少し違った朝の始まり
約一ヶ月ぶりの更新で少し緊張しております。
今回更新予約をした2019/01/11迄は毎日更新中とあまり変わらないアクセスがありました。
私自身にとっては望外の喜びとなっております。
お金は全く入ってきませんが『印税生活をしている気分』を味合わせて頂きました。
休載中もアクセスをして下さった読者様に感謝申し上げます。
今後、更新速度は落ちますが、変わらぬお付き合いを願います。
本来ならば今回の章は『9の月前半部分』が出来上がるまでの番外編。
準本編と勝手に私が言っている『フィーナの昔話』の集まりです。
本編が出来上がりましても、この番外編を切りと良い所までは続ける予定です。
今回は章を立てましたので、本編と同じ扱いとさせて頂き『番外編』と入れません。
2019/01/25 何遊亭万年
9の月も銀色の月が満月へと向けて半月になった頃。
いつもの朝に少しだけ変化が訪れた。
「ユークリットさん。今朝は指名依頼が入っていますがどうされますか?」
それは朝一番。
いつもの斡旋の列に並び自分の番がやって来た時に訪れた。
にこやかな営業スマイルのシーリンさんから久し振りに違う言葉を聞く。
参考に最近はこんな感じでほぼ一方的に俺の仕事が決められていた。
………………
「今日もいつもの荷揚げで良いですね?登録しておきます」
「よろしくお願いします」
「面倒事だけは起こさないで下さいね」
………………
時々選択肢が1つしかないのに選択肢を選ばないといけないゲームがある。
最近は毎朝それと同じ気分を味わっていた。
一週間ほど一字一句違わない言葉のやり取りが繰り返された。
今日は最近の朝と少し違った始まりだ。
どうやら異世界名物の『無限ループ』へと入った訳ではないらしい。
実は『毎朝同じ所へと戻っているのではないか?』などと妄想してしまった事は記憶の奥底へと沈めておこう。
記憶の奥底にある封印の扉を開ける度に這いずり出てこようとする幼馴染をしっかり蹴り戻し、シーリンさんとの最近1週間の朝のやり取りを放り込んで、封印の扉に再び鍵を掛けた。
今朝は俺に仕事をして欲しいと名指しの依頼が入っているようだ。
冒険者としてドカチーニさんの弟子にしてもらった経緯もある。
よもや冒険者としての初仕事か?
「私にですか?もしかして冒険者としての依頼が来たのでしょうか?」
「いいえ。あなたには冒険者としての実績が全く無いのですよ?そんなあなたへと誰が指名依頼をすると言うのでしょうか?」
朝から『あなたは本当に莫迦ですね』と顔に書かれた笑顔を頂きました。
シーリンさんの顎がほんの少しだけ上がり見下された感じが私へ伝わってきます。
少し冷めた瞳をしたシーリンさんが顔だけは営業スマイルのまま説明を続けて下さいます。
「あなたへの依頼を簡単に説明しますと、本日寂しい思いをしている老婦人が『一日話し相手になって欲しい』という内容ですね」
冒険者としての依頼ではなかったか。
それでも『俺を』と名指しで仕事を指名される事は嬉しい事だ。
現代日本において、誰にでも出来る仕事を「お前にしかやれる奴はいないのだ!」と社長に言われて何度残業をしたか、俺は数えたくもないし、思い出したくもない。
それでも『やってやろう』と思わせる何かが「指名依頼」と言う言葉にはあるな。
異世界初の指名依頼……
ドカチーニさんが依頼人の時にはえらい目にあいました。
ですが大丈夫です。
失敗を糧としてあれから私も少しは成長をしております。
同じ失敗は繰り返しません。
契約書を読まずに契約をするなど二度としません。
指名依頼と聞き、私はしっかりと『地獄の行軍』を思い出しました。
少し思い出すだけで気持ちがかなり動転していますね。
朝一番だと言うのに心の中で敬語が止まりません。
強気な自分と弱気な自分が瞬時に何度も入れ替わる程、情緒不安定になっています。
今度はシーリンさんに何度も同じ場所を突かれた腹が当時の痛みと苦しみを思い出してきました。
ここは一度深呼吸をして落ち着きましょう。
「すぅぅぅぅぅぅう。はぁぁぁぁぁぁっ」
大きく深呼吸した程度では心の中の敬語は全く治まる気配がしませんね。
シーリンさんの笑顔にイライラが入ってきたようですね。
私の後ろには、沢山の人が仕事の斡旋を待っています。
このままだと今は平穏でも後で大変な事になりかねません。
一刻も早く契約書を彼女から受け取りこの場を一度離れましょう。
まずは契約書を読む事から始めなければ話が先に進みません。
「まずは契約書を見せていただけますか?」
「はい。こちらです。迷っているようであれば次の方に順番を譲ってもらえますか?」
「勿論です。では食卓で契約書をしっかりと呼んだ後に返事をしますね。一つだけ質問よろしいでしょうか?」
「はい。何でしょうか?」
「契約書を読む前に荷揚げ屋の仕事を予約とかは出来ませんよね?」
シーリンさん。
普段の営業スマイルはどこへ行ったのですか?
