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俺の味方は?

 おはようございます。

 いえ、こんにちは、でしょうか。

 微妙な時間ってありますよね?

 ユークリットです。

 今日はロングブーツを取りに行く楽しい日のはずが朝から逆風へさらされています。

 気持ちを盛り上げたくても、周りがそれをゆるしてくれません。



 今日一緒に出掛けている6人の内3人が明らかな敵という状況で思う。

 敵ではないけど冷ややかな空気を俺の周りで作り出している3人に囲まれてが正しいのか?

 とにかく俺は『どうせなら斡旋屋全員で出掛けたかったな』と思った。

 少しは俺の扱いも上向くだろう。


 ホルスたんは誘うのが遅すぎた。

 ネモを誘う?

 誰だっけそれ?

 血の涙を流しながら俺へ【呪い】を掛けてくるような人間に知り合いはいない。

 ベルガーさんとアルフィアさんは仕方ないがマリーはどうして付いて来ないのだ?

 彼女がフィーナさんよりもベルガーさんを優先するだろうか?

 もしや2人はいつの間にかそんな関係となったのか?

 1つ思う事があり、俺はフィーナさんと話をする為、隊列を2つ上げて彼女へ声を掛けた。


「マリーがフィーナさんと共に行動しないなんて珍しいですね?」

「マリーは昼食の支度を手伝っているの。あとは急患への対応ね。だからあたしと別行動よ」

「最近フィーナさんはドカチーニさんと2人で買い出しをしているのですよね?」

「毎日ではないが一緒の時が増えたな。なぜか厄介毎が増える。お前達も覚悟しておけよ」


 ドカチーニさんが俺とフィーナさんの会話へ参加をしてきました。

 彼の言葉で私も金色の月が満月になった日を思わず思い出してしまいました。

 アルフィアさんの治療を含めた、数々の凄惨せいさんな現場が脳裏に再生されます。


「私もフィーナさんの行く先が自然と【地獄】になる事は分かってきました。ベスとアンを近づけないようにします」

「あらあら。それだとまるであたしが魔女か悪魔のような言い方ね」

「おいおい。忘れちまったのか? お前は一度神殿から【魔女】と認定されているだろう?」

「そうだったわ。あたしは悪い【魔女】よ。あなた達も巻き込まれないように気を付けてね」


 可愛くウインクをする彼女に「以前から魔女だと思っていました」という言葉を飲み込む。

 半世紀生きて姿形が変わった所は【白髪が増えただけ】と言う話だ。

 俺はフィーナさんを【本物の魔女】だとは切実に思うが【悪い魔女】だとは思えない。

 マリーとベルガーさんの関係を聞く事は出来なかったが聞き直す雰囲気でもない。

 だがフィーナさんがマリーの行動を容認している事だけは分かった。

 そして昔の彼女の姿を知らないが若々しい事も事実だ。


 余談だが斡旋屋全員で来ても俺の敵は割合がほとんど変わらないな。

 数が増えるだけ面倒な事になりそうだ。

 良くても中立で俺の味方はいない気がする。

 唯一ホルスたんが頭をよぎるが最近はシーリンさんの悪影響を受けて角で背中を突かれる。

 刺さるような事は無いが結構痛い。

 俺の味方はいないのか?

 突然脳内に『呼んだ?』と直接声が響いて返事がきたけど記憶の扉の中へ蹴り戻しておく。



 その後一行はあまり会話をする事なく目的地へと進む。

 最初の目的地は河岸かしの市。

 俺はあまり気乗りしない。


 隊列は俺がフィーナさんとの話を終えて、1列後ろへ戻った事で、2列となっていた。

 前列の2人は『会話など必要無い』とばかりに時々視線を交わし静かに笑い合うだけだ。


 爆発しろリア充共。


 後列は4人が並ぶ。

 密着した俺達3人と1人歩くシーリンさんだ。

 シーリンさんは元々自分から騒ぐようなヒトではない。

 そして今日は前回のお出掛けと比べてベスが静かだ。

 前回のお出掛けの時と違い、俺を「あっちへ行って」「今度はこっち」と操縦しない。

 左腕の中で機嫌悪く、俺がベスの方を向けば、「ふんっ」と顔をそむけるだけだ。

 ベスを見ていない時は、彼女からの視線を感じているのだが。

 会話が一切ない沈黙が続くなかアンは突然の行動をおこす。



 道中、1人で歩いているシーリンさんの事を寂しく思ったのか、アンがあいている右手で彼女の左手を握る。

 俺は『やるなアン。警戒される事なくシーリンさんへ触れるとはなかなかの武芸者よの』などと感心していると、シーリンさんが満面の笑みに【おん】の文字をのせて、容赦なく黒い波動を俺へ叩きつけてくる。

 シーリンさん。

 なぜアンではなく私なのですか?

 満面の笑みから取れる感情は【おん】か【おん】が良いです。

 お願いですから笑顔に【怨】を込める事だけは止めてください。

 アンに向ける笑顔と俺へ向ける笑顔に込められる念があまりにも違い過ぎて怖いです。


 諦めの境地。

 内情がどうあれ、この場はシーリンさんと、恋人か夫婦の擬態ぎたいを全力でしよう。

 ベスとアンがいる事だし妄想ここは脳内夫婦で決まりだな。

 見た目だけはリア充!

