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黄金色の旅の果実

 ギラギラと輝く太陽の光は、冷えた体を温めてくれる。

 地平線まで続くクリーム色の砂は硬く踏み固められていて、馬の足を阻みはしない。

 レオン隊の2台の馬車は、快適な砂漠の旅を続けていた。


 カルゴラ圏内の砂漠は希望の光で満ち溢れ、今まさに黄金時代に突入しようとしていた。

 巨大オアシスに隣接するカルゴラ・シティーが心臓となり、移動式の住居が寄り集まった集落が臓器である。そして多数のキャラバン隊が新鮮な血液として、砂漠を駆け巡っていた。


 『ヒポラクダ』というカバとラクダの合いの子の様な生物が、砂漠の交易路の主役である。毛むくじゃらの尻を揺らしながら、荷を満載にした大きな橇を力強く引っ張っている。

 ベンの貸してくれた駿馬達も負けじと馬車を引っ張るが、砂漠ではヒポラクダにはとても敵わない。これは戦争になった時も、同じ力関係になりそうだ。


 厳しい砂漠というイメージを覆すような、楽で安全な旅だった。しかし、正規ルートを少しでも外れてしまえば、剥き出しの太陽と乾き切った無限の砂が人間を殺しにかかって来るだろう。

 オレは御者台の上でブルリと身を震わせ、隣に座っているフラニーに話しかけた。


「ふー、砂漠といっても冬は寒いんだな」

「そうですわね、日が暮れてからの痛い様な寒さに比べれば――――ちょ、ちょっとレオン」


 オレは、フラ二ーを片手で持ち上げて、自分の膝の上に乗せた。背中を丸めてフラニーを包み込み、小さな体が発する熱を少しでも多く取り込んでいく。さらに金色の髪の毛にグリグリと顔を擦り付け、びっくりしているフラニーの頬っぺたを優しくつねる。


「はー、あったかい」

「……私も温かいですが。何かあったのですか、レオン?」

「うーん、今の時期は寒さが辛くてな、嫌かい?」

「嫌ではないですが、ちゃんと運転が出来ますか?」

「うん。出来る」


 フラニーはそれで納得したのか、読んでいた小冊子に視線を戻した。オレもフラニーの頭の上に顎を乗せて、キャラバン隊の商人に貰ったカルゴラ案内書を覗き込む。


 まず1ページ目に大きな赤字があった。

 その赤字はカルゴラ周辺への石版や欠片の持ち込みを固く禁じており、破った際の報復措置などが記されている。フラニーとエリンばあさんの石版の欠片は、出発前にベンに預けてあるので問題はないが、ヒポラクダに乗ったカルゴラ巡回兵が検知器らしき魔道具の棒を、空に向けて掲げている姿をすでに何度か目にしていた。


 前方の商隊との距離が近くなってきたので、オレは馬車の運転に注意を戻した。

 小冊子の次のページからは、カルゴラの歴史について書いてあるようだ。


「フラニー、簡単に要約してくれないか」

「つまりは石版の契約者が嫌いという事が、長々と書かれていますわ」

「もう少し、くわしく」

「こうあります『かつて多くの契約者達は石版の巨大な力に溺れ、絶対君主の様に振る舞ってきた』、まるでレオンの事を言っているようですわね」

「ハハッ、言うようになってきたじゃないかフラニー」

「フフフ、それで契約者の丘から逃げ出した住人達が寄り集まって出来たのが、カルゴラ・シティーだそうです」

「なるほどね」

「ええ、昔は周辺の契約者達と激しい戦争を繰り返していましたが、一人の偉大な人物によりカルゴラの歴史は変わりました」

「それが若き日のモンサン博士という訳だな」


 まずモンサン博士は、砂漠で育つ事の出来る農作物を発明し、カルゴラの街に無償で提供した。盗賊団と変わりがなかったカルゴラの民は自活が出来る様になり、砂漠に独自の勢力圏を築いていった。


 その後、ゲートの開発を始めたモンサン博士は、その一号機をカルゴラ・シティーに建設する事を決めた。ゲートを運用するには周囲に共鳴してしまう石版がない事が絶対条件であり、それが可能でなおかつ豊富な労働力がある場所はカルゴラ以外にはありえなかったからだ。


 カルゴラとモンサン博士、それに周囲の契約者達が金と力を出し合って、世界を一変させうるパワーを持つゲートが完成したのだ。同時に、帝国と肩を並べる一大勢力圏も誕生した。


