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体が動かないので、丘を作る

 オレは水晶玉にプラチナ鉱石の種をあて、ニンマリと笑った。


 3つのプラチナ鉱石の種を順番に鑑定していき、その度にニンマリと笑う。

 すでに同じ事を3周ほどしていた。


 タカアシグモとの激闘から3日が経っていた。

 最初の1日はベッドから起き上がる事が出来ず、2日目になってようやく歩くことが出来た。

 3日目の今日はかなり回復していたが、左手首の感覚だけは戻る気配がなかった。


 しかし、そんな事はあまり気にならないほど、今のオレは幸福感で一杯だった。


 もう一度、プラチナ鉱石の種を鑑定してみる。

 色々な情報、数字が浮かび上がり、その中には収獲した場合の鉱石の変換成功率もある。

 ニンマリ。


 サイドボードの上に座っているアポロが「なんで同じ事、何回もするの? バカなの?」という目でオレを見ている。


「フッ、この種の価値はネコにはわかるまい」


 市場やトムの店で買える鉱石の種は、数に限りがある。しかも今までで見つけた最上位の種は、鋼が最高であり、それも数粒しかなかった。

 つまり、いまだ変換機バージンであるこのプラチナ鉱石の種の、価値は計り知れない。


「フッ、アポロにはわかるまい」


 先ほどアポロを水晶玉に乗っけて鑑定した所、アポロの企みの全貌があきらかになった。


「ブラッディー・アロー ―――― キャット固有スキル。一定レベル以上のキャットが、主人の意思に反して、主人の体に爪を突き立て血に触れる事で、獲得します。スキルを発動すると、主人の血と肉を犠牲に強力な一撃を敵に与えます。血と肉の量が増えるほどに、ダメージ量も上がります」


 オレはアポロをチラリと見た。


「……アポロ、さてはお前、オレの丘を乗っ取る気だな。もしそうじゃないのなら、オレの許可なしでは2度とスキルを使うんじゃないぞ」


 アポロは「わかってるよー、その話も2回目だよう」という悲しげな顔でオレを見ている。


「ぬ……そうだな、すまん。パイメロンでも食うか? 切ってやるよ。そろそろばあさんも来る頃だしな」


 オレがそう言うと、丁度ドアがノックされた。


 エリンばあさんを小屋に招き入れる。

 テーブルがないので床に車座に座り、カットしたパイメロンとお茶を3人分用意した。


「さて、今日みんなに集まってもらったのは、今後の丘の防衛と経営方針について話し合うためだ。みんなもどんどん意見を言って欲しい」

「了解ですじゃ」

「ムシャムシャ」


 3人の真ん中には大きな紙が広げてあり、丘の簡単な鳥瞰図が描かれている。


「主な議題は3つほどあるのだが、その前に昨日の実験の結果を確認しておきたい」


 昨日、ただ体を休ませているのも暇なので、以前から気になっていた事を、鼠を使って実験していた。


「まず、丘をグルリと囲んでいる見えない壁についてだが、実験の結果以下の事がわかった」


 普段、オレ達は出入りすることができる。何もないのと同じ。

 モンスターは、見えない壁から出る事ができない。

 侵入されている間は、オレ達も出る事ができない、ただし外から中に入る事はできる。

 バッファローウォールに関しては、定住化のような事が起こったのか、バッファローの装備品扱いなのか、すでに影響がなかった。


「次に、同じ条件下なのに収獲量がばらつく事についてだが……」


 ガロモロコシの種、2粒を間隔を置いて埋めてみた。

 そして片方の種のそばだけに鼠達をおびき寄せて、狩っていった。


「その結果がこうなった」


 オレは壁際に並べてある、ガロモロコシの実を指差した。


 右のグループは、普通のガロモロコシが4つ並んでいた。

 対して左のグループは、どのガロモロコシも一回り大きく、6つ並んでいた。


「薄々気が付いてはいたが、畑で倒したモンスターのマナが貰えないのは、畑に肥料のように染み込んでいるからだという事が、これではっきりした。この2点を踏まえて話を進めていこうと思う」

「ふむ、わかりもうした」

「ペチャペチャペロペロ」


 オレはコの字型のバッファローウォール城壁を指差した。


「まず、バッファローウォールで囲わなかった部分を、普通の城壁で囲もうと思う。小屋と監視塔も城壁の中に入れる。そして、弱いモンスターを畑の中に誘い込むルートを、作りたいと思います」


 ここでエリンばあさんとオレの意見が割れた。

 ばあさんはマナを使って、監視塔を移動させる事を主張した。

 監視塔が今の位置だと、城壁が邪魔で死角になる場所が多い。

 また小屋の周りにはモンスターの湧きポイントがないので、湧きポイントが一番多い小屋から遠い場所、つまり小屋から真っ直ぐ行って突き当たる城壁の、外かギリギリ中に監視塔を移したいと、ばあさんは言う。

