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異世界でお姫様と結婚しました  作者: 高木健人
2章 新婚生活
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4話「宮廷魔術師の研究所」

 王都・ラウニヌスの中央広場から伸びた大通りをまっすぐ進むと十メートル近い城壁に取り囲まれた門がある。門を超えた先もすぐに城へ到達できるわけではなく、百メートル近く歩いてようやくウルカト城の入り口につく。

 つまりそれほど城壁の中は広大というわけだ。

 敷地内には城以外にも訓練場など様々な施設があるが、その中でも特に異彩を放っているのは、敷地内の隅っこにあるドーム状の白いヘンテコな建物だ。取って付けられたような煙突からは煙が出続けている。


 訓練場を後にしたユウト達はその謎の建物にやってきていた。



「で、ここはどんな場所なんだ?」

「宮廷魔術師達の研究所です。国内でも最高峰の実験が行われています」



 城から少し離れた場所に施設が建てられているのも、実験の失敗によって被害が及ばないようにしているためだ。

 それでも国内有数の魔術師達が在籍するためか、端に追いやられている割にかなりでかい建物である。

 


「普通、こういうのって僻地に建てられるもんじゃないのか?」

「ウルカト王国は昔から魔族の侵攻とマイアルズ王国に板挟みになっているため、余っている土地が少ないのです。そういった国の事情もある上、新たな技術が開発されたらすぐに行き渡るよう、王国の中心であるこの場所から波紋のように広げているのです。この二つの観点から最重要施設として王宮の敷地内に設置されたという歴史があります」



 何度かは話は聞いているが、ウルカト王国はかなり難しい土地柄にあるらしい。二つの脅威に怯えながらも、賑やかな国に発展したことから先代の国王たちの手腕が窺える。



 いざ中に入るとユウトを出迎えたのはたくさんの本だった。広大なエントランスの端っこの本棚には分厚い蔵書がギッシリと詰まっており、左右には二階に続く半円状に伸びる階段がある。

 研究所といわれるぐらいだから、中には見たことのない器具がゴロゴロ転がっているのかと思いきや……。蓋を開けてみると国立図書館のような場所なのである。

 だから「なんだこれ……」とつい呆然と立ち尽くしてしまうのも無理はなかった。



「なあ、アリゼ。俺の知ってる研究所にはビッシリ本が詰まっているイメージではないんだけど」

「確かに最初にここに訪れる方はみな似たような反応をされますね。ウルカト王国は特に魔法学に注力しているんです。それで各地から集めた魔法に関する蔵書を収め、新たな魔法技術の発展につなげています」



 さらにアリゼはこの入口にはウルカト城にかけられた結界よりも強力な守備魔法がかかっていると補足する。この国で一番頑丈かつ安全な場所は実はこの研究所の入り口ということらしい。

 それでいいんだろうか、と疑問に思うが、これも魔法書から微弱に発せられる魔力が積み重なり、また国でもっとも聡明な魔術師達が集まったことにより出来た奇跡の魔法なのだという。



「実際の研究室はもっと奥にあります」



 アリゼの背についていくと、白衣姿の人間と何人もすれ違った。どれもユウトやアリゼより一世代離れたぐらいの年齢だ。彼らはアリゼとユウトに一応の挨拶を見せるが、近衛兵達と違って溢れんばかりの忠義は感じられない。少しだけ目を向けるとすぐに直前の行動に戻っていく。異世界でも人間ってやつは同じようなもんなんだなとつくづく思う。

 

 研究室の奥に行くと、休憩室と書かれたスペースに出る。ノックをして中に入る。



「失礼します、ライナルトさんはいらっしゃいますか?」



 飛び込んできたのは食堂のような光景だ。しかし机も椅子も、壁もどれもこれも白い。また、机の上や床など、いたるところに本が積み重ねられて放置されている。このままでは移動もままならないはずだ。



