中するベルガーさん。

 俺は食堂へと戻る。


 食堂でマリーはフィーナさんへ急患がいなかった事を告げている。

 フィーナさんはそれに対して「ありがとうマリー。助かったわ」と労いの言葉をかける。

 フィーナさんへの報告後、マリーの表情がわずかにかたくなる。

 どうやら俺の【新型怒り観測レーダー】はシーリンさん以外にも働くらしい。

 フィーナさんと手をつなぐアンへ向けてマリーが怒りを向けている事を察知。



 普段からマリーのすまし顔もポーカーフェイスだ。

 だがシーリンさんの笑顔に比べれば分かりやすいな。

 この世界に来て約2ヵ月。

 俺にも殺気と言うか危険を感知する能力が上がってきたのかもしれないな。


 スキル獲得インフォメーションは未だに鳴る事がないけど。


 現在は無視されているが愛しい娘へ敵意を向けるヒトをそのままにしておく訳にいかない。

 俺はマリーを迎撃すべく声を掛けた。


「ただいマリー。留守番お疲れさマリー」


 俺の迎撃は完全に成功した。

 返事は一切無いが彼女の怒りはしっかりと俺へ向けられる。

 ゲームにおけるタンクの役目の1つ【敵のヘイトを取る】事は完璧にこなした。

 目を合わせる事が怖いくらいに怒りを瞳に宿らせて無言でマリーからみつめられる。

 やだ。

 はずかしい。

 そんなに見つめないでマリー。

 瞳はキラキラではなくギラギラだけど。



 廊下に上がる為、新品のロングブーツを脱ぐ事に四苦八苦する俺を、2人が見つめる。

 シーリンさんは姉のような眼差しの笑顔で。

 マリーはフィーナさんへ付いていくと思ったが俺の事を待っているようだ。

 ブーツを脱ぐため座った俺はマリーを見上げる恰好。

 見下みおろす彼女の視線が俺を見下みくだしている。

 ヒトの顔は正面から見るよりも下から見上げる方が威圧感があるよね?

 やだ。

 はずかしい。

 そんなに見つめないでマリー。

 頭頂部はげてないよね?

 坊主頭だけど。



 俺がブーツを脱ぎ終わるとシーリンさんはたのし気な笑顔を浮かべながら受付へ。

 シーリンさん。

 行動の意味が分からなくて逆に怖いです。


 マリーは俺から離れない。

 少しばかり彼女のヘイトを集めすぎたらしいな。

 俺を見つめる彼女の瞳が血走っていてまるで怨霊のようだ。



 ベスとアンを俺の部屋へ連れて行くドカチーニさんとフィーナさん。

 4人が俺の部屋を入っていく事を見ながら、俺は病室へ。

 背後霊のように俺についてきたマリーが病室の前に立ちふさがった。

 マリーよ。

 俺を甘く見るな。


 霊に対する扱いは漫画やアニメで学習済みだ。


 霊が執着する何かで釣れば良い。

 ドカチーニさんから渡されたフィーナさんの医療鞄を少し離れた場所へ置く。

 背後霊は俺から離れて大事そうに鞄を抱えて診療所へと去っていく。

 除霊成功だ。

 俺がアルフィアさんと2人きりで話す為に必要な最小限の条件は突破した。

 いざ病室へ突撃だ。


「ただいま。アルフィアさん」

「おかえりなさい。今日はみんなで朝からお出掛けだったの?」

「はい。色々ありましたから片付けが終わったら話に来ますね。お土産もありますから」

『おい。ユークリット。土産はオレの分も当然あるのだろうな?』

「お土産なんて悪いわ」

「気にしないでください。これから必要になるかなと思って用意しました」

『オレの土産は当然あるのだろうな?』

「では看板を倉庫に片付けてきますね。すぐに戻りますから」

『オレの土産はどうした!?』

「分かったわ。待っているわね」


 どこからか再び幽霊の声が聞こえる。

 現代日本で過ごした人生では一度も幽霊を見た事は無かったが、ここは異世界。

 先程俺は背後霊の存在を除霊したばかりだ。

 地縛霊が居たとしても不思議はあるまい。

 可愛い女の子の地縛霊ならゆるすが、美男子だろうと男の地縛霊は赦さん。

 特に女の子の部屋に住み着く不埒ふらちな男の地縛霊はな!

 除霊グッズが無い今、霊感の無い俺が出来る事は【無視する】以外に選択肢を持たない。

 おっと違う。


 ここには幽霊すらも存在しないのだった。

 先程の幽霊っぽい声は幻聴だな。


 俺は久し振りに2人きりでアルフィアさんと話が出来た。

 しかも次に会う約束までしたのだ。

 杖を拾ってきて本当に良かった。



 病室から出ると、俺は自分の部屋の目の前にある、倉庫の扉を開けて看板を片付ける。

 港で使う物と同じ大きさが揃った木箱が所狭ところせましと積まれている。

 頻繁ひんぱんに使う看板は入口に置くだけだけど。

 ドカチーニさんとフィーナさんはまだ俺の部屋に入ったままのようだ。

 この短期間でベスとアンのお怒りが治まっているとは思えない。


 しばらく老夫婦に2人を任せよう。


 今自室へ戻っても、俺が土下座をしている未来しか見えてこない。

 ここは先にアルフィアさんの待つ病室へ行こう。

 彼女とは会う約束がある。

 楽しい事は楽しめるうちに楽しもう。




 俺はそう決めて、ルンルン気分で、アルフィアさんの待つ病室へ向かった。

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