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旧都行幸

 遷都令が発布されてから数日後、皇帝ルクスは新都アウグスタへの引っ越し作業に勤しむインペリウムの官僚達を労い、皇帝の宮殿(インペリアル・パレス)の移転作業の進捗を視察するためにインペリウムを訪れた。


 この日は帝都防衛艦隊による盛大な観艦式が催され、二年ぶりとなる皇帝のインペリウム帰還を祝う。


 そして宇宙港へと入港し、インペリウムの土を踏んだルクスはインペリウムに住む兵士と臣民から熱烈な歓迎を受ける。


「皇帝陛下万歳! 皇帝陛下万歳!」


 数々の軍閥を打倒し、クテシフォン同盟を滅ぼす事で銀河系全域に広がった内戦を平定した皇帝ルクスの名声は揺るぎないものになっていた。

 自分達を戦火から救い、困窮していた生活を立て直してくれた統治者を、彼は熱狂的な歓声と共に迎え入れたのだ。

 皆の歓声は強く熱を帯び、誰かを判別するかすら困難なほど遠くからルクスの姿を目にした兵士の中には、感動のあまりに号泣する者まで相次いだ。


 皇帝の宮殿(インペリアル・パレス)に到着したルクスは、旅の疲れを癒やす間も無く政務に取り組まなければならなかった。

 遷都すると言っても旧都となるインペリウムを単純に放棄するわけではない。

 これからも帝国の経済を支える重要な星であり続けるのだ。

 それをより効率的に統治するにはどうするのが最善かを考えなければならない。


 そのためにルクスは、インペリウムに在住している行政官達から意見を募る。


「インペリウムは長年に渡って銀河帝国の首都として栄えた星です。ここから首都の看板を完全に取り払うのは、インペリウムの住民に悪印象を与えるかと。故にインペリウムを陪都ばいとに定めて、都の肩書きを残すべきかと」


「インペリウムの経済力は侮れませんし、貴族達の中にはインペリウムこそが真の都と考える者も多くおります。そこでインペリウムとアウグスタの二つを銀河帝国の帝都とする両都制を取られては如何でしょうか?」


「アウグスタを銀河帝国の唯一の帝都としなくては、陛下の進められているアウグスタを中心とした支配体制の構築に綻びが生じかねません。インペリウムはあくまで旧都として扱うのが宜しいかと」


 多くの意見が出揃う中、ルクスは最後に帝都防衛司令部長官であるルイス・トルーマン中将に意見を求めた。


「インペリウムがこれまで培ってきた強固な経済圏は、帝国にとっても重要な財産です。これを維持する事は帝国の財政を支える上で必要な事と考えます。アウグスタ中心の新たな経済圏の構築も大事ですが、既存のものも活かす方策を整える事も同じくらい大事かと」


 トルーマンはインペリウム防衛司令部長官の地位についている。行政に介入する権限は無いとはいえ、インペリウムは自身の勢力基盤と言って良い。

 そんな彼にとってインペリウムの政治的重要性の維持は、自身の帝国軍内部における立場を盤石にする上で重要な事だった。


「分かった。では皇帝の宮殿(インペリアル・パレス)の政府機能は残して、アウグスタにもしもの事があった場合には臨時政府の設置場所としよう。ただし、皇帝の宮殿(インペリアル・パレス)を今のまま残すのは帝国にとって利は少ないだろう」


 皇帝の宮殿(インペリアル・パレス)は皇帝の住居であると同時に銀河帝国の政治に必要な政府機能が詰まっている。

 だがそれ以上に、元老院議員や帝国貴族によって豪勢な社交界の場として整備されている。


皇帝の宮殿(インペリアル・パレス)は半分ほど残しておけば支障は無いでしょう。次の課題は、残り半分をどうするかです」


「……いっそ歴史博物館にでも改装して一般公開してはどうだ?」


 ルクスはそれほど本気で提案したつもりは無かったが、その場にいたトルーマンと行政官達は感嘆の声を漏らす。


「なるほど。それは妙案ですな、陛下」


皇帝の宮殿(インペリアル・パレス)は銀河帝国の歴史そのもの。それを歴史博物館として残すのは良きお考えかと」


「宮殿の周辺に建っている政府の施設も活用すれば、インペリウムは一大観光地として銀河中に名を轟かすかもしれませんな」


 この後、他の文官や有識者も交えた会議にて皇帝の宮殿(インペリアル・パレス)の一部が歴史博物館に改装される事が決まった。

 さらにインペリウムの今後に関する事が話し合われ、ここでの会議はインペリウムの扱いの大枠が決まる。



 ◆◇◆◇◆



 皇帝の宮殿(インペリアル・パレス)にてインペリウムの今後が話し合われる頃、アマルフィ・セントラルビルでも今後の銀河に関わる話し合いが行なわれていた。


「ゴホッゴホッ。皇帝は既に皇帝の宮殿(インペリアル・パレス)か。このタイミングで皇帝の行幸があったのは、我等にとって好都合かもな」


 辛そうに咳をしながら言うのはアマルフィ財閥大総裁バスク・アマルフィ。

 彼は寝室のベッドの上で横になりながら、自身の孫娘であるイレーナ・アマルフィに話している。


「……本当に皇帝と和解の道を模索なさるのですか?」


「不服かね?」


「わ、私は別に、そういうわけでは、」


「皇帝は思っていたよりも手強い。単なる田舎軍人と思っていたが、経済面でのセンスも侮れん。もっと早くINEの経営は破綻すると踏んでいたが、まさかここまで粘るとはな」


「ですが、帝国政府の融資もそろそろ限界のはずです。このまま行けば、まだ勝ち目はあるかと」


「こちらも財閥の経営が破綻しかねない状況だ。このまま競争を続ければ、財閥の破産だけでなく、インペリウムの経済と産業が崩壊しかねない。そうなれば、我々がインペリウムを拠点に帝国の経済を掌握するという当初の計画がそもそも成り立たなくなってしまう」


 バスクは政治家ではなく、あくまで実業家だ。

 彼にとっては事業を為して財を得る事が最優先であり、身を滅ぼしてまで事業を為すのは邪道でしかない。

 このまま今の方針を維持しても、肝心の事業すら破綻しかねないという状況に陥っては尚更である。


「お祖父様の仰る事は分かります。しかし、あの皇帝が和解に応じるでしょうか?」


「現状をこのまま維持するリスクは、皇帝も承知しているはずだ。交渉の余地はあるだろう」


「……分かりました。最高幹部達には私から伝えておきます」


「いや。私の口から伝える。お前には皇帝との会談の場を整えてほしい」


「承知しました」

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