 どうやっても通行人から俺が恨みを買うのなら、少しでもこの状況を、楽しまないと損だ。



 外へは笑顔を振り撒き、内では笑顔魔人へ怒りを鎮める歌を歌い続け、リア充へ擬態する。

 大丈夫。

 こんな時こそ隠されし俺の異能力の出番。

 俺の異能力は【妄想嫁の現実化】であり、今回の嫁はテクスチャを張り付けるだけ。

 素体が用意されている嫁の再現はいつにも増して完璧で容易な作業だ。

 脳内嫁と子持ちデートは数えきれないほど様々なシミュレーションを重ねている。

 その中でも双子姉妹ヴァージョンは俺のお気に入りシチュエーションの1つだ。


 大切な事なのでもう一度言う。


 俺の異能力を使えばリア充と言えど【擬態】は完璧。

 リア充よりもリア充らしく理想のリア充を演じる事が可能なのだ。

 常に「爆発しろ」と呪いを込めるべくリア充共をガン見していた成果と言えよう。


 異能力発動中の俺へ、ベスは首へまわしている右手を使い、ほほをつねってきた。

 ベスの顔を見れば至近距離から炎の矢を瞳から容赦ようしゃなく放ってくる。

 俺の娘はそんな厳しい瞳で親を見たりしませんよ?

 怒りの矢は俺の瞳とシーリンさんのかんざしを交互に射抜いていた。

 今まで、この様なシチュエーションは、俺のシミュレーションの中にはなかった。

 どうやら大型アップデートがされて新たなシチュエーションが加わったようだな。


「ベスさん。ベスさん。どうして私のほほをつねるのですか?」

「だらしなくゆるんでいるようでしたのでつかみやすかったのです」

「アン。私はベスへ何か悪い事したのでしょうか?」

「あなたに覚えが無いのでしたら何も悪い事はしていないのでしょう」


 ベスは最後に周りの喧騒けんそうで聞き落としそうな小さな声を発した。

 アンが2人の会話を聞いて笑顔で見上げてくる。

 彼女とつないだ手から伝わるぬくもりと違い、瞳の氷は全く溶けてはいなかった。

 アンまでが、俺の顔とシーリンさんのかんざしを、交互にみつめる。

 アンさん。

 アンさん。

 無理して笑顔でいる必要はありませんよ。

 笑顔だけはどこかの受付嬢を見習わないでください。



 今日は娘達の視線が冷たすぎます。

 脳内シミュレーションではどんな時でも温かい視線を俺に向けてくれていたのに!

 現実ではずっとそっぽ向かれていましたが。

 それを考えれば一瞬だけでも目が合うようになった事は進歩なのだろうか?

 ちょいとばかり瞳の輝きを増す脳内処理を行うだけの作業となり楽になるはずだ。

 大好きなお父さんと目が合って恥ずかしくて目を背けるシチュエーションへ脳内変換だ。


 だが周囲の状況は俺を幻想の世界へ引き籠る事を拒む。

 独り身の男性陣は視線が【呪いの視線】から【敵意のこもった視線】へと変わっていた。

 ここは俺へ【羨望の眼差し】一択だろう!?

 シーリンさんはいつもの笑顔で前だけを見据みすえて俺の方へ視線を向けてくれない。

 ここは前を歩く2人のように視線を交わしてからの極上の笑みをくれないと駄目だろう?

 真ん中で2人と手を繋ぐアンだけが俺とシーリンさんをかろうじてつなげてくれていた。

 ふと『かすがい』とことわざが頭をよぎる。


 親2人は外から見れば仲良く見えるだけの、中では冷戦状態が続く、離婚直前の夫婦だ。

 今まで前を見据えていたシーリンさんが突然俺へ笑いかけてくれる。

 脳内妄想では時折見つめ合っていたが、現実では起こり得ない事に、俺は動揺した。



 極上の笑顔で残念なヒトを見る視線はやめてくださいシーリンさん。

 あなたは本当に私の心の中を覗いていませんよね?


 シーリンさんと瞳が合った瞬間の事だった。


 今まで夢とうつつの狭間にぎりぎり居れたのに。

 俺の異能力で作り出した妄想せかいが一瞬で粉々に砕け散る。

 流石さすがはシーリンさん。

 妄想デリューョン破壊者デストロイヤー



 俺の魂が現実世界へ帰還してしまった。

 俺は周囲へ『一見仲の良い家族に見えますけど中身は全く違いますから』と叫びたかった。

 叫んだ後の方が怖そうなので出来ませんけど。

 港湾施設の筋肉達へどんな言い訳をしても無駄だろう。

 俺だけ倉庫の裏に連れ出され、飛び散った血が染みついた裏路地で、鉄拳制裁が待つ。


 すれ違う通行人のドカチーニさんとフィーナさんへ向ける温かな視線の後は冷たい視線へ。

 ただの被害妄想かも知れない。

 きっと被害妄想なのだろう。

 知りもしないヒトが俺を見ているなんてありえない。

 だが俺の主観では間違いなく感じるのだから仕方ない。

 その後俺達……正確には俺個人へ向けられる冷たい視線は港橋へ着くまで続いた気がした。



 旅から帰って来てから、ホームグラウンドであるはずの湾岸施設が、完全アウェー状態だ。

 このアウェー体験が今日の被害妄想へ繋がっているのかも知れない。

 港で俺の待遇は本当に悲惨だからな。

 現在たすきおじさんは他の仕事をしていて、倉庫にいない為、俺の味方はホルスたん1人。

 例え背中を角で突かれても「あれは彼女の愛情表現」と俺に都合よく脳内変換しておく。


 まったく、ホルスたんは最高だぜ!!


 今日のお出掛けに彼女がいてくれたら俺の待遇は良い方向へ変わっていたかもしれない。

 シーリンさんをホルスたんへチェンジするだけで楽しく仲の良い家族になりそうだ。

 ベスとアンがホルスたんの事をあまり良く思っていないみたいだから家族は無理かな?

 ホルスたんとの2人きりのデートなら……それはそれでありだな。




 選択できなかった世界線の1つを残念に思う。

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