「カルゴラは自治都市であり、ゲートの完成時から季節が99周するまでは非戦中立を宣言しています。また平和を愛するという建前で、すべての契約者に一応はゲートが開放されています」


 もしカルゴラがゲートを完全に独占していたら、早い時期に争いの火蓋が切られていただろう。利益の切れ端を帝国や独立系の丘に投げ与える事で、世界は辛うじてバランスを保っている。そのバランスが崩れかかる度に、モンサン博士という巨大な壁が支え直していたが、今では壁にかかる比重はあまりにも大きくなっていた。


「レオンは、モンサン博士とお会いになっているのですよね。どんな人なのですか?」

「あの人はやりたい事をやるだけで、たぶん細かい事は何も考えていないだろうな。それでも根は善人だと思う」

「フフフ、それではレオンにそっくりですわ、フフ」


 太腿の上でクスクスと笑うフラニーの頬っぺたを突き、胸に抱え直した。

 懐に大事にしまってあるゲートの特別使用権の巻物が、フラニーの華奢な背中にクシャリと押し潰された。






 砂と水の街と言われるカルゴラシティーに、2台の馬車は何事も無く到着した。

 巨大オアシスの畔にあるカルゴラは、街中に用水路が張り巡らされており、その景観はまるでヴェネツィアの様である。

 手早く宿を確保したオレは、フラニーに付き合ってもらい街の中心部に向かった。


 フラニーは自転車の荷台に乗る時の様に、横向きにカインの背中に座り、物珍しげに街をキョロキョロと眺めている。

 のんびりと歩いて行き、やがて目的の建物の中に入った。


 中は、お役所の窓口に似たブースがいくつか並んでおり、オレ達は順番が来るのをしばらく待つ。


「次の方どうぞ。ご用件の方は」

「うん。ゲートを使用したいのだが」


 オレは言われるがままに、テーブルに置いてある平べったい魔石に右手を乗せた。


「はい、レオン様ですね。えーと、申し訳ありません。確かにゲートの順番待ちにお名前がございますが、実際に使用できるのはまだかなり先でございます」

「こういうのが、あるのだけれど」


 オレは少し緊張しながら、モンサン博士に貰った特別使用権の巻物を役人に手渡した。

 役人は無造作に巻物を開きかけて、表情を凍り付かせた。慌てて立ち上がり、上役らしき人間を連れて来た。


「大変失礼致しました。モンサン博士のご友人を、我らカルゴラの民は歓迎いたします。どうぞ、こちらに」


 豪華な調度品が並ぶ奥の部屋に招かれて、皮張りのソファーにフラニーと座った。

 二人の役人はうやうやしい手付きで巻物を開き、中身を確認した。若い方の役人は実物の巻物を初めて見るらしく、上役の確認方法を食い入るように見つめていた。


 確認が済むと、上役が厚い台帳をテーブルに広げた。微笑を張り付かせてはいるが、突然のスケジュール変更に、僅かに苦しみが漏れ出ている。


「レオン様、もっとも早い時間で、明日の夕方にゲートが使用可能でございます」

「……もう少し後でも構わないよ。そんなに長くは待てないが」

「左様でございますか! ありがとうございます、とても助かります。では明明後日の昼ではいかがでしょうか」

「うん、それで頼む」


 モンサン博士の凄まじい威光を目の当たりにしながら、ゲート使用の手続きを済ませた。滞在中の宿の費用までカルゴラが払ってくれると言うのだ。

 そうと分かっていれば、もう1ランク上の宿にしておけば良かったと思う。


 すんなりと手続きが終わった事にほっとしながら、フラニーと外に出た。


「レオン、プール付の宿屋にしておけば良かったですわね」

「……ああ、そうだな。次は、戦利品を売りに行こうか」


 カインのお尻の上の風呂敷袋を、ポンポンと手で叩いた。

 そこにはハンス・ナバルの星銀の手斧2本と、ライオンキングから剥ぎ取った立派な牙が沢山入っている。グリとグラ達を宿に残して来たのは、星銀の手斧を見せたくなかったからだ。


 牙は、品質の良さそうな数本を自分用に残して置き、丘に帰ったらガイドフ親方と相談して、何かに加工するつもりだ。

 手斧2本と牙で、果たして幾ら位になるのであろうか。




 商業の一大中心地であるカルゴラのメインストリートは、武器、防具、魔石、貴重なアイテムに使役獣等の店がズラリと並んでいる。単純な店の数では市場に劣るが、一癖も二癖もありそうな店ばかりであり、ここでしか手に入らない商品も多いであろう。