「あ~、誰だ?」



 どこからかやる気のない男の声が聞こえてくる。

 ユウトは何となく予想がついた。このパターンは研究や実験にしか興味がなく、普段はいい加減で見た目もヨレヨレでやる気のなさそうな典型的なダメダメ研究者のパターン。

 色々な面が"テンプレ"であるこの世界ではいかにもありそうだ。実際、近衛騎士団隊長のリーチェだって絵に描いたような真面目な騎士だったのだし。

 そんなことを考えていると、ライナルトと呼ばれた青年がひょっこりと顔を見せた。



「お、その愛くるしい見た目は姫様じゃないですか」



 男はヘラヘラと笑うのだが、その笑顔がもの凄く輝かしい。

 ユウトは少々意表をつかれていた。姿を見せたライナルトは想像と違ってかなりの色男だったからだ。

 綺麗な茶色の毛に短く整った髪……今の今まで横になっていたのか少しボサボサだが、それが逆に似合っている。

 元の世界ではチャラい男だなと一目で思われそうな見た目をしていた。



「んでその隣にいるのは件のユウト……じゃなかった。ユウト様ですね」



 性格もまあ、見た目通り軽かった。しかし変人と相手するよりかは、元の世界でもいくらか接してきた人種に近いほうがやりやすい。



「いちいち意識し直すくらいなら無理して口調を改める必要はないよ。俺もいきなり高い身分になって、いろんな人から敬語を使われるのに変な気分だからさ」

「私にもそこまで丁寧にする必要はありませんよ」

「ほんとかい? いや、助かるね。どうにも俺にはそういうの合わないからさ。良かった良かった」

「良くない!」



 突如乱入者がライナルトの頭に拳を入れる。乱入者は殴った拳に息を吹きかけながらライナルトを睨む。



「ライナルト、あんたはここの最高責任者ってことをわかってるの!? アリゼ様達のお陰でここで研究が続けられてるんだからもっと敬意ってものを持ちなさい!」



 頭を抑えこむライナルトを叱るのはポニテールの少女だった。整った顔に小さなメガネをかけている。白衣姿からこの施設の一員であるのが分かる。



「アリゼ様にユウト様、申し訳ありませんでした。このバカには後でたっぷりお灸をそえておきますから……」



 ライナルトのかわりに少女はヘコヘコと頭を下げる。



「いえ、あまり気にする必要ないですよ」

「ほら、姫様もこう言ってるんだし、アサンタももっと柔軟に行こうぜ」

「柔軟に行き過ぎなのよあんたはっ!」



 二人のやりとりは見ていて微笑ましいものがある。

 ユウトにも似たような経験がある。それから察するに二人の関係は……。



「二人は幼なじみ?」

「お、よく見ぬいたなユウト。その通りだ。同じ村出身なんだ俺達」



 笑いながら自身とアサンタを指し示すが、その終わりにふと陰が差したように見えた。



「ライナルト、いい加減にしないと――」

「はいはい分かってますよ。俺にだって常識くらいあるさ。正式な場だったらちゃんと口調も改めるさ。そんなことより、多忙なはずの二人が来訪してきたんだから、さっさと話を進めようぜ」

「あんたのせいで停滞してるんじゃないの……」



 アサンタは睨みながら小言を口にするが、やがてため息をついて諦めた。



「で、ここに何の用です?」

「実は今、ユウトさんを案内している最中なんです。それで紹介と同時に顔を会わせておこうと訪問させていただきました」

「はあ~、なるほどね」



 ライナルトは納得するとユウトの方に向き直る。



「じゃあ、まずは名前からだな。俺はライナルト・デュアーだ。一応、この魔術研究所の最高責任者兼宮廷魔術師の一人だ。見た感じ、俺とユウトは同年齢っぽいな。城の関係者は年上ばっかで同世代があんまいないんだ。格式張った付き合いもいいけど、俺としては友達として接してくれると嬉しいな」



 ユウトも自分の名を名乗り、互いに握手する。ライナルトとは気を張る必要のない気楽に相対出来る存在になりそうだった。個人的に非常に嬉しい。



「私はアサンタ・オールドリッジといいます。今ではこの馬鹿(ライナルト)の監視役みたいになっていますが、本来はライナルトに続く権利者の一人で、同時に宮廷魔術師でもあります。もし何か困ったことや分からないことがあったら頼って下さいね」



