シーリン過去編11:宝箱
前話のあらすじを3行で。
・元もぐりの大将との約束を破ったシーリンは渋々二人で迷宮へ出掛ける。
・彼は珍しくシーリンの意見を聞き彼女が普段行う迷宮探索へ付き合う。
・探索の帰り道巨大蛙を避けて遠回りをすると驚きのモノへ初めて遭遇した。
拙作をお読み下さる全ての読者様へ感謝して一ヶ月ぶりの更新です。
2019/08/02 何遊亭万年
「ぺちゃ! 宝箱だ!!」
あれが宝箱?
区画の中央に確かな存在感をもって【木の箱】が置かれていました。
わたしも、噂で存在を聞いていましたが、実物は一年以上迷宮へ潜って初めての遭遇です。
箱の周りが金属で補強してあり蓋の上部が半円を描いています。
確かに迷宮や港湾施設で普段から見かける、どこにでもある、【木の箱】には見えません。
果たしてあの箱が噂に聞く本物の宝箱なのでしょうか?
わたしが宝箱らしき【木の箱】を遠くから観察している間に彼は行動へ移していました。
彼が【木の箱】へ駆け寄ると無造作に蓋を開けます。
突然【木の箱】からなにかが射出されて彼の体が後方へと吹き飛びました。
彼に命中して跳ね返り転がった物体を確認して石礫だと分かりました。
「大丈夫ですか!?」
わたしの目にした事が正しければ石礫は彼の顔面へ当たっていました。
あわてて彼の元へと走り寄り傷の様子を確認をします。
石礫は彼の右目に直撃したようで閉じたまぶたの隙間から血を含んだ粘性の高い液体が漏れ出ています。
「痛ってぇぇっ!!」
彼は一瞬気を失っていたのでしょう。
わたしが近づき様子を覗き込む瞬間まで全く動く気配がありませんでした。
それまで静かだった彼がわめきながら右目の痛みを訴えてきます。
うるさいですが、死んでいたり、意識不明でいられるより、ずっとましです。
「わたしが怪我の状態を確認します。右目を見させて下さい」
「おれの目に触るんじゃねぇ! すげぇ痛てぇんだよ!」
「まぶたを開けないと診る事が出来ません。自力でまぶたを開けられますか?」
「すげぇ痛てぇって言ってんだろぉ! 目を開けるなんて無理言うんじゃねぇよ!」
「女々しいですね。我慢して下さい。わたしがまぶたをこじ開けて確認します!」
「おれが女々しいだと!? そんな事ある訳ねぇだろぅ! こんな怪我全然痛くねぇよ!」
「流石ですね。では急いで怪我の確認をします」
「たいした事じゃねぇよ! 早く診てくれよな」
「最善を尽くします」
触るだけで痛がり抵抗する彼をなだめてすかして右のまぶたを無理矢理開きます。
最悪です。
石礫は完全に目玉を潰していました。
素人のわたしが診てもかなりの重傷です。
一刻も早く迷宮を出て斡旋屋へ戻るべきですね。
助祭様にしっかりと診察してもらい魔法を掛けていただくべきです。。
助祭様が回復魔法を使った所をわたしは確認していませんが迷宮に所属する助祭様です。
回復魔法を使えると思っても間違いありません。
傷を診るだけで一言も言葉を発しないわたしへ彼の質問が飛んできます。
「おれの目ん玉どうなってるんだ?」
「残念な事に完全に潰れているようです。急いで助祭様のところへ行きましょう」
「教会に治してもらうような金銀なんて持ってねぇよ!」
「犬蜥蜴人を倒した時の金銀はどうしたのですか?」
「あんな小銭はもう使っちまったって!」
彼が先日迷宮で手にした金銀は決して小銭ではありません。
基本的に迷宮の魔物は【銭】を落とさないはずです。
