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プレゼンテーション

 こんにちは。

 ユークリットです。

 放課後グラウンドの隅で俺の処遇を巡り2人の女性が話し合いの最中です。

 無理です。

 どんなに妄想しようとしても、この2人は美しい女性へ脳内変換できません。



 俺を真ん中にはさんだ筋肉ムキムキの老人2人がこれからの事を話し出した。

 俺の処刑方法でない事をひたすら祈る。

 2人共深刻な顔をしているが、俺の処刑ではないとすぐに分かり、ホッと胸をなでおろす。



「隻腕の。どうする?」

「なにか問題があるのか?」

「この若い衆が見つけた更なる投げ槍の改良だ」

「だからなにか問題があるのか? 呆れてものが言えない程の威力だぞ」

「それが問題だ。威力があり過ぎる。この棒さえあれば今まで作った槍が必要なくなるぞ」

「そうか!」

「この棒は槍程消費しないぞ。しっかりした素材で作れば間違いなく一生使える道具になる」

「つまり予定したほど槍の数が出なくなるって事だな」

「そういう事だ。一本十文では大した利益にはならぬぞ」

「全くだ。こんな便利な道具があるなら最初から使えと言う話だな」

「この棒は戦を変えるぞ。兵士達が赤の月や金の月の連中と戦えるようになるかもしれん」

「赤の月の巨大戦闘人形とは戦えるかもしれん。だが金の月の魔人相手には槍が当たるまい」

「確かにな! 当たらなければ威力が上がっても意味はないか」

「味方に当たるかも知れないしな」



 会話が一段落して、2人が声を出して笑いあうと、同時に俺の顔を見てくる。

 先程までと違い2人の顔は大分穏やかになっていた。

 これならば俺の処刑はないだろうと確信を深める。


 だが俺は自分がどうしてこの会話に参加しているのか分からない。

 蛇足ですがドカチーニさん『呆れて』は悪いイメージで使う言葉だと思いますよ。

 やはり銀の月の満月で、私が投槍器を使わず手で投げていた事を呆れているのですね。

 分かります。

 私も今日の今日まで投槍器の存在を忘れていましたから。

 現代日本でも映像で見た事しかありませんし。

 にもかくにも私の処刑の相談ではなくて良かったと安心しております。

 私は、商売の邪魔をしたようですし、なんらかの制裁を受けると覚悟しましょう。



 2人がじっと俺を見てくる。

 落ち着いてこの場をやり過ごそう。

 縄を巻いて投げやすくした槍を、投槍器を出した事で、無用の長物とした事がまずかった。

 何度も試作を繰り返し苦労して作った物を一瞬で役立たずにした。


 これから2人による鉄拳制裁が待っているだろう。


 それ以外に、俺がこの会話へ参加させられた理由は、思いつかなかった。

 2人共金銭にがめつくないし命までは取られないだろう。

 鉄拳制裁ならまだ良い。

 代わりの刑が無報酬の丁稚奉公を死ぬまでって事はないよね?



 3人の沈黙が続く。



 さて俺は俺で鉄拳制裁が始まる前にやれる事をやっておこう。

 少しでも刑が軽くなるかもしれない。

 両膝を大地へ預け土下座の姿勢を取ろうとするが今回は新品のロングブーツが邪魔をする。

 まるでブーツが意志を持ち「土下座なんてする必要ないんだからね」と言っているようだ。

 足首も膝も関節部が上手く曲がらない。

 はたから見ればガクリとひざをついた格好だ。

 その姿勢を見て2人が真剣な顔つきで俺の両肩にそれぞれの手を置いた。

 ブーツの裏切りで中途半端な土下座になってしまった俺は『終わった』と覚悟を決める。


「槍が一本売れるごとに十銭入る予定だった事は残念だが、そんなに落ち込むな」

「全くだ。隻腕の。自分のもうけ話を自分で駄目にするのだからな」

「投槍器だったか? 減った分はこの棒を売る時の分け前を増やせば問題あるまい」

「……???……2人は何をおっしゃっているのでしょうか?……」

「言ってなかったか? お前の考えた槍の改良が銭になったのだ。一本売れる毎に十文だ」

「初耳です」

「これまでの試作が無駄になったのは残念だがな」



 槍の試作が無駄になったと聞き、身の丈を超えた発言だろうが、俺は即座に反論を決めた。

 制裁が無くなったどころか相手は俺に対して『悪かった』と思っているまである。

 ここは口を出しても大丈夫な場面だ。



「槍の製作は全くの素人しろうとですが口を出してもよろしいですか?」

「勿論だ。実際に使ってみての感想ならば大歓迎だ」

「では。この異世……この国の槍は規格がそろっていません。槍毎に重心が異なる為、同じ様に投げても同じ様に飛んでいく事が無いのです」

「槍は武器職人がそれぞれの最善を尽くして作っているのだ。形が違って当然だろう?」

「まぁ待て鉄さん。まずは話を聞いてみよう。ユークリット。結局何が言いたいのだ?」

「少し話が長くなります……」



 俺は槍を投げる時に形が統一されていない場合の不利な点。

 対して槍の形が統一された事による利点をあげていく。

 そのうえで鉄さんが試作した槍の良い所をべた。

 槍の重心が投げる事に適している事。

 握りの位置に縄が巻いてあり、はっきり分かりやすい事。

 加えて縄に指が掛かる為、槍へちからを伝えやすい事。

 最後にもう一度『何よりも槍の形が全て統一されている事』を良い所として述べた。



「以上の点から投槍器とセットで改良槍の販売を具申ぐしんいたします」

「「セット?」」

「あっ。すみません。神の言葉で『合わせて』と言ったところでしょうか」

「ユークリット。お前は神の言葉に詳しいのか?」


 ドカチーニさんの瞳が恐い。

 隻眼となり迫力が落ちるどころか目力めぢからが1つに収束されて増した気がする。

 額同士がくっつくほど近づけて覗き込む瞳に、心の奥の奥まで覗こうと言う意思を感じる。


「私が常識記憶喪失である事は知っていますよね? どうやら故郷では頻繁ひんぱんに神の言葉が使われていたようで、自然と口から出てきてしまいます」


 俺の言葉を聞いてドカチーニさんが何かを言いかけて止める。

 溜息を1つ吐くと改めて口を開いた。


「そうか。確かにネモの奴も良く使うな。気を付けろよ。神の言葉はむやみに使うな!」

「今日はシーリンさんにも注意されました。気を付けます」

「そうしてくれ。話がそれたな。神の言葉を使わずに言うとどういう事だ?」


 ドカチーニさんの顔が離れて元の質問へとかえる。

 普段から外来語をなるべく使わず話をするように心がけないとな。

 コップとかスプーンとか日用品の多くが外来語を使っているので使用する判断には困るが。


「それは『投槍器で他の槍も使えますが専用の改良槍を使う事で威力と精度はより増します』と宣伝して売れば改良槍も無駄にならないと思います」

「ほぅ。無駄にならないか?」

「投槍器も売りに出した時、最初は手元にある槍から使うと思います。勿体無いですし。ですが改良槍自体の出来も素晴らしいので他の槍よりもはるかに投げやすい。試し投げをさせたりして自分が使っている槍との違いを見せつければ確実に売れると思います」




 鉄さんが腕組みをして考えをまとめている。

 しばらくして決心したのか彼は口を開き話を始めた。

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