 これにオレが反対するのは当然だった。

 唯一の安全地帯である小屋から、監視塔を離すなどというのは、論外である。

 しかし戦士であるエリンばあさんに向かって、そうとは、はっきり言いにくい。

 無言の探り合いをしばらくした後、ばあさんが折れてくれた。


「レオン殿のお気持ちはわかりました。今の位置で、存分に働かせていただきましょう」

「スヤスヤ」


 オレは大きな紙にアイデアをどんどん書きつけていき、ばあさんは見守る様な目でそれを見て、たまに的確な指摘をしてくれた。


「とりあえず、こんなもんかな。収穫物に関しては、引き続き鉱石をメインに栽培していきます。ただこれからは、装備品の為だけではなくて、売却して利益を出す事も考えたいと思います。あと、鉱石だけじゃつまらんので、もう一つぐらい何かやるつもりです」


 オレは、気持ち良さそうに眠るアポロをつついた。


「次の議題ですが、小屋の事です。特に不自由しているわけではないのですが、お金に余裕があるので建て替えようと思います。何部屋か作るつもりなので、ばあさんも一緒に住めばいいと思いますが、どうするかは、ばあさんに任せます。賛成の人は挙手してください」

「賛成ですじゃ」

「ニャオ」


 オレは一つ咳払いをした。


 「では最後の議題です。これは議題というより、オレからの一方的な通告ですが……本日をもちまして、炬燵の撤去をいたしまーす」

「ふむ」

「ニャ?」


 事態を理解し始めたアポロが毛を逆立てる。


「もうすっかり暖かくなってきたし、ばあさんも最近は入っていないようなので、撤去したいと思いまーす」

「ほっほっほ、あたしは別にあってもかまいませんがね」

「フシャー」


 アポロが抗議する様に、膝の上に飛び乗ってくる。


「もう決定済みだからな。お前、炬燵に入り浸ってちっとも顔、見せないじゃないか。それにお前の唯一、割り当てられた仕事である、ランドセルの掃除も全然やってないだろ。毎晩、寝るたびにガラクタ溜め込みやがって、オレがちょこちょこ掃除してるんだぞ」


 アポロを見下ろすと、オレの太腿の上で、足場を確認するように後ろ脚を足踏みし、お尻を振り始めた。


「ちょ……待て、アポロ。お前まさか……オレの血を使ってオレを攻撃しようとしているのか? そんなことできるのか? 逆に見てみたい気もするが……いや、やめろって」


 念のためアポロを床に降ろした。


「わかったよ。そこまで言うなら撤去は取り止めだ。そのかわりアポロには、後で石壁の間引きとシミュレーションを手伝ってもらうからな。会議は以上で終わり!」


 オレは解散を宣言した。


「今日の仕事はこれで終わりです。オレは約束があるので、少しだけバトルフィールドに行ってきます。アポロも一緒に頼むぞ」






 オレとアポロは、ドライフォレスト第二城門前で戦っていた。


 左手首が動かず、体調も万全ではなかったが、オレ達は数段階強くなっていた。

 まず投げ縄を使って亡者弓兵2体を、引き摺り下ろした。

 麻痺針だけには十分注意して、一匹づつ敵を減らしていく。


 オレは最後のゴブリン騎乗兵に、右ストレートを叩き込んだ。

 そのゴブリンの背中には、矢が数本刺さっている。

 ゴブリンが消滅すると、第二城門が音をたてて開いた。


 息を整えてから、城門を見上げる。


 小柄な弓兵も、オレの事を見ていた。


 さてどうしたものかと考えていると、弓兵がすっぽりとかぶっていたグレートヘルムを外した。

 茶色い髪の、特に印象の無い顔の女だった。


 女は、狂った王がいるはずの城の方を指差した。

 そして小さく頷く。


 オレも頷き返し門をくぐった。

 門から50歩ほど進むと、ありがたいことに石碑があった。触れてみると『ドライフォレスト・商業地区』とでる。

 振り返って第二城壁を見ると、奥に引っ込んだのか、小柄な弓兵の姿はすでになかった。

 オレは石碑に触れ小屋に帰った。


 小屋に戻ったオレは、今持っているマナと金貨の合計を確認した。


「アポロ、明日は市場にある公会堂にいってみるぞ。坑道ではアポロのおかげで勝てたからな、好きなもんなんでも買ってやるから、今のうちに考えておけよ」



 ☆☆☆


 オレはコンビニで、おにぎりをカゴに入れていた。

 レジでは、オーナー店長らしいオバさんが、ニコニコとオレを待っていた。

 最近このコンビニに通い詰めていたので、すっかり顔を覚えられていた。


 オバさんはなかなか話好きな人で、ここしばらくのオレの唯一の話相手と言っても過言ではなかった。というかそうだった。

 オレはカゴを差し出す。


 弁当のコーナーで、若い茶髪の女が商品を補充していた。

 一番上の棚に、背伸びをしてサンドイッチを入れている。


「新しい人、入ったんですね」

「うんー、入った。入ったわよー」


 オバさんはバーコードを読み込みながら話す。


「実はあの娘、私の親戚でね。ついこの間まで、大きな病気してて、一時は両親もあきらめてたんだけど急に回復して、治っちゃったのよー。それで今はリハビリがてら、うちの店で働いているのよ」


 オレはお金を払った。


「へー、良かったですね。がんばってて、偉いですね」

「うん。もう少し回復したら、またダンスが始められるって、はりきってるのよ、あの娘」


 次の客がきたので、オバさんに「じゃあまた」と言ってレジを離れた。


 ……病み上がりなのにちゃんと働いてて偉いよな、それに比べてオレはなにやってんだか。


 オレは、左手首をさすりながら、逃げるようにコンビニを出た。


 



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