見た目は全く変わっていないようですが分かりますよ。
ちょっとした変化も『シーリン笑顔マイスター』である私には全てお見通しですよ。
普段と全く変わらない笑顔に見えて実は、次の一言を私に言う事が、とても愉快だと!
彼女の営業スマイルが表面上は一層輝きを増して見えます。
その素晴らしい営業スマイルで、私への言葉はあくまでも事務的に、答えて下さいました。
「そのような特別扱いをあなたに出来るとおもいますか?」
「出来ませんよね。そのように言われると思っておりました」
「思って居たのなら余計な手を煩わせないで下さいね?次の方どうぞ」
あまり向けられたくない笑顔でした。
彼女の眼は細くなりわずかに瞳を覗けますが、その瞳が全く笑っていません。
そんな瞳を確認出来てしまった事に私は後悔しています。
朝から裸で氷室へと無理矢理閉じ込められた様な寒々しい視線と口調を頂きました。
そして彼女は、はずむような温かな口調で、次のヒトを呼びました。
私は『笑顔は他人を幸せにする』と思っていた時もありました。
シーリンさんと出会う前の話です。
次のヒトの仕事を斡旋しているシーリンさんは私の事など一切気にしないでしょう。
ここはきちんと契約書を読んで指名依頼を請けるかを決める事にしましょう。
普段から、空いてさえいれば、必ず私が使う食堂の一番奥にある食卓。
最近は自室でベスとアンと一緒に朝食を食べています。
朝食の時間にここへ座るのも久し振りですね。
アンがベスの朝食を運び、自分の分を運びに来た所を捕まえて、今朝私は食堂で食べる事を伝えました。
アンが食堂を何度か見回した後、「ほっ」と息を吐き、うなずいて了承してくれました。
アンは誰かを探していた感じでしたが目的の人物は見つからなかったようです。
誰を探していたのでしょうか?
その事も気にはなりますが、契約書を読む事が、私の先にやるべき大切な事です。
アンを見送った後、今日は1人腰掛けて朝食の賄いを食べながら、契約書へと目を通す。
ベルガーさんの作る美味しい朝食を食べる事で心の動揺も大分落ち着いて来た。
美味しい食べ物はヒトを幸せにすると共に気持ちを落ち着かせる。
自分の気持ちが落ち着いてきたところで、俺はじっくりと契約書へと目を通し始めた。
まず一番注意すべき点は『緊急依頼本日のみ』だな。
明日以降では駄目だと言う事か。
拘束期間は『終日』と言う事は一日掛かりか。
時間は問題無いな。
場所は『ドカチーニ斡旋屋』か。
食堂でするのかな?