 ゆっくり見て回るのは後にして、オレは一番大きい店のドアを開いた。


 買い取りカウンターらしき場所まで進み、風呂敷袋の戦利品を並べて置いた。

 店員は商品を一目見るなり奥に引っ込み、店主らしき人物を連れて戻って来た。最初はこういう特別扱いは、やはり気持ちの良いものであったが、何度も続くとだんだん何も感じなくなって来る。


「拝見させて頂きます」


 店主が戦利品を鑑定する様子を、胸をワクワクさせながら見守る。牙の方が高い値が付くと思っていたが、店主の扱い方から察するに星銀の手斧の方が価値が高い様だ。背の低いフラニーも会話に参加出来る様に、カウンターの隅っこに持ち上げて座らせた。


「まずこちらの牙の方ですが、品質にばらつきがありますが全部で2000タリアス金貨では如何でしょうか?」


 タリアス金貨というのは石版の世界に広く流通している貨幣である。オレの金銭感覚はゴチャゴチャになってはいるが、2000タリアスというのは大体、乗用車一台分ぐらいだろうか。


 ちなみに、石版か特殊な魔道具の持ち主の間でしかやり取りできないマナは、大雑把に言うと1000マナが1タリアス金貨である。交易の旅に出発する前のうちの丘の稼ぎは、1日で150タリアスから300タリアス金貨ぐらいであった。楽をさせてくれる紫パンダ様の出現率で、だいぶ稼ぎに違いがあった。


 フラニーをチラリと見ると、やや渋い顔をしている。

 カウンターに座るフラニーと、脂顔の店主の間で値段交渉が行われた。フラニーはさりげない調子で、オレ達がゲートを使いに来た事や、モンサン博士と知り合いだという事を店主に伝え、その成果があったのか2300タリアスで取引が成立した。

 まったく末恐ろしい子供である。


「こちらの星銀の手斧ですが、素晴らしい一品でございます。最近は入手困難なドゥガーグ石が贅沢に使われておりますし、相当な名工の手による作と思われます」

「う、うん。そうだろう」

「私共で買い取る事も出来ますが、オークションに出されては?」


 フラニーと顔を見合わせた。


「オークション?」

「はい。丁度、週に一度のオークションがもうすぐ始まる頃でございます。まだ間に合いますので、宜しければ私がご案内致します。モンサン博士のご友人はカルゴラの友人でございますので」





 モンサン博士の友人という印籠があれば、何事もスムーズにいく様である。

 しっかり者のフラニーが一緒に居るので、騙される心配もないであろう。星銀の手斧をオークション会場の係員に渡し、代わりに預かり証と出品リストを受け取った。

 100人ほどが椅子に座っている会場の後ろの方に、フラニーと並んで陣取る。


「実は、不吉だから手斧は捨ててしまおうかとも思ったんだよな。我慢して持ってて良かったよ。いくらになるか楽しみだな」

「ええ。4000タリアス金貨からスタートだと言っていましたわね」

「金持ちそうな人ばかりだし、6000ぐらいになってくれるといいな。その金でみんなの装備を整えよう」

「そうですわね」


 オークションが始まり、人々の興奮した声が響き始めた。1つ目の商品であった重力銀のスピアがさっそく落札されて、槌がカツカツと打ち鳴らされる。次の出品物はグランドファーザー・オークの毛皮のマント。

 オレは、思わず手を上げそうになるのをグッと堪え、仲間の装備品を頭に思い浮かべた。




 レオン『星銀の爪 ユキ特製ジーンズ ハードレザーアーマー ランドセル 投げ縄 打ち上げ花火』


 エリンばあさん『雷撃の弓 兵隊長の鎧(軽量強化革) 大地のアンクレット 神木の矢 脇差』


 フラニー『魔法銀のナッツワンピース 冷却の帽子(冬は未装備)』


 ハービー『竜革の投弾帯 皮の腰巻 収穫籠 フラニー』




 さて、どこから補強するべきか。

 いい加減ハードレザーアーマーからは卒業したいが、軽さと硬さを兼ね備える防具はアホみたいに高いのだ。なので、ハードレザーを使い捨て感覚で使うという今のやり方は、実はそんなに悪くはなかった。

 あるいは、ユキにおねだりするという方法もある。


「いや、そんなのはダメだ」

「何か言いましたか、レオン?」


 現在は無手のフラニーに、魔法銀のロッドなどを持たせるべきであろうか。

 どれも一級品の装備をしているエリンばあさんや、皮膚自体が鎧であるハービーの強化もなかなか難しい。

 昔はアポロの爪にマニキュア系の装備を塗っていたが、剥がれ落ちたまま、今は何も装備をしていない。高レベルになってきたアポロの凶悪な爪には、もはや中途半端な物は、ほとんど意味がないからだ。