特に迷宮へ潜るヒトがほとんどいないフクロ城の迷宮では。
二人で分配をしなかったので詳しい金額は分かりませんが、コボルド三匹から金銀を奪った彼は、それなりに収入があったはずです。
現在彼は【フクロ城の斡旋屋】へと下宿しているはずです。
迷宮の近辺に斡旋屋以外は沼地しかなく金銀銭を使うような娯楽施設がありません。
金銀銭を使うような場所は斡旋屋の食堂くらいなものです。
通常の金銭感覚ならば一日二日で使い切るような収入ではなかったはずです。
「あなたは一体どれだけ飲み食いしたのですか? それとも街で買い物でもしましたか?」
「そんなんじゃねぇよ! 勝てば二倍にも三倍にもなる事をしただけだって」
「まさか【神のダイス】をしたのですか!?」
「おう。一時は四倍になったんだぜ! 結局次で負けて全部無くなったけどな。次は勝つ!」
呆れてものも言えません。
わたしが呆けている間に彼は宝箱をあさり立派な剣を手に入れました。
剣は抜き身で拵えなどの装飾はされていませんが良い品だと一目で分かります。
彼が、右目の痛みを忘れて、剣を掲げて喜んでいます。
「ぺちゃ。おれがこの剣をもらうからな! 宝箱を開けたのはおれだし文句はないよな?」
「ええ。構いませんよ」
「残りは全部くれてやるよ。ありがたく思えよ!」
「では遠慮なく」
彼が戦利品を分けようとしたのは初めてですね。
自分が一番欲しいものはしっかりと確保したようですが。
冒険者として良い兆候かもしれません。
わたしも迷宮に潜り始めて一年以上経ちますが初めての宝箱です。
少し興奮気味で中を確認しました。
宝箱の中には彼の手にした剣の他に一枚の羊皮紙と二つの篭が入っていました。
一つめの篭には肉や野菜等の食料が。
二つめは鳥篭。
驚いた事に中の小鳥は生きて元気に飛び回っています。
まるでヒトが毎日面倒を見ている小鳥とおなじように。
他には金目の物は何もありません。
わたしは宝箱の中身を確認して『彼が要らないだけだった』と少しだけがっかりしました。
やはり彼から『仲間で戦利品を分け合う気持ち』が感じる事はできません。
羊皮紙には文字が書いてあります。
わたしはこの場で目を通す事にしました。
『この宝箱を開けた冒険者各位様へ
この宝箱の中身を速やかにフクロ城所属の冒険者の斡旋屋までお運びください。
宝箱に入っている剣の本身は前金として、拵え一式を後金としてご用意しております。
何卒宜しくお願い致します』
宝箱の中身に依頼が入っているとは驚きました。
依頼人の名前はありませんね。
なにかの冗談でしょうか?
それともわたしと同じように【迷宮の仕組み】を探っているヒトがいるのでしょうか?
どちらにしても速やかに斡旋屋へと二つの篭を届ける事にしましょう。
彼の潰れた右目の事もあります。
大怪我をしたまま迷宮へ留まる事は危険です。
応急処置に綺麗な布で傷口を養生したいのですが……彼の貫頭衣は不潔ですね……
非常に不本意ではありますが、わたしのてぬぐいを貸す事にしましょう。
「わたしのてぬぐいで傷口を養生します。そのまま何もしないよりは良いと思います」
「なんか悪いな」
「どういたしまして。あくまでも応急処置ですから。斡旋屋へと戻りしっかりと治療してもらいましょう」
「なんかすげぇ良い匂いがするな」
「恥ずかしいので匂いを嗅がないでください!」
彼の応急処置を終えます。
彼が鼻を鳴らしながらてぬぐいの匂いを嗅いでいるのがとても嫌です。
てぬぐいを貸さなければ良かった!