今はまだベスとアンの二人に本格的に冒険者としての活動を始めようとしている事を知られる訳にはいかない。
今回は冒険者としての依頼では無いとの話だ。
どちらにしても迷宮に潜る事も城壁の外に出る事も無いようだ。
場所も問題無いな。
依頼者は『昔小さな食べ物屋をやっていたおばあちゃん』か。
この異世界の住人は本名を名乗る事の方が少ない。
俺の周りにいる元気過ぎる『おばあちゃん』達に食べ物屋は居ない。
依頼人には会ってみないと分から居ないが、今すぐ分かる問題は無いな。
依頼料は『五百文。食事お茶菓子付き』か。
一日で500文なら悪くない。
話の相手をするだけで500文は、俺にとっては破格の報酬額だ。
ネモのアルフィアさんと『キャッキャウフフ』で1日2朱を稼ぐ事を思い出し腹が立つ。
だがネモよ。
今日ばかりは俺の方が美味しい思いをするぞ!
なによりもこの『お茶菓子』付きが良い!
この異世界に来てからは『お茶菓子』をあまり食べていない。
純粋に自分が食べたい。
報酬についても問題ないな。
むしろ『お茶菓子』が楽しみだ。
業務内容は『あたしの話し相手になって下さい』か。
シーリンさんが言った通りだな。
業務内容はこれだけだ。
他には何も書いていない。
正直に言うと俺にはこの異世界の正式な契約書の事がまだ良く分からない。
あくまでも俺が読む限りでの話だ。
この契約には全て全く問題ないと確信した。
俺は再び斡旋の列へ並び順番を待った。
今日斡旋を受けるのは俺が最後の1人のようだ。
俺の後ろには斡旋を待つ新たなヒトが並ぶ事は無かった。
俺の順番が来るとシーリンさんの目の前で、初めてドカチーニさんとの契約を交わした時と同じように、朱肉に親指を付けて羊皮紙に母印を押す。
今回は無事、契約が完了した。
契約内容はしっかり読んだ。
おかしなところは1つも無い。
お菓子が出るのが楽しみだ。
「丁度あなたで斡旋業も終わりですね。それでは執務室へと行きましょうか?」
「あの『それでは行きましょうか?』と言う事はシーリンさんが依頼人なのですか?確かに斡旋屋では食堂もやっていますね」
「あなたの目にはわたしが依頼者の『おばあちゃん』に見えるのですね?」
「決して誓って!例え見えたとしてもシーリンさん相手に私がそんな事を言う訳ないです!」
「ユークリットさん。まだ食事をしているお客様がいた事に感謝して下さいね?」
今、すぐ近くにヒトは居ない。
シーリンさんの笑顔を直接見ているのは俺だけだろう。
彼女の浮かべた『初めてみせた表情の笑顔』は俺へと猛烈に嫌な予感を襲わせた。
『シーリン笑顔マイスター』の俺に登録するべき笑顔がまた1つ増えた。
なんだろう?
一言で表すなら『諦観』かな?
諦めとは少し違った雰囲気の笑顔。
俺の予感は良いも悪いも当たる事の方が少ない。
だがここは何か一言「シーリンさんは『おばあちゃん』では無い」と言っておくべきだと『俺の生存本能』が告げている。
「シーリンさんが『おばあちゃん』と呼ばれるにはまだ若すぎます。確かにシーリンさんは後5年もすれば孫が居てもおかしくない年になりますが。まだ結婚だってしていないのですよ?私の国では結婚をしていない女性は幾つになっても周りのヒト達に『お姉さん』と無理矢理呼ばせるヒトも少なくないです。それに……」
「ユークリットさん。今日は一日よろしくお願いしますね?」
これは私が良く知っている駄目な笑顔です。
何かお気に召さなかったようですね?
確実にシーリンさんの地雷を踏みました。
このままお怒りの彼女と一緒では今日はハードな一日となるでしょう。
お怒りである彼女とは、なるべく距離を取りたいですね。
500文程度で、お怒りの笑顔でいるシーリンさんと一日一緒に居るのは割に合いません!
全く無駄になる行為だと思いますが、一応聞く事だけはしてみましょう。
「今から依頼を取り消す……」
「では違約金の二百五十文を払っていただきますね」
「ご存知ですよね?シーリンさん。私がそんな大金を持ち歩いている訳ないじゃないですか」
「そうですね。あなたが普段から銭束を持ち歩かない事はわたしも知っていますよ」
シーリンさんは一層の輝きを増した笑顔だけど『シーリン笑顔マイスター』である私には全てお見通しですよ。
次の一言を私に言う事が『とても愉快です』と!
