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思わぬご褒美

 全力で後悔中のユークリットです。

 最初の挨拶を忘れていました。

 こんにちは。



 本当に俺は莫迦ばかだ!

 セーレの存在があまりにも大きくて大切な事を忘れてしまっていた。


 シーリンさんは無事か?


 水面へ大きな物が落ちる音のした方向へと目を向ける。

 トモウェイ川の水面はとても静かだ。

 舟の通る時に出来る小さな波しか立っていない。

 何度水面を見回しても誰かが溺れているような乱れはない。

 まさか水の底へ沈んだ?


 つい先日、俺は『異世界で生きていく』と、覚悟を決めたはずだ。

 だが俺の覚悟は、ほんの少し平和の空気を吸うだけで、完全に霧散する。

 ドカチーニさんが右目を失った事もどこか絵空事に感じてしまう。

 下手へたをしたら右目を失っていたのは自分だったかも知れないのに。

 俺はすぐに気がゆるむ。

 俺の性格が異世界を生き抜く事へ向いていない。

 俺は常日頃から危機感も緊張感も全く足りていない。

 何度危険にさらされても3歩歩けば異世界の危険を忘れる。



 何を考えているユークリット!

 くだらない反省はあとだ。

 今はシーリンさんを探さないと。

 本当に取り返しがつかなくなる。

 彼女を失ったら後悔で俺の心が潰れる。



 懸命に川を探す俺の心配を裏切り背後からシーリンさんの声が聞こえてきた。

 何とも嬉しい裏切りがあったものだ。

 安堵と言う名の温かさが、心臓から始まり手足の末端まで、体の隅々へ広がるのを感じる。

 振り返ればシーリンさんが真顔でドカチーニさんの心配をしていた。

 笑顔ではない彼女の顔を見る事は本当に珍しい。

 現代日本の川で【めだかの学校】を探し出すくらい大変な事だ。


 シーリンさんは、両手でドカチーニさんの顔を優しくはさみ、右目を確認していた。

 今にも泣きそうな彼女の顔を俺は初めて見た。

 心臓が『ドキンッ』と不整脈を打つ。

 胸に一瞬だけ痛みが走った。


「館長。右目は大丈夫ですか?」

「ああ。問題ない。魔人と遭遇して俺の右目一つで済んだのだ。悪くない結末だ」

「ご自分の片目を失ったのですよ!? そんな事言わないで下さい……」

「シーリン。俺にとってはおまえが無事だった事の方が嬉しいよ」

咄嗟とっさの事で体が勝手に動いてしまいました」

「良い反応だったが相手は選べよ? 今ではおまえに勝てる相手を探す方が大変だろうがな」

「……館長……」

「何を泣きそうになっている」

「ごめんなさい。こんな時にどんな顔をすれば良いかわかりません」

「笑え。シーリン。いつもの笑顔でな」


 ドカチーニさん。

 そのセリフは私がシーリンさんへ言いたかったです。

 少しばかり言い回しをかえて。

 今まで一度も見た事が無い、うれいを帯びた、彼女の笑顔。


 その笑顔に私は見蕩みとれてしまいました。


 私の心臓が再び不整脈を……今度は一度で終わらないから不整脈ではありませんね。

 私の心臓は高鳴り続けました。

 胸が『キリキリ』と締め付けられるように痛いです。


「はいはい。二人共。寸劇はそこまでよ。シーリンちゃんに怪我がないか診ますからね」

「わたしは大丈夫ですから」

「あなた達の「大丈夫」は親娘おやこ揃って信頼ないの。そうよねぇユークリット」

「ひゃい!」

「と言う訳よ。シーリンちゃん大人しく診察されなさいな」

「わかりました。お願いします」


 シーリンさんの笑顔に見蕩みとれていた俺は突然の事で上手く返事が出来なかった。

 フィーナさんはシーリンさんに怪我がないか確認している。

 彼女に怪我はなさそうだ。

 心臓の高鳴りも治まってきた。

 シーリンさんへ見蕩れるなんて気の迷いも良い所だ。

 彼女から受けた仕打ちの数々を思い出せユークリット!

