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正しい土下座の使い方

 楽しかった会話が止まり急に静かになった部屋が怖いです。

 まるで会話と共に時が止まった感じがします。

 朝方の比較的涼しい時間帯と言うのに、私の顔を流れる汗は、床に染みを広げ続けました。


 おはようございます。

 現在娘達へ謝り続けているユークリットです。

 ゆるしてもらえる様子は全くありません。

 

 静まり返った部屋は亡くなったお祖母ばあちゃんの家を私に思い出させてくれました。

 お祖母ちゃんの静けさも、そこだけ時が止まった錯覚を覚えた事があります。

 柱時計の規則正しくとききざむ音だけが時間の進みを教えてくれました。

 ここには柱時計がありません。

 今は時が過ぎている実感がありません。

 それでもひたすら土下座を続けるしか私には打てる手がないのです。



 私は一体どれだけの時間を平伏していたのでしょうか?

 ベスとアンの怒りの波動は未だ頭上から感じ取る事ができます。

 人は怒りを30分しか持続出来ないという話を信じて静かに時が流れるのを待つだけです。

 完全に足がしびれて感覚は無くなりましたけど土下座をやめたり出来ません。

 エコノミー症候群よりも怖ろしい2人の沈黙が破られていないからです。



 部屋の外からかすかに聞こえる鳥の鳴き声、波の音。

 部屋の中からかすかに聞こえる布のれる音。

 耳をすませばベスとアンの息遣いすら聞こえて来そうな静寂。

 そんな静寂は突然破られました。

 扉を激しくノックする音と共にホルスたんの大声が部屋中に響き渡ります。


「あたいが来た!! 仕事行くよユークリット。早くしないと荷揚げの仕事がなくなるのさ」

「ホルスたん。おはようございます。私は街へ出る用事があるので今日の仕事を休みます」

「何だい! 昨日のうちに言ってくれよ。そしたらあたいも仕事休んだのにさ」


 何の為にノックをしたのか。

 ホルスたんは、返事を待たず引き戸を自分で開けて部屋へ入り、私の真後ろに立ちました。

 私は平伏を止めて頭を上げると、正座をしたまま反転して、ホルスたんと向かい合います。


 こんな時は幼馴染から教わった【座技】と呼ばれる技術が役に立ちます。

 立ち上がる必要なく反転して正座を続けられます。

 立膝を着いたまま移動できるこの技術は床の上で生活する為には必須と言えるでしょう。

 当然記憶の扉からい出ようとする幼馴染本人を蹴り戻し厳重に鍵を掛け直します。

 幼馴染から教わった知識は有用ですが、幼馴染本人は無用なのです。



 私は脳内空間へとらわれていた意識を外へ向け直します。

 ホルスたんの貫頭衣は、体も胸も大きい為、この世界の標準サイズでは用を成しません。

 いや【大きい】ではなく【大き過ぎる】と言葉を変えた方がより正確でしょう。

 彼女はこの異世界では珍しくセパレートタイプで貫頭衣を着ています。


 セパレートタイプなのに貫頭衣なんて言葉としておかしい?


 言葉としては確かにおかしいと自分でも感じます。

 で・す・が。

 そんな事はホルスたんの衣装を下から見上げれば些細な問題にしかなりません。

 ならないのです。

 そこには素晴らしい絶景が待っているのです。

 見上げてごらんホルスたんを。

 夜の星より素晴らしい景色が目の前に広がります。

 私は再び両のてのひらを床へ着き、深々と頭を下げて、朝の挨拶をしました。

 これは次の行動への布石です。


「おはようございます。ホルスたん」

「もう朝の挨拶は聞いたのさ。それともあたいが挨拶を返してないのが気にさわったのかい」

「そういう事ではないのですが」


 私の目線は自然を装い、床すれすれの低い視点から徐々に、上へ上へと向かいます。

 床すれすれの低い視線を得る為には再度頭を下げる必要があったのです。

 上目遣いを通り越すほど目玉を酷使し、顔をなるべくあげずに、視線だけを上へ上へ。

 上目遣いは可愛い女の子がやるからゆるされます。

 坊主男に許される行為ではありません。

 そんな事は分かっています。

 だからこそ相手と絶対に視線を合わす事なく必要な場所だけをのぞき見るのです。



 くそう。

 下のセパレートの方は見上げる角度が足りないのか、いているのか、履いていないのか、悔しいが観測して状態を確定する事が出来ない。

 神の創り出した世界は完全なるもので絶対の均衡……いや規律があるごとくだ。


 まだホルスたんと目は合っていない。

 彼女と目が合わないぎりぎりを狙い、変顔をしたまま、今少し顔の角度を上げる。



 幾多の困難を乗り越え俺は辿り着いた。

 男の浪漫ろまんに満ちた景色へ。

 上のセパレートの方は俺を魅惑の世界へいざなう。 

 高き双丘の頂上は貫頭衣ふくと言う名の白き雲に隠れて見えない。

 残念ながら頂上の形状は、形も色も大きさも、全く知る事が出来なかった。

 見えない事が逆に俺の想像を激しくかきたてる。


 双丘の頂上は見えなくとも、これまた景勝と言うべき、裾野はばっちり目に映っている。

 昔やったゲーム【神を喰らうⅡ】で話題になった【下乳】を生で見た気持ちだ!