彼女が半歩後ろに下がると外から差し込む光の加減で丁度顔の上半分に影が掛かりました。
そのまま彼女は笑顔で私への言葉を続けます。
「あなたが斡旋屋へと預けてある銭束から払っておきますから何も心配はいりませんよ?」
シーリンさんあなたは、どこに立てば影が顔の上半分に掛かるか、計算済みですね?
実はさり気ない演出で同じ笑顔に表情を付けていたりしているのですか?
今まで彼女は周りの状況を利用して笑顔に表情を付けていたのかも知れない!?
なんてね。
そんな訳ありませんよね?
私の考えすぎですよね?
シーリンさんが斡旋業の後始末をして受付から離れます。
ぐるりと食堂を見渡しますが、まだ朝食を食べている客が居るのに大丈夫なのでしょうか?
今日はドカチーニさんも安楽椅子の上に見当たりません。
このままでは食堂に斡旋屋の従業員が誰も居なくなります。
やはりまずいですよね?
一応シーリンさんへと確認を取りましょう。
「シーリンさん。このままでは食堂から誰も居なくなりますが?」
「まだ食事をされているお客様が残っていますよ」
「従業員が誰も居なくなりますよ?」
「常連さんばかりですから大丈夫ですよ。あなたはここで悪さをしたいと思いますか?」
「全く思いません!この斡旋屋の従業員にばれないように悪さが出来るとは思えません。ばれた後の事を考えると怖すぎます」
「そういう事です。常連さん達も同じ事を思ってくれているようですよ」
ここの食堂では毎晩『制裁と言う名の私刑』が酔っ払い達により行われます。
生きてさえいれば、どんな酷い怪我でも治してしまうフィーナさんが来た事が、ドカチーニの斡旋屋で行われる『半殺し制裁』を生み出しました。
規律を破ったヒトは文字通りの『半殺し』にされてフィーナさんの前に転がされます。
何をもって規律とするかは酔っ払い達の気分次第。
最近は私も何度か制裁を受けました。
酔っ払い達は、どんな私刑を受けてもフィーナさんに怪我を治してもらうと、すぐに元の宴会へと戻っていき、再び一緒になって騒ぎ始めます。
仲が良いのか悪いのか?
治安が良いのか悪いのか?
事あるごとに私は『現代日本の常識は異世界には通用しない』と自分に言い聞かせます。
この事もその1つですね。
考えるだけ莫迦らしい事の1つです。
しかしどうした事でしょう?
嫌な予感が猛烈に増してきました。
むしろ起きてから先、今朝は嫌な予感しかしていません。
言葉では「誰も居なくても平気」みたいに言いますが、本当に食堂から誰も居なくなる時は表玄関の大扉が一応閉まります。
表に『臨時休業』の看板が立ちます。
それをせずに食堂からシーリンさんが移動します。
わずかな手間と時間を惜しんでいるのでしょうか?
一体『寂しい思いをしているおばあちゃん』とは誰の事でしょうか?
私の脳裏に半世紀を幼児体型で過ごした魔女の姿が思い浮かびました。
私の悪い予感は当たらない事の方が多いですが、心の中の警報が止まりません。
フィーナさん1人なら『チョロインさん』になってもらえば良いのです。
しかし今日はシーリンさんが一緒です。
どんな展開になるのか全く想像が出来ません。
フィーナさんは命さえあればどんな傷も治します。
その上、私の身体は『回復魔法』の効きが、他のヒトよりも良いようです。
シーリンさんから『いつもよりもきついお仕置き』が待っていても不思議ではありません。
今朝の『笑顔』には今までにない不気味さを感じました。
正直に私が感じている事を言えば『鳥肌が立つ身の危険』です。
これは、いざとなったら、厨房にある裏庭へと通じる裏口から脱出ですね。
確認する必要の無いほど見知った厨房で念入りに脱出経路を想定して脳内で動きます。
厨房ではベルガーさんが朝食の後片付けを、マリーがお茶菓子の準備をしています。
依頼人の『おばあちゃん』はフィーナさんでほぼ確定ですね。
厨房で働く2人に「おはようございます」と挨拶をしますが、1人から「おう」と短い返事が返ってきただけでした。
もう1人からは安定の完全無視です。
今後の2人がどう動くかを幾つか想定しておきましょう。
いつも通りならば。
ベルガーさんがこの後は食堂を掃除へ行き、マリーが食器を洗いに裏庭へと出るでしょう。
この時は厨房は完全にヒトが居なくなるので全く問題なく裏口まで通り抜け出来ます。
しかし今日はマリーが厨房でお茶菓子の準備をしています。
もしもベルガーさんが食器洗いをするとしたらどこでするでしょうか?
