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黒の月との関係

 ベスとアンが互いに水を掛けていた遊びのような戦争は私を巻き込み終戦しました。

 こんにちは。

 ユークリットです。

 ベスとアンの機嫌が良かったのは一瞬だけでした。



 濡れた股間の処理が全く思い浮かばない。

 この股間の染みは俺の身の内からほとばしった黄金水の跡にしか見えない気がする。

 これから長靴ブーツを取りに行くウキウキした気分は台無しだよ。


 だが俺は大人だからな。


 所詮しょせん子供のやった事。

 この程度の事ならば水に流してやろう。

 助かったなベス!

 何かをたくらんでいるように笑う正面のシーリンさんも怖いしな。

 俺は『ジーッ』と見つめて彼女の動向を見守る。

 彼女も目を細めて極上の笑みを返してくるが俺には見えている。

 何かを企んでいる冷めた瞳が。


 あれ?

 ベスまで私の心を読んだのですか?

 再び川の水を右手ですくう事はやめましょう。

 お願いします。

 おかわりは勘弁してください。

 俺の足を蹴り続けてくれる方がずっと良いです。


 自分の右手でベスの右手をおさえます。

 二の腕がベスの胸を触ってしまっていますが大丈夫です。

 決してわざとではありませんし、密着した彼女の胸から、膨らみは全く感じ取れません。

 ベスは顔を真っ赤にさせながら完全に沈黙。

 何とか無事に第2次爆撃を防げたようです。

 蹴りも気持ち優しくなりました。


「ユークリット。先日は誰と二人で渡し舟に乗ったのだ? 詳しく話を聞こうか」

「あらあら。その話はあたしも詳しく聞いてみたいわね」

「2人で渡し舟なんて乗っていませんよ。船頭を含めて20人でしたから。桁が違います」

「ほう。そのくだらない言い訳をいつまで続けられるかな?」


 私がベスの新型水掛爆撃おかわりを防いでいると敵本隊が後ろからやってきました。

 右足への蹴りが再び強くなった気がします。

 左隣にいる鬼から、股間にぶら下がるものが縮むほど、怖ろしい声で語りかけられます。

 左前にいる魔女は、子供達をお菓子の家へ誘うような、優し気な笑顔が凄く不気味です。

 目の前にいる笑顔魔人は嬉しそうですが、私の不幸を気に入っていただけて何よりです。

 全身の寒気とあそこが縮むのはベスに冷たい水を大事な部分へ掛けられたからですよね?

 ぶるりと震えた私に今度は背後から抱きしめるヒトが現れます。


 この瞬間まで彼の事をすっかり忘れていました。

 どうやらドカチーニさんも私と同じようです。

 私の左隣から突然温度が上がった空気を感じます。

 正面に座る3人も『はっ』とした表情が一瞬浮かびました。


「ドカチーニ君。凄い殺気だね。なんだかボクもたぎってしまうよ」


 セーレだ。

 右腕を俺の首から回して左脇の下へ。

 左腕を脇腹をぐるりと回して俺へ密着すると左耳へ至近距離からささやかれた。

 彼から漂う凄く良い匂いに心が休まる。

 心の中の敬語は止まったが、別の意味で、ぶるりと震えが体中を駆け巡る。


「ユークリット君。ボクの滾りでキミの凍えた心を温めてあげるよ」

「全力で遠慮してもよろしいですか?」

「ボクはキミに興味があるんだよ? キミがボクに遠慮する事なんて1つも無いのだよ?」

「では遠慮せずに言いますね。私から離れて下さい」

「ヒトがもっとも嫌がる事を要求するなんてキミも魔人かい? 今のキミは周囲から一斉に負の感情を向けられているのだよ。こんな気持ちが良い場所を離れる得がボクにあるかい?」

「あなたが私と立場を代わってくれると言うならば、すぐにでも代わりたいですよ」

「良いよ。ボクはその方が嬉しいよ。是非キミからボクへ抱き着いてきて欲しい」

「私が代わって欲しいのはそちらではないのですが」

「良いね。実に良いね。キミが後ろから回してくれた腕にボクがそっと手を添える」

「ですから!」

「実に滾るじゃないか!」

「……いえ……もう良いです……」



 この男早く何とかしないと!