 違うぞユークリット。

 これこそ【本物の下乳】なのだ!


 胸の肌と胴の肌の間には、それはそれは美しい、深い深い見事な、断層が出来ていた。

 くっきりとした一対の魅惑的な曲線となった断層の間には一体何本指が入るのだ?

 ワンフィンガーか?

 それともツーフィンガーか?

 あのたわみ具合ならばスリーフィンガーだって余裕で入るかも知れないな!

 何にしても、ゲームやアニメでしか無い様な、圧倒的なボリュームだ!!



 突然ですが皆さんは【女の勘】という言葉を聞いた事がありますか?

 私はあります。

 聞いた事はありますが事実だという事へ驚きを隠せません。

 後ろにいるベスが私へ警告を発します。

 彼女に私の目線が見えているはずがありません。


「ユークリットさん。ヒトと話をする時は相手の顔を見て話す事が礼儀です」

「勿論分かっていますよ」


 ベスへ答えながらも私の言動と目線は一致していません。

 ベスの言葉にホルスたんも私の目線が胸で止まっている事に気付いたようです。

 突然ホルスたんが私の目の前へしゃがみました。

 彼女は私の変顔を見て「ぷっ」と失笑します。


 驚いたのはその後です。


 ちょっと唇を突き出せば届いてしまいそうな、鼻の頭同士がくっつきそうな、そんな近くの位置まで互いの顔を近づけて、彼女が私の顔を両手で挟み込み固定してからげます。

 思わず絶対に合わせてはいけない視線を彼女と合わせてしまいました。

 彼女の真剣な瞳から放たれる視線が私の心を貫きます。


「あたいの顔はここだよ? あたいの胸を触りたいなら、あたいだけの男になるのが条件さ」

「すみません。謝罪します。あまりにも美しかったもので見惚れてしまいました」

「あたいの胸を見て『みたい』とか『顔をうずめたい』とか言われた事は沢山あるけどさ。『美しい』って言われたのは初めてだよ。今回だけは特別に許してやるのさ」

「ありがとうございました」

「次は無いのさ!」


 頭を下げながら目線はすかさず下のセパレートの奥へ。

 今の彼女はひざを閉じた蹲踞そんきょ状態だ。

 期待に胸を膨らませるも鍛え上げられた太ももが俺の視線をがっちりとガードしている。

 やはりこの異世界で大事な所は、世界の均衡を守る為に、見えない仕様となっているか?

 蹲踞は膝を広げてかかと立ちが基本だ。

 武道の基本を守らない事は許されない。

 大切な事なのでもう一度。


 股は開いて蹲踞するべきだ。


 それでも俺は、良いモノを見れた事と、許された事に、ホルスたんへお礼を言ったのだ。

 心の底から自然と生まれてきた本気の礼だ。

 何度でも礼をしたい気持ちが次から次へと沸き上がる。


「ありがとうございました!」

「何回礼を言っても次は無いのさ! あたいは仕事へ行くのさ! 次はあんたが誘うのさ!」

 

 彼女は俺の本気を感じ、顔を真っ赤にしつつ、そのまま部屋を出て仕事へと向かうようだ。

 荷揚げ屋の仕事が始まるまで、まだ時間があるとは思うのだが。

 ホルスたんと共に仕事をするのは楽しいので、次は是非こちらから誘わせていただきます。

 明日にでも!



 彼女が、本当は怒っているのか、【下乳】とは言え俺に双丘を見られたのが恥ずかしいのか、どちらだとしても凛々しい顔が真っ赤に染まっている姿は意外と可愛かった。

 その上、いつの間にか、俺は心の中で敬語を使う事をやめていた。

 ホルスたんの【下乳】には俺の精神を安定させる効果もあるようだ。


 これからもチャンスがあれば是非覗かせてもらおう。

 俺の精神安定の為に!

 いつの日にか断層の深さをこの指で計ってみたいものだな。

 おとこの浪漫を満たす為に!




 その時、ゆるみきった俺の顔を一瞬で引き締める、魔王ベスの声が耳を打った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 乳はいい…… 上も下も…… とてもいいものです! [一言]  昔やったゲーム【神を喰らうⅡ】 まさかこれの元ネタは、天地を喰らう?
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