わたしは彼の不愉快な行動を無視するように宝箱へ気をやりました。
宝箱の中身を全て取り出して空を確認します。
わたしが蓋を閉めた時に再び驚く事が起きました。
目の前で宝箱がどこかへ突然消えました。
見えなくなった訳ではありません。
宝箱のあった場所を手探りしても何もなくなっています。
わたしは、消えた宝箱の行方が気になり、一通り区画内を目で確認しました。
目で見るだけの簡単な探索は空振りに終わります。
この区画のどこにも宝箱があった形跡は見つかりませんでした。
詳しく探せば何かあるかもしれませんが彼は大怪我をしています。
今回これ以上の探索はあきらめましょう。
無理をしては迷宮を生き残れません。
幸いな事に宝箱があった事だけは夢ではなさそうです。
宝箱そのものは消えましたが中身はわたし達の手元へしっかり残っています。
今日わたしが知りたい不思議な【迷宮の仕組み】がまた一つ増えました。
宝箱に入っていた羊皮紙に書かれた【依頼人が分からない依頼】の事もあります。
斡旋屋へと帰還したらお姉さん達に宝箱の事を尋ねてみましょう。
依頼人の事とか、目的とか、何かがわかるかもしれません。
迷宮の外へ向かい区画の移動を開始します。
「ぺちゃ。魔物が出て来てもおれがこの剣で倒してやるからな!」
「まだ茎が剥き出しで柄も付いていないのですよ。無理はしないでください」
「大丈夫だって! ぺちゃは心配症だよな!」
幸い襲ってくるような魔物は出てきません。
彼が手当たり次第に小型の魔物に斬りかかります。
小さな蜥蜴などは居ますが魔物も生きています。
彼の試し斬りを成功させるような間抜けな魔物は一匹もいませんでした。
移動は順調で無事迷宮を脱出できたと思いましたが彼がまたもぐり達と話をはじめました。
彼は【手に入れた剣】と【右目の傷】をもぐり達へ見せながら自慢話を続けます。
ありもしない自分の活躍をてんこ盛りにした話を良くもこれだけ即興で思い付くものです。
剣を手にしてから先、現実は小さな蜥蜴一匹すらも、魔物を退治出来ていない訳ですが。
大怪我をしても、ここまで徹底して自慢話を作り上げる、彼を尊敬してしまいそうです。
やっている事は絶対に、尊敬できる事でも、真似したい事でも、ありませんけど。
彼の虚構に満ちた自慢話が終わる時をしばらく待ちました。
一向におしゃべりは止まりません。
彼に「自慢話は後にして目の治療に行きましょう」と提案しました。
聞く耳を持たずおしゃべりは止まりません。
もぐり達はみんな彼の手にした剣に夢中です。
一番興奮しているのは間違いなく彼本人ですが。
わたしは、彼を助祭様のところへ連れて行く事をあきらめ、一人で斡旋屋へ帰還しました。
「おかえり。シーリンちゃん」
「ただいま。お姉さん」
お昼の受付はたぃ姉のようです。
衛兵さん達は今日もくたくたになるまで訓練をしていたようで食卓でぐったりしています。
宝箱へ入っていた依頼通りに篭を二つに羊皮紙を添えて受付へ提出します。
「一緒に入れられていた羊皮紙へ二つの篭を斡旋屋へと届けるように書いてありました」
依頼主はお姉さん達だったのでしょうか?
複雑な顔をしながら、彼女は食い入るように、わたしの置いた篭の中の小鳥を見ています。
小鳥は今も元気に篭の中を飛び回っています。
宝箱の中から生きた小鳥が出てきた事はわたしも驚きました。
ですが彼女の反応はわたし以上です。
じっと小鳥を見つめたまま、返事も行動も、何も反応がかえってきません。
わたしは昼食に蛙の注文をしました。
お姉さんからはまるで返事がありません。
いつもなら即座に行動に移る彼女が全く反応しません。
彼の事といい本当に今日はヒトが行動に移す時を待つ日ですね。
お姉さんからの返事を待つのをあきらめた途端反応がかえってきました。
話の内容はどうやら二つの篭の事ですね。
わたしの昼食の事は無視されてようですが宝箱の事も聞きたいのでこのまま話を続けます。
「シーリンちゃん! これをどこで見つけたの!?」
「宝箱からです。それでわたしもお姉さんへ質問がありまして……」