 装備ではなくて、丘に新施設を建てた方が長い目で見ればいいのかもしれない。


「そういえば、竜牙の槍の柄の部分にヒビが出来てたんだよなー。トムの道具屋に返品出来ないものか」

「そんな事を言ったら、出入り禁止になりますわよ」



 次々と競売にかけられる珍しいアイテムを眺めながら、装備の事をあれこれと考えていた。

 すると、聞き覚えのない高圧的な声が、突然にオレの名前を呼んだ。


「これはこれは、レオン殿ではございませんかあ。奇遇でありますなあ」


 真後ろに立っている男が誰なのかすぐには分からなかった。

 真っ黒なスーツ風の洋服。

 同じく黒い髪の毛は、大量のポマードでベッタリと撫で付けられている。

 口元は大きく笑っているが、冷たい三白眼はこちらを睨み据えている。

 モンサン・カンパニー第2秘書にして、経営面の責任者、プラウドである。


「……どうも」

「そう嫌そうな顔をなされますな、レオン殿。オークションで買い物とは景気が良さそうで」

「おかげ様で。博士はお元気ですか」

「かっかっかっ、博士は相変わらずですよ」


 プラウドは、馴れ馴れしくオレの肩を叩いた。周りの人間が第2秘書プラウドの存在に気が付き、好奇心も露わに耳をそばだてている。慇懃無礼という言葉がぴったりなプラウドは、聞いてもいない事を上機嫌に話し始めた。


「かっかっかっ、こちらで会議がありましてな。実はちょっとした臨時ボーナスがあったので、ついでにオークションで買い物でもと思い、来てみたのですよ」

「はあ」

「とあるルートからライオンの毛皮を大量に入手しましてな。驚くほど大量の毛皮でしたが、いかんせん状態が酷過ぎました。どれもズタズダの穴だらけ。いったいどういう人間が、あそこまで情け容赦なくライオンを切り裂けるのか、私には全く想像が付きませんなあ」

「……」

「かっかっかっ。何とか売り払いましたが、あの程度のはした金ではとてもじゃないがここの商品には手が出ません。いやー、当てが外れてしまいました。それではレオン殿、お先に失礼致しますよ」


 プラウドは、完全な真顔でオレをひと睨みしてから、足早にオークション会場から立ち去った。


「なんだか嫌な感じのする人ですわね」

「そうだろ、あいつがプラウドだ。フラニー、塩を撒いて置いてくれ」

「塩ですか? あっ! レオン、星銀の手斧が出てきましたよ」


 白手袋の係員が、星銀の手斧が乗った台車を運んできた。

 手斧が中央まで来ると唐突にライトアップがされて、煌びやかな光の渦が巻き上がった。会場から賞賛の溜息が漏れる。


 グッジョブだぜ、係員。


「こちらの商品は4000タリアス金貨からのスタートになります」

「4200」

「4500」

「5100」

「5600」

「はい、5600。さあ他にありませんか。ドゥガーグ石の品質は鑑定済みでございますよ」

「5800」


 女を侍らせた恰幅の良い商人が5800タリアスの値を付けた。他に手を挙げる者は現れず、これで決まりかという沈黙が場を支配する。落札の槌が振り下ろされる直前に、眼鏡をかけた若い男が手を挙げた。


「7000」

「なっ、くっ……7200だ!」

「8000」


 眼鏡の男は間髪入れずに8000を提示した。


「8000。8000が出ました。他にいらっしゃいますか……それでは8000タリアス金貨で落札となります」


 カチカチと槌が鳴らされた。

 オレは笑いを押さえ切る事が出来ず、両手を腹に当てて顔を俯けた。

 チラリと横を見ると、全く同じ姿勢でフラニーが苦しそうに笑いをこらえている。

 牙の2300タリアスと合わせれば10300タリアス金貨。それは目標としている1億マナの10分の1に匹敵する金額だった。




 オレは、フラニーと踊りながら宿屋に戻った。

 するとゲートの手続きをした時の役人が、丁度オレを探していた。

 街の中心部の高級ホテルを取ったので、移動なされてはどうかと言うのだ。

 お言葉に甘えて移動すると、そこはプールにキッチン、工作台まで付いている連棟式の高級コンドミニアムだった。


 全員が荷物を解いた頃を見計らって、オレはリビングにみんなを集合させた。


「みんな、お疲れ様。みんなのおかげでカルゴラに辿り着く事が出来た。これは、ニバル山脈での戦いで得た戦利品を売り払ったものだ。オレが勝手に分配する事を許してほしい」