彼は『引き籠りの熊さん』と呼ばれた男。
食器を洗うのならば厨房の中で洗う事は確定です。
物が溢れて、決して広いとは言えない厨房で、あの巨体が食器を洗うと非常に邪魔です。
加えて、マリーが厨房に残ってフィーナさんの呼び出しに待機している事が考えられます。
この時はかなり最悪の状況です。
障害物を避けようとしている間に確実にシーリンさんに捕まるでしょう。
どうする?ユークリット。
まずは落ち着け。
まずは自分を取り戻せ。
例え無理矢理でも心の中の敬語を止めろ!
このまま状況に流される事だけはするな。
あらゆる事態を想定して脱出経路を確保しろ。
厨房の中で立ち止まりキョロキョロと周りを見渡し、物の位置を確認する私へシーリンさんが後ろから声を掛けてきます。
「何をしているのですか?早く執務室へ入って下さい。」
私を、そう『シーリン笑顔マイスター』をなめないで頂きたいですね。
直接見なくてもあなたが『笑顔を見てはいけないあのヒト』へなっている事は分かります。
あなたの言いたい事など私にはお見通しってやつなのですよ!
振り返る事なく、私はシーリンさんへと答えました。
「私は裏口からの逃亡なんて少しも考えていませんよ?」
「はぁぁ。本当に逃げる事を考えていないヒトの口からは出て来る言葉では無いですね?」
はい。
確かにその通りです。
私はいざと言う時の為に『裏口から逃げる事』を思案中です。
いざという時が来ない事に越したことはありませんが。
どんな時でも有事に備える事はとても大事です。
本日はシーリンさんのお仕置きがフィーナさんの回復魔法の存在で過激になる事が容易に考えられますよね?
お仕置きが過激になったら、お祖父ちゃん達やお祖母ちゃん達へ、一日に何度も会いに逝く事になりかねません。
それよりもシーリンさん。
あなたは本当に「ヒトの心を読む魔法を持っている」なんて事は無いですよね?
例え持っていたとしても、ヒトにばらして得する事は一つも無い魔法ですからね。
持っていても「持っている」なんて絶対に言いませよね?
私はあなたに対して何度同じ事を思っているのでしょうか?
あなたは私の心を正確に読みすぎます。
「あなたの行動が分かりやすいだけです。あなたの心を読む必要などありませんよ?」
「そうでしたか」
「早くして下さい。依頼人が待っていますよ」
本当に私の心の声が聞こえているような返事がきます。
シーリンさんとの会話では同じような事が何度もありました。
このくらいではもう私は驚きません。
異世界に現代日本の常識が通用する訳が無いのです。
シーリンさんが心を読む魔法を持っていても全く不思議ではありません。
彼女は「心を読む必要などありませんよ」と言いました。
私はそんなに考えている事が顔や態度にでるのでしょうか?
誰にでも私の心は透けて見えるのでしょうか?