 アサンタはどちらかというと知的な女性なのだろう。年齢はほとんど変わらないと思えるが、しっかりとした佇まいと優しげな微笑みは落ち着いた大人の女性のようだ。



「しかしユウトも中々やるよな。この絶品美女を嫁にするなんて」

「まあ、俺には勿体無いぐらいだと感じているよ」

「案外お似合いに気がするけどな。ユウトって雰囲気がどことなくあのブリジット王子に似てるし」

「俺とあいつのどこが似てるんだ?」



 嫌な顔を思い出して少しムッとする。外見だけを見れば完璧に負けていた。似ているといったら黒髪ぐらいしかないけど、この世界でも黒髪は目立って特殊なものではない。



「ライナルトさんとアサンタさんはここの研究所ツートップだけあって、とても聡明なお方達です。もしかしたらユウトさんの助けになるかもしれません」



 アリゼは暗にこの世界にやって来た原因のことを言っているに違いない。国最高の頭脳を持った人間たちが集まる機関なら確かにユウトがこの世界にやってきた要因を解明できるかもしれない。



「ん? それはどういうことだ?」



 原因究明のためにも、彼らには真実を話しておいた方がいい。受け入れてくれるかどうか不安は残るがすべて話してみることにした。

 

 彼らはユウトの話に一切の否定を入れず、真剣に考えこんでいる。



「人間がゲートを通る……そんなことありえるのかしら」

「わかりません。あくまで想像です」

「確かに真っ先に思いつくのは二人の考え方なのですが……ライナルト、あなたはどう思う?」

「…………」



 話を振られたライナルトは思案顔で腕を組んだまま黙っている。



「ライナルト?」

「ん? あ、ああ……。まだ聞いただけで細かいことも分からないし、どうとも言えないな」

「その割には思いつめてたようだな。実は思い当たることがあるんじゃないか?」



 ジッとライナルトを見つめる。彼は肩を竦めて笑うだけだった。



「やれやれ、ユウトは結構な切れ者のようだね。実は俺が考えたのはユウトがどうやってこの世界に来たのかという疑問じゃないんだ。もっと別の視点の考え方をする必要があるって思ったんだが、それを考える材料は何もねえから結局のところ結論は変わらねえんだ」



 今度こそライナルトの言葉に嘘はないようだ。気になる部分は節々に存在するが、ここは敢えて言及しないでおく。やはり国家最大の研究所にいるぐらいだから、ライナルトも相当頭が切れる。これは長い戦いになる予感がした。



「ま、俺達の方で色々調べてみるよ。もし何か分かったら姫様とユウトに逐一報告する。それでいいだろ?」

「ああ、よろしく頼む」



 これでお終いだ、と言わんばかりにライナルトは寝っ転がる。こら、とアサンタが怒鳴るがもう去るので諌めて場を後にすることにした。



 研究所を出た後、後ろを振り返り、建物の奥にいるであろう二人の姿を想像する。

 あそこにいるとなんだか穏やかな心地でいれた気がした。

 それもこれもあの二人の関係が、元の世界のある女の子と自分の関係に似ているから懐かしさを感じてしまったせいかもしれない。



「ユウトさん? 立ち止まってどうかしましたか?」

「……ん、いや」



 アリゼの声で我に帰る。

 どんなに過去を思い返したって今は異世界の住人だ。どんなに思い馳せたって当分会うことはないだろう。

 それに今は別の女性が傍にいてくれている。彼女と過ごすことでどんな関係が築かれるかまだ見当もつかないが。



「とりあえず次の場所へ行こう。案内よろしくなアリゼ」

「はい、任せて下さい」



 嫁はニッコリと笑顔を浮かべた。

 ユウトは今を共にする女性の背中についていった。

 



今年最後の更新です。

一年間お世話になりました。また来年もよろしくおねがいします。

ではよいお年を!

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