「宝箱からは分かっているわ。迷宮のどの辺りから見つけたの?」
「迷宮の一番浅い部分で一周出来る場所です……」
「そう。そんな浅い位置で出たのね。中にお礼が入ってなかった? 見せてくれないかしら」
「お礼の剣は彼がもっています。彼は迷宮の入口でもぐりの子達へ剣の自慢していますよ」
「そう。後で彼に剣を見せてもらわないとね」
お姉さんは、視線を入口に移して、再び考え事を始めてしまいました。
結局は昼食の注文もできませんし宝箱の事も聞く事もできません。
今日はたぃ姉とお話をするのはあきらめましょう。
昼食時、たぃ姉が受付に居るならば、ちぃ姉は厨房へ居るはずです。
ちぃ姉へ直接昼食を注文しに行きましょう。
宝箱の事も彼女に聞けば良い事です。
「おかえり。シーリンちゃん」
「ただいま。お姉さん」
先程のたぃ姉と全く同じやり取りが行われますが、ちぃ姉は皿洗いをしていて、わたしへ完全に背を向けています。
常日頃から足音をなるべく立てず歩く訓練をしているわたしには残念な結果です。
ちぃ姉に気付かれたのは食堂のたぃ姉との会話を聞いていたからだと思いたいです。
「お姉さん。昼食にいつもの蛙を注文したいのですが」
「分かったわ。用意するから食堂で待っていて。受付で姉さんは何をしているの?」
「わたしが迷宮の宝箱から篭を持ち帰ったのですが篭の中の小鳥に見入っています」
「迷宮の宝箱の中の小鳥! 生きているの!?」
「ええ。不思議な事ですが篭の中を元気に飛び回っています」
その話を聞くや、全ての仕事を投げ出して、ちぃ姉まで受付へと駆け出しました。
どうやら今日のお昼ご飯は期待できそうにありませんね。
二人揃って珍しく本気で気が動転しているようです。
自分で蛙の調理を出来ない訳ではありませんがここはヒトの台所。
勝手に使う訳にはいきません。
わたしはちぃ姉を追って食堂の受付へと移動する事にしました。
食堂へ戻ると丁度昼休みも終わり衛兵さん達は午後の訓練へと向かったようです。
衛士様が代わってから衛兵さん達は訓練に余念がありません。
ふと気になりましたが衛士様を一度も食堂で見た記憶がありませんね。
わたしが気付かなかっただけなのかもしれませんが。
昼休みが終わってもお姉さん達二人は飽きる事なく小鳥が飛び回るのを見ていました。
静かになった午後の食堂へ彼が帰ってきた事で突然騒がしくなりました。
「見てくれよ! この剣を!!」
「「良い剣ね。わたしにも見せてちょうだい」」
「おれにふさわしい剣だろう?」
彼の帰り……彼の持つ剣の帰りを待っていた……二人が彼の剣を手に取り見入っています。
彼女達は茎に書かれた文字を読んでお互いうなずき合いました。
宝箱の依頼は、今までの行動から推測して、お姉さん達からで間違いないようです。
二人を代表してたぃ姉が彼に話し掛けました。
「ええ。確かにあたし達が依頼した品よ。報酬の後払いはもう少し待ってもらえるかしら?」
「拵えが付くってやつか? おれは明日からでもこの剣を使いたいんだけど?」
「そうよ。街の武具屋に拵えを作ってもらう依頼を出すの」
「剣はいつ戻るんだよ?」
「そうね。次の満月までには用意するわ」
「まだ大分先じゃねぇか! もっと早くならないのか?」
「残念だけどこれ以上早くはならないわ。それよりもあなた。右目どうしたのよ?」
「名誉の負傷ってやつだよ! どうって事はねぇって! ぺちゃもあんたも心配症だな!」
わたしの方へ振り返った彼の顔に巻かれた、右目の部分だけ赤く染まった、てぬぐいを見て思い出しました。
早く彼を礼拝所の助祭様のところへ連れて行かないと。
「お姉さん。助祭様は居ますよね?」
「いつも通りに礼拝所でお祈りを捧げていると思うわ」
「お姉さんありがとう。剣よりも右目の方が大切です! 助祭様のところへ行きましょう」
「だから治したくてもおれはお布施がないんだって!」
わたしは動こうとしない彼の背中を無理矢理押して礼拝所へ向かいます。
彼の貫頭衣は見た目が汚いですけど思ったより汗でべとべとしていませんでした。