シーリンさん。
むしろ『心を読む魔法』を持っていて下さい。
万人に心を読まれるよりは、シーリンさん一人にだけ読まれている方が、少しましです。
現代の日本人である私から見たらフィーナさんもシーリンさんも立派な『魔女』です。
科学では説明出来ない不思議パワーの使い手です。
私の知る科学など無いに等しいですが。
2人とも現代日本の常識など一切通用しない事をやってのけます。
フィーナさんが1人の時でもシーリンさんが1人の時でも、1対1の時は時々『怖い』と思う時もありますが、1人の時よりも2人が一緒にいる時の方がなぜか少しは安心できます。
いつかフィーナさんが話してくれた迷宮の話でゴブリンの話題がありましたね。
きっとそれと同じですね。
ゴブリンが魔女と笑顔魔人に変わっただけです。
もう1人の自分が「全然ちがうだろ!」と訴えかけてきますが、ここは無視をしましょう。
これで執務室に魔王まで居る様でしたら逃げ出す事にしましょう。
私は朝から食堂で彼の姿を見ていません。
執務室で待ち構えている事も考えられます。
フィーナさんがゴブリン3匹以上相手の時は逃げていたと言っていました。
私が3人から逃げ切れるとは思えませんが、逃げる努力だけはしましょう。
「ベルガーさん。この後はどうするのですか?」
「食堂を掃除」
「マリーは?」
マリーからは当然のように答えは返ってきません。
いつもの事です。
せめて挨拶と質問にくらいは返事をして欲しいものです。
しかしベルガーさんが厨房に居ないだけでも脱出経路は確保したも同然です。
少し祈る気持ちで執務室の引き戸を開けましょう。
せめてフィーナさんが1人でいますように!
執務室の扉を開けるとフィーナさんが1人で待っていました。
用意された椅子も3人分。
ドカチーニさんはこの部屋には居ないようです。
願いが通じました。
最悪の事態は免れたようです。
私達の姿を見たフィーナさんの方から声を掛けてきます。
「おはよう。やっと来たわね」
「おはようございます。ドカチーニさんは居ないのですか?」
「ドカチーニ?」
どうやら朝一番でシーリンさんに続き、再びフィーナさんの地雷まで踏んだようです。
彼女の眉根が寄りました。
これは機嫌の悪い合図です。
「ドカチーニは朝から会合でシーミズの町の外まで飲みに行っているわ。泊まり掛けよ」
あそこですね。
私には旅先で知る事が出来た思いつく漁港があります。
下手に藪をつつくと何が出て来るか分からないので聞き流す事にしました。
どうやら、ドカチーニさんが居ない事こそ、最悪の事態であったようです。
今日一日、機嫌の悪い魔女達2人を同時に相手をする俺へ、明日の太陽は昇るだろうか?
長い休載期間を経て再び私の拙い妄想を読んで下さり感謝申し上げます。
いつもの長い後書きです。
第一部分を書き直しましたが、それ以降の統計も取っております。
結局第二部分に行く読者様は以前と変わらず半分となっております。
まだまだ実力不足と言うべきですが、今の文章力では読者様を惹きつける魅力が足りない事は分かりました。
物語自体の魅力も足りないのだと思います。
なかなか次を更新しないので『第一部分だけを読み直してくれている』最後まで本編を読んで下さった読者様が沢山いるんだ。
と妄想に逃げたくなるような第一部分から第二部分への読者様の減り方です。
その程度の文章力と内容の作品ですが、嬉しい事に最後まで読んで下さる読者様が少なからず居てくれます。
話を少しでも先へと進める為に週2回の更新も考えましたが、昨年末に個人的には嬉しい実生活の変化が起こり、妄想を書く為の時間が減りました。
確実に更新を続ける為にも週一度の更新にさせて頂こうと思います。
更新をする度に読んで下さる読者様を待たせる事となりますがご容赦下さい。
いつもの挨拶となりますが、
最新話まで読んだ後感想まで下さった読者様、
ブックマークをしてまでお読み下さる読者様、
毎回更新する度にアクセスして下さる読者様、
余暇が出来た時に一気読みして下さる読者様、
タイトルとあらすじに釣られて試し読みされる方、
全てのアクセスして下さる皆様に『やる気』燃料をいただいて更新する事が出来ます。
週一度の更新となりますが変わらぬお付き合いをお願いします。
2019/01/25 何遊亭万年