 先程の笑顔は記憶の扉の中へ封印しよう。

 ドカチーニさんの言う通り。

 天災とも言える【魔人セーレの襲来】で全員の命が無事だった事を喜ぼう。



 魔人セーレと言う名の天災が去って安堵する俺の目に思いがけないご褒美が飛び込む。



 シーリンさんの貫頭衣ふくは体へジャストフィットした一点物の特注品だ。

 最高品質の生地きじゆえに水へ濡れて、何とも言えない色気があるつやを出し、体にピタリと張り付き、彼女の美しい体のラインをいつも以上に浮かび上がらせる。

 胸の膨らみ具合も先端の位置と形もはっきりと認識出来てしまった。

 付け加えれば彼女が【ノーブラ&紐パン】であると確定してしまった。


 胸本体の膨らみは小さいが、先端部分は単独で貫頭衣を持ち上げるほど尖っていた。


 先程の【愁いを帯びた笑顔】を完全に忘れる為、彼女の体を妄想の中でもてあそぶ。

『アナログスティックのように両手の親指でクイクイ操作しながら時には押し込みたい』

 なかなか良い感度だ。

 操作後の反応も素晴らしい。

 そんな不埒ふらちな事を俺は全力で妄想する。


 この妄想を現実で行動へ移したら間違いなく殺されるな。


 反省する時間をたっぷり与えられ……謝っても決してゆるされない……そんな結末。

ももまでひらいたスリットから手を入れて紐を引く程度に欲望を抑えないと』

 これも実行後の未来がみえる……いや俺の未来が途切れて完全にみえなくなるな。



 いかん!

 緊急事態だ!

 妄想が今の俺には『エロ』過ぎた!

 愛娘達と共に暮らし始めてから、ほとばしるる白いパトスを、打ち上げた事がない。

 口が縦に裂けている俺の亀さんが首を伸ばして貫頭衣ふくの裾を持ち上げ始めている!



 誰かへ「こんにちは」した瞬間に、首を伸ばした俺の亀さんは、斬首が待ったなしだ!

 俺はアンと繋いだ手を離し、亀さんのポジションを微調整、彼女の右肩に置き体を寄せる。

 アンのフワフワな髪の毛で俺の亀さんは完全に隠蔽いんぺいできた。

 これで一安心と思った俺の首へとベスが、腰へとアンが抱きついて、声を殺して泣く。

 子供にはとても怖ろしかったのだろう。

 俺も怖ろしかった。

 幼女2人に抱きつかれ亀さんの首を硬く伸ばした変態を今日は誰もが許してくれるだろう。

 右目を無くしたドカチーニさんも心配だが、俺には両腕に抱えた2人の方が大切だ。

 俺は自分と2人に対して「もう大丈夫だから」「安心だから」と何度も言い聞かせていた。



 俺の心と亀さんに平和が戻り、愛娘達2人の震えが止まる頃、周囲の様子が見えてくる。

 ドカチーニさんはフィーナさんから治療を受けて右目には包帯が巻かれている。

 大分遅くなったが俺も彼の安否確認をした。


「ドカチーニさん。右目は大丈夫ですか? 今日はもう斡旋屋へ戻りますか?」

「ユークリット。おまえも同じ事を言うのだな。良いか。今日の予定は絶対に変えないぞ」

「右目を無くしたばかりなのですよ!?」

莫迦ばか野郎! ここで予定を変えたらあの魔人へ俺が負けた事になるだろうが!!」


 今回の負けっぷりでどうやったら負けていない事になるのか理解できない。

 だが俺も競技者だ。

 試合に負けても、気持ちだけは負けたくはない【意地】なら分かる。

 俺も、心意気と言う面では、ドカチーニさんがセーレへ、何一つ負けていないと断言する。


「分かりました。では予定通り私の注文した長靴ちょうかを取りにいきましょう」

「靴屋か。革製品を扱っているな。丁度良い。俺の眼帯も作ってもらうとしよう」

「今日は他にも行く場所があるのですよね? 時間は大丈夫ですか?」

「心配するな。今日は時間をたっぷり取っている。予定通りならば靴屋の後は昼飯だな」

「そうですね。せっかくベルガーさんが弁当を用意してくれたのですから」

「うむ。楽しみだな」



 今朝の計画通り、異原いはらの城門近くにある、靴屋へと向かう。

 行く途中でドカチーニさんが普段より陽気に見えるのは強がりだろうか?

 それとも周りが暗い分、対比で、彼が陽気に見えるのだろうか?

 俺が片目を失ったとしたら、我を見失い、気が動転した後に、気落ちしているだろう。

 だが現実は、目を失った本人が、周りを励ましながら目的地へと向かう事になった。


 現代日本では滅多に遭遇しない危険と遭遇した。

 異世界も平時は現代日本と同じくらい平和だと思う。

 平和な空気を一口吸って、俺は自然と気が抜けて、日常へ戻ってしまった。

 比べてドカチーニさんはつとめて皆の気持ちを日常へ戻そうと振る舞う。



 靴屋の扉を前にした時には心が大分軽くなっていた。

 俺は『ドカチーニさんには一生かけても勝てないのだろう』と感じてしまう。

 だからこそ心の底から思う。




 このヒトを師匠に選んで良かったと。

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