新たな火種を拾う
こんにちは。
ユークリットです。
この異世界で外来語は基本的に『神から祝福されたモノ』へと使う言葉。
むやみに使うと【怒られる】だけでは済まない事を再認識しないといけませんね。
俺のプレゼンを聞いて、鉄さんがどこかすっきりした顔で、話し掛けてきた。
「そうか。客に自分の使っている槍とわしの槍を比べさせる訳か。若い衆。商売人なのか?」
「私は荷揚げ屋です」
「迷わず荷揚げ屋か。隻腕の。お前の言ったとおりだな」
「だろう。それでもようやく冒険者になる決心を付けたようだぞ」
「ドカチーニさん! まだ口外しないでください。ベスとアンに殺されます」
「若い衆。ベスとアンってのが冒険者になるのを反対しているお前さんの娘か?」
鉄さんがグラウンドに残っている女性陣を見ながら話を続けた。
俺は黙ってうなずく。
「若い衆。わしはお前さんを気に入った。冒険者になる事は周りへ黙っていてやる。その代わりお前さんの武具はわしに面倒をみさせろ」
「私は一文無しですよ?」
「銭はいらん。冒険者をしていたら素材が集まる。それを使ってわしが武具を作ってやる」
「私に不利益な事がありませんよ?」
この異世界に美味いだけの話などあるはずがない。
きっと裏があるはずだ。
鉄さんは詐欺を働くヒトには全く見えないけど。
「お前さんの実力を見て、わしが武具を作りたくなった。それだけだ」
鉄さんが俺の目を見据えて理由を説明してくれた。
鉄さんの瞳は子供のような純粋な輝きに満ちていた。
ヒトと目を合わせて話をする事が苦手な俺は目をそらしてドカチーニさんへ助けを求める。
「鉄さんに認められるなんて光栄な事だ。何も迷う事はない。お世話になれ」
ドカチーニさんの一言で俺の心も固まった。
鉄さんの目を見ながら礼を言う。
「ありがとうございます。これからご面倒をお掛けします。よろしくお願いいたします」
「嬢ちゃんと同じくらい硬い奴だな! おぅ。こちらこそよろしく頼む」
「真面目な奴だと言う事は俺が保障しよう」
「鉄さん。早速で悪いのですが大剣の手入れをお願いします」
「最初の頼みが大剣か。遠慮がない奴だな。だがわしも職人。一度口に出した事は違えんよ」
「いえ。これはヒトから借りた物ですから。きちんと手入れの料金は払います」
「料金は気にするな。大剣を使う冒険者は少ないからな。手入れは弟子の良い修行になる」
「ユークリット。俺の大剣か?」
「はい」
「何? 隻腕の大剣? まさかとは思うのだが……お前さんの両腕があった頃のやつか?」
「そのまさかだ。鉄さん。あの頃の大剣だ」
「若い衆。あれを振るったのか?」
「はい。あの大剣のお陰で命拾いしました。戦闘に使ったので手入れをしてから返そうと」
「なっ? 鉄さん。律儀で愉快な奴だろう?」
「そうだな。隻腕の。楽しみな若い衆が出てきたな」
ちょっとした悪事を企んでいるのか?
不敵に笑う2人の老人はアニメで出て来る悪人顔。
しかもラスボス級だ。
「たっぷりしっかりみっちり鍛えてやるつもりだ。なんせ俺の初弟子だからな!」
「それは良い! さて隻腕の。改めて商談だ。若い衆が居ても問題はないな?」
「まぁ良いだろう。俺に問題はない」
「わしは若い衆が言う通り『投槍器』と言ったか? この棒と槍を合わせて売ろうと思う」
「鉄さん。どちらも自分で作ろうと思えば作れる武具だぞ?」
「そこは素人が真似できない良い物を作れば問題ない」
鉄さんが自信を持って笑い飛ばす。
実際に自分が即席で作った投げ槍と比べても全く物が違う。
俺にはとても作り出せない素晴らしい【投げ槍】だった。
「それなら問題ないな。槍は変わらず一本十文。投槍器は百文。月八千文まで。どうだ?」
「その金額ではわしの丸儲けだな! 本気で良いのか?」
「そこは以前に説明した通りだ。こちらに異論はないさ。お前も良いな? ユークリット」
「私が何か関係あるのですか?」
「先程言っただろう? お前が手にする金銭の事だ」
「私がもらえるのですか? 相場が分かりません。全てお任せします」
「と言う事だ。鉄さん決まりで文句はないな?」
「わしもそれで良い。金銭の話をこれ以上お前さんとやればまた喧嘩になるからな」
「私が金銭をもらえるとは思いませんでした。生活費の足しになります。助かりました」
「若い衆も『助かりました』ときたか……全く……師弟揃って欲のない奴らだ」
「生きていくだけの金銭があれば十分だよ」
「本当ですね。私もそう思います。私は生きていく金銭を稼ぐ事すら大変ですが……」
鉄さんが愉快そうに笑って短い商談が終わる。
口約束だけだ。
それだけお互いの信頼関係があるのか?