 まず同じ枚数の金貨が入っている大きな袋を5つ並べた。

 グリとグラ、フラニーとエリンばあさんに金貨の袋を順番に渡す。フラニーでは持ち上げられないぐらいの重さが袋にはあった。

 この世界の金貨は、畑で収穫出来る事もあってか、純金でもそこまでの価値はない。しかしこれだけの量があれば最高クラスの装備が買えるはずである。


 次に握り拳ぐらいの小さな袋を3つ出して、アポロとハービーとカインに渡した。形式的に渡した後で、アポロとカインの分け前は、オレが彼らの為に使うという事になるだろう。しかしハービーの袋には、腰に巻いて持ち歩けるように丈夫な紐を取り付けて置いた。


 グリとグラは喜ぶというよりも、あまりの大金にポカンとしている。


「レオンさん。こんなに頂いてよろしいのでしょうか」

「ああ。命を掛けて一緒に戦ったのだから当然だ。丘に誘っている事とは別の話だから、遠慮なく受け取ってくれ」

「レェロン! 気前がいいじゃないか。か、買い物だ! 買い物に行くぞ!」

「はっはっ、明日行こうな。弟の分け前を奪うんじゃないぞ、グラ」


 エリンばあさんが誇らしげな顔で、オレのことをじっと見つめていた。

 アポロは迷いなく袋を噛み千切り、金貨の匂いを嗅いだ後で砂を掻くように絨毯を擦っている。ハービーは相変わらず1ミリの感情も表わさないが、桃太郎のきびだんごの様に金貨の袋を腰に付けてやった。

 ワイワイと盛り上がっていると、ホテルの従業員が部屋にやって来た。


「レオン様、お食事の方はどちらにご用意致しましょうか」

「そうだな、今日はここに運んでくれるかい」

「かしこまりました」


 従業員がメニューを開いた。

 今日はお祝いのつもりで、沢山の料理を注文した。飲み物も合わせて注文する。


「あれ? これは……」

「こちらはフォレスビールという新しい飲み物でございます。まだあまり知られていませんが、口当たりが優しく、食事にも合いますよ。ご用意致しますか?」

「ハハッ、そうだな頼む」


 ベンとフラニーの共同権利であるフォレスビールが、オレ達よりも先にカルゴラに到着していたようだ。


 久しぶりに緊張感から開放されたオレ達は、夜遅くまで酒を飲み明し、踊り明かした。







 次の日の朝。


 オレは寝間着姿で外に出て、冷たい朝の空気を思いっきり吸い込んだ。

 さすがに飲み過ぎたのか少しだけ頭が重かったが、幸せな気分は途切れる事無く続いている。

 後ろのコンドミニアムからは、仲間たちのお出かけの準備をする騒がしい音が、微かに聞こえてくる。

 大きく伸びをして、オレも着替える為に部屋に戻ろうと踵を返した。


「これはこれは、奇遇ですなあ。レオン殿もこちらにお泊りでしたか」


 胃を刺激するポマードの匂いと共に、第2秘書プラウドが現われた。

 朝一とは思えぬ粘っこいテンションで、オレに笑いかけてくる。後ろには護衛らしき戦士と、スーツ姿の眼鏡をかけた男が控えていた。


「かっかっかっ、レオン殿。そのような格好では風邪を引きますぞ。コートをお貸ししましょうか?」


 プラウドは黒いスーツの上に、毛皮のコートを羽織っていた。

 その悪趣味な薄い黄色のコートは、明らかにライオンのたてがみをふんだんに使って作られた物である。

 冷たい風が吹き、プラウドのコートが捲れ上がった。

 腰の両脇に、光を放つ星銀の手斧が装備されていた。


「かっかっかっ、レオン殿。今日は奴隷市場を視察する予定でしてなあ。良ければレオン殿もご一緒致しませんか?」


 プラウドは下唇を突出して、三白眼でオレを睨みつけた。








今までめんど……諸事情からぼやかし続けてきた具体的な金銭のやり取りが、ついに実装されました。ここらへんは、軽めのフットワークで調整していこうと思います。果たして、女弓兵・監視塔付はいくらだったのでしょうか?

次回で交易の旅は終わりになりそうです。よろしくお願いします。

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