 俺だけではセーレをどうこうできそうにない。

 周りに助けを求め周囲へアイコンタクトを送ろう。

 左からは変わらぬ威圧感を、右からは非難の視線を、直接見ずとも肌で感じる事ができる。

 アンを見れば氷より冷たい視線で俺を射抜いている。

 シーリンさんへ視線を移せば『死ねば良いのに』と読み取れるお怒りを昇華した笑顔。

 フィーナさんも笑顔だが、俺の状況を心底楽しんでいる雰囲気で、助けてはくれなさそう。


 四面楚歌の状況の中、背後から抱きしめられる2つの腕が、本当に温かく感じてしまう。

 セーレさん。

 俺を好きなのはあなただけかも。

 そんな温かみも、彼が俺の耳元で発した一言が、全て吹き飛ばした。



「やっぱりね。キミからは黒の月の匂いがするよ」

「黒色ではなくて黒の月ですか?」

「呼び方は黒色の月でも良いよ。些細な事だからね。キミが神から授かった能力は何だい?」

「神ですか?」

「そう。自らを神と名乗る者にキミは会ったのだろう?」

「残念ながら会った事はないですね。あなたが本当に魔神ならば、あなたが初めてです」

「あははっ! 神と魔人は全く別の存在だよ。ヒト族から見ればどちらも神に見えるだろうけどさ。だけどキミは違うだろう? キミの体からは青の月の魔力が一切感じ取れないよ」


 周囲の俺を非難する視線は消えていた。

 皆の視線と警戒が、俺の背中に張り付いた、セーレへと移っている。


「どうしたのだい? 一斉にボクの顔を見つめて。ボクは何かおかしな事でも言ったかな?」

「いや。ユークリットの事は俺も薄々感じていた事だ。確信は無かったがな」


 左隣の鬼が威圧感を増しながらセーレへ答える。

 周囲も、驚きと戸惑いを一瞬浮かべるが、すぐに覚悟を決めた顔になる。

 アンも含めてだ。

 ベスが俺の右腕を抱きしめるように身を寄せて手を『ギュッ』と握ってきた。

 俺の首に回されたセーレの右腕が邪魔で彼女を直接見る事は出来ない。

 だが繋がれた手からは『何があっても手を放さない』と彼女の気持ちが伝わってくる。

 彼女からの蹴りはいつの間にか止まっていた。


「どうやら周りのヒト族もキミの事に気付いていたようじゃないか。さぁ。キミが自称神から授かった能力を教えてもらえるかな?」

「本当に私は神様と会っていませんから」

「うん。キミは慎重だね。切り札は最後まで見せない方が効果的だからね」

「こいつの事は俺が保障しよう。こいつは黒色の月の化け物共とは違う。色々疑わしいところは多いが、黒の連中の一番の特徴である、唯我独尊的なものは一切無い。性格も能力もな」

「それは本当かい? キミの右目に誓って絶対に嘘は無いのだよね? 嘘ならばキミの右目をもらうよ。本当ならばキミに左腕をあげよう。自慢じゃないけどボクは約束を必ず守るよ」

「誓おう。だが俺の左腕を治すだって? おまえの方が嘘吐きだな」

「ボクが嘘吐き? ユークリット君。キミはどうだい? 本当に黒の月とは無関係なの?」

「黒色の月の話は聞いた事はありますが、私は全くかかわりありません」

「ではキミも右目に誓えるかい?」

「何が起こるか怖くて誓えません」

「そうかい? それならお互いが出来る願いを1つ聞く事にしよう。それでどうだい?」

「不条理な願いに対して私の拒否権があるのならば」

「ユークリット君。キミは思った以上に慎重だね! 良いよ。ボク好みだ」




 セーレが沈黙すると周りからも音が完全に消えた。

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