それともこの異世界では口約束が基本なのか?
俺は、数は少ないが斡旋屋で契約した内容を思い出し、前者であろうと判断した。
長年の親友とは良いものだな。
いつか俺もネモとこんな関係になれるだろうか?
奴のドヤ顔を思い出して、胸がムカムカしてきた。
とても鉄さんとドカチーニさんのような関係にはなれそうもないな。
封印されし記憶の扉から「わたしは?」と出現する幼馴染はいつも通り蹴り戻しておく。
皆の待つ運動場へ帰ろうとした時に、ふと杖がまとめて置いてあることへ、目がとまった。
ベスにはまだ早いし少し丈も長いが、アルフィアさんには丁度良さそうな長さだ。
あれは買うと幾らくらいするのだろうか?
鉄さんへ聞いてみる。
「あそこにまとめられている杖は幾らしますか?」
「ああ。あれは自由に持ち帰って良いものだ」
詳しい事は鉄さんの代わりにドカチーニさんがこたえてくれた。
「怪我をした冒険者や兵士へ無料で貸し出されている杖だ。返しに来るも来ないも自由だ」
「なぜそんなものが?」
「本来ここは復帰を目指して頑張る奴が来る施設だ。怪我人の為に杖も置いてある」
「私が借りても良いのですか?」
「それは構わんがお前に必要あるまい」
「アルフィアさんにと思いまして」
「そうか。アルフィアの為か。女性相手に八方美人が過ぎるといつか背中から刺されるぞ」
「そこは大丈夫です。誰にも相手にされていませんから……」
「おまえは坊主だから大丈夫だとは思うが……いや坊主だからやばいのか……」
また【坊主】と言うキーワード。
誰に聞いてもはっきりとした答えは返ってこない。
俺がモテないのは【坊主】のせいなのか?
そんな事はないな。
自分で言っておいて何だが、女性陣が行った今日の仕打ちを思い返すだけで、悲しくなる。
髪型だけでどうこう変わるレベルではない。
俺を好きなのは結局誰もいないのかよ!
モテたいからと言っても、話すだけで好感度が上がり、他の娘と話すだけで背中を刺してくる、某ゲームの整備主任は……キャラ的には好きだが現実では勘弁願いたい。
待てよ。
今の状態ならば某整備主任とだって付き合えるかもな。
俺の事を好きなヒトが誰一人いない。
実にむなしいが。
気を取り直して、普段は話す機会すら少ない、アルフィアさんの事を考えよう。
とても同じ屋根の下で暮らしているとは思えないエンカウント率の低さだ。
病室の扉は常に開いていると言うのに強力なガーディアンがいるからな。
鉄壁マリーと言えどもお土産持参ならば病室へ入れてくれるだろう。
わずかなチャンスも逃さないようにしないとな。
ネモにばかり良い思いをさせてたまるか!
奴がアルフィアさんとイチャラブしているだけで1日2朱稼いでいる事を思い出す。
正直言って悔しい。
俺は1日500文稼ぐ事すら難しくなっている。
毎日相場で金銀と銭の価値が変わるらしいが、普段の生活では【2朱=500文】だ。
俺だってアルフィアさんと仲良くなりたい!
と思って話し掛けるだけで刺してくるヒトなのでやはり某整備主任様は嫁にすると大変だ。
数ある杖の中から良いと思われるものを選ぶ。
腋の下で支えるタイプの杖を一本選びアルフィアさんへプレゼントする事にした。
運動場へ帰ると、鉄さんの所で働いている若い衆達へ、投槍器の使い方を教える事にする。
この若い衆達も港の筋肉達と比べても遜色ない筋肉野郎共だ。
俺達が話をしていた間、彼らは独学で投槍器を使い、槍を投げていたが上手く飛ばない。
投槍器の持ち方からして変なので仕方ない。
俺が指導し始めると筋肉達が我先にと俺を囲んできやがった。
しかも全員の瞳がキラキラ輝いていやがる。
ちくしょう。
こんな筋肉ハーレムは要らない。
ドカチーニさんは4人の女性に囲まれていると言うのに。
たとえ異世界でも世の中は本当に不公平だ。
出来る事なら女の子からキラキラした視線を受けたいぞ!
そう強く思い愛娘達へ視線を向ける。
ベスとアンの2人と一瞬目は合ったが即座に視線をそらされた。
お姫様達のお怒りはまだ解けていない。
俺の事をキラキラした瞳で見つめてくれる女性もいない。
俺は気持ちが落ち込まないよう、彼らに教える事へ集中して、現実から目をそらした。