彼に洗濯という概念がある事に驚きつつも少しだけ見直しました。
礼拝所へ続く少し暗い斡旋屋の廊下。
彼が口では「はなせよ!」と言いながら、わたしの手からはなれて、一人で歩きません。
結局最後まで彼の背中を押して礼拝所の扉の前へ到着しました。
扉の外から助祭様へ声を掛けますが中からは何の反応もありません。
気配を感知する魔法を使うまでもなく、部屋の中からはっきりと、祈りが聞こえてきます。
助祭様は間違いなく部屋の中にいますが三度声を掛けても返事がありません。
自慢になりませんがこの斡旋屋に礼拝所があった事すら知ったのは最近の事です。
当然ですがわたしと助祭様との間に直接の面識はほとんどありません。
この礼拝所へと来たのは、普段から街の教会へも行かないので、【神のダイス】以来です。
もっと言えばわたしは神殿や教会がいうところの【神】へは祈りを捧げません。
つまり【神】が関係する場所での作法を知りません。
この事は館長が神殿や教会を嫌っている事も影響があると思います。
わたしには、子供の頃から神殿や教会へと行く、習慣がないのです。
わたしと同じく彼も作法を知っているようには思えませんね。
彼も神殿や教会とは無縁だと思われます。
とは言え彼の右目をこのまま放っておく訳にもいかないでしょう。
わたしは無礼を承知で礼拝所の扉を開ける覚悟を決めました。
おそるおそる礼拝所の扉を開けると助祭様が一心不乱に神への祈りを捧げていました。
丁度区切りの良く助祭様が祈り終わったのでしょうか?
それとも外から声を掛けたので祈りを中断してくださったのでしょうか?
礼拝所へと入るとあまり間を取らず助祭様がわたし達の方へ振り返ります。
わたしと彼の二人を見渡し助祭様が声を掛けてくださいました。
「どうした? また【神のダイス】を試しにきたのか? 二人で二百文お布施をいただくぞ」
「いえ。わたしは二度と【神のダイス】へ関わる気はありません。今日は助祭様に回復魔法を掛けて貰う為に来ました」
「坊主も同じか? と聞くまでもなさそうだ。右目の怪我だな? 回復魔法が必要なのは坊主か。どれ。まずはわしに傷口を診せてみろ」
助祭様は有無を言わさず彼の右目のまぶたを無理矢理開き診察をします。
彼は右目の痛みこそ訴えましたが、わたしに診せるよりはすんなりと、助祭様へ怪我の確認をしてもらっています。
助祭様は時間を掛ける事なく彼が負った怪我の状態を把握したようでした。
「目玉が潰れておるな。わしは失った機能を回復できるほど強力な回復魔法を使えんのだ」
「それじゃあさ。おれの目はこのまま見えなくなるのか?」
「目玉自体は治る。時が経てば見えるようになる時もある。神の加護を信じよ。最後は運だ」
「じゃあさ。ちゃっちゃと回復魔法を掛けてくれよ爺さん」
「相変わらず口の利き方を知らぬ奴だな。まずはお布施を払ってもらおうか」
「今はお布施なんてねぇけどさ。ここは一発出世払いで頼むわ。絶対出世する」
「残念な事に神は公平ではない。だがわし自身は常に公正でありたいと思っている。回復魔法を願うならお布施を払え小僧。お布施は今なら金銀で一分だ。時が経ち目玉が腐ってからでは一両いただく事になるぞ」
「一分で良いのか? ぺちゃ。午後も迷宮へ潜ってくれるよな? 犬蜥蜴人を数匹退治すれば一分くらいならすぐ貯まるだろう?」
「そうですね。あなたの目玉が腐る前に治療費を貯める事にしましょう」
「午後も迷宮だからな! それにしても腹が減ったな。ぺちゃ。飯にしようぜ!」
不本意ながら、現在わたしは、彼と【ペア】を組んでいます。
彼の治療費を稼ぐ必要が出来ました。
相棒の治療費を稼ぐのも冒険者としての仁義。
午後は彼と共に迷宮へ潜る事になりそうです。
それにしても彼は莫迦なのか大物なのか。
自分の右目が無くなるかも知れないのにあまり気にしていない様子。
例え彼が大物でもわたしは一刻も早く一人の探索へ戻りたいのですけれど。
どうやらわたしの希望はまだまだ先延ばしになるようです。




