表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

婚約の破棄を人前でする必要はあるのか

作者: 月森香苗

※卒業式とパーティの二部構成で、これは卒業式での話。

「私は今ここで皆に問いたい。何故、婚約の解消ではなく破棄を、わざわざ人前でするのか、という事だ」


 例年、学園の卒業パーティで誰かしらが婚約破棄をする、と宣言している。もはや恒例行事のようなそれが今年も行われる事は事前情報で知っていた。

 誰かが泣き、そして私も悔しい思いをするのだろう、とそう思いながら諦めの感情しかない中、同学年に在籍していた第二王子が壇上にて卒業生を代表してスピーチをしている最中にそんな事を言った。


「恒例行事のように婚約の破棄を叫ぶ男が多い。しかも大抵は傍に婚約者ではない女性を連れて、真実の愛などいいながら。だが、それのどこが真実の愛なのか私には分からない」


 第二王子の酷く冷めた視線が、婚約者でない女性と密着している男性達に向けられていた。


「破棄をするも何も、殆どの場合は言い出した方に瑕疵がある。良いか?  婚約者がいるのにそちらを蔑ろにしておいて不貞をしている方が悪い。学生時代の遊び? それを許容し擁護するものは愚かだ。婚約には大抵が契約を伴う。条件がある。誠実に対応するのが常識で、不貞を容認せよと被害者に向かって譲歩させるなど恥知らずと思え」


 私は何度も何度も婚約の解消を願った。なのに父も婚約者の父も、学生時代の遊びだから、と許してくれなかった。母は怒り狂っていたのに。あちらの母親は憎しみで男達を見ていたのに。それを分かっていなかった。


「この国において婚約とは結婚しているも同然の状態だ。そして我が国では国教により一夫一妻で浮気や不倫などの不貞行為は罪であるとされている。いいか? 本来ならば別に好いた者が出来たならば婚約を解消すれば良いだけの話だ。それを己を正当化する為に解消ではなく破棄をして相手を貶めるなど、許される事ではない」


 今年の生贄にされそうになっていた者たちは声を押し殺しながら泣いていた。私も涙が溢れてきた。言ってくれれば良かったの。そうすればお互いに気持ち良く解消して別の未来が選べたはずなのに。


「今この段階で、婚約を締結しているにも関わらず、婚約者以外をエスコートしている者、ああ、婚約者がこの場に来られなくて代理である者は除くが、それらは控えている。堂々と浮気をしている者に対して真実の愛とやらで持て囃した者も記録している。そのような者たちを信頼など出来ぬからな。婚約者を大事に出来ないものが仕事の取引を大事に出来るものか」


 私や隣にいる子は周りの人達に馬鹿にされてきた。婚約者に蔑ろにされる女。価値の無い女。可哀想な女。さっさと婚約解消すればいいのに、なんて言われてきた。


「男女関係無く、被害にあったもの達には申し訳なく思う。もっと早くに手を打つべきであった。きっと君達は心無い言葉に苦しめられてきたのだろう。私は第三王子である弟が入学するまでにこの馬鹿げた恒例行事を無くしたかった。そちらを優先したことで君達の貴重な時間を無駄にしてしまった。だが、学則に婚約破棄を学内で宣言する事を禁止するように出来た」


 これから先、こんな苦しみを味わう人が減るなら良い。惰性のように続いていたこれらはただの娯楽として消費されていた。その被害者がどんな気持ちでいるのか、どんな未来になるのか考えもせずに。


「真実の愛などない。そんなのは幻想だ。ただの言い訳だ。不貞行為を誤魔化すだけの言葉だと何故分からない。学園内だから? そんな訳があるか。特に女性は何故考えない。結婚後に夫が愛人を連れてきて真実の愛だから我慢しろ、と言われる可能性もあるんだぞ。まぁ、我が国では愛人を作るのは罪だが。学生時代から妻同然の婚約者がいるのに恋人を作ることのどこが浪漫なんだ。それを分からず持て囃し止めない時点で同罪だろう」


 私の婚約者は今どんな顔をしているのか。彼の父親と私の父はどんな顔をしているのか。私の前に立って、私を馬鹿にしていた令嬢達は、どうして震えているのかしら? 真実の愛は尊いもので、それを邪魔する婚約者は悪魔みたいな存在とまで言っていたのにね?

 ああ、私は怒っていたのね。ずっとずっと不満を抱えて怒っていたのね。


「ついでに言っておこう。これは男に多いパターンだが、政略で結ばれた婚約者は大抵君たちを愛してはいない。愛する努力をするが、不誠実な対応をされてまで好きになることは無い。分かるように浮気をした男に対して幻滅する事はあっても愛するなどどんな被虐趣味か。そんな相手と早く離れたいのだから浮気相手を害することは無い。婚約者に虐められたと訴えるものの大半は嘘だ。自作自演だ。君達は愛されてないから取り戻す努力をしようとも思わない存在に成り下がっている。それを理解しておいた方がいい」


 よく聞く話だわ。第二王子、調べたのね。私は婚約者の事などもはやどうでも良くて、気持ち悪い存在になってるから同意しかない。隣の子も何度も頷いてるわ。


「なお、私の側近候補だった者たちは全て外した。婚約の破棄を宣言しようと目論んでいたからだ。しかも浮気相手は、多くの男を籠絡して婚約関係を破綻させた男爵家の令嬢である。この者は卒業を取り消し入学した事実も抹消。貴族籍は剥奪されている。私にまで言い寄って来たのでな。不貞とは相手の心を傷付け殺す行為である。その責任を取るべきなのに相手に押し付けるなど許される事ではない」


 あのお騒がせ男爵令嬢は居なくなったのね。学年が下だったからこの学年の被害者は少なかったけど、何人かは引っ掛かっていたわね。

 側近候補の方達は固まって隅にいるみたい。未来が閉ざされたものよね。

 段々と気持ちが落ち着いてきた。第二王子がこれまでの苦渋の日々を掬いあげてくれたから?


「学園の卒業パーティは友との別れを惜しみ、これから貴族の一員として一歩を踏み出す為の大切な時間だ。いずれ過去を思い出した時に良き思い出になるようにと、教員や多くの関係者が準備している。それを何故愚かな者達の為に台無しにされなければならない。恒例行事? 慣習? そんなわけあるか。自己満足に巻き込むな。故に、私はこの場を借りてこの話をさせてもらった。計画していた者は恥を知れ」


 きっと第二王子は全てを把握した上で、惨めな思いをする被害者を出さないようにしてくれたのだろう。

 やはり婚約はどんな事があっても解消してもらう。私の隣に婚約者はいない。それが全てよね。


「改めて、今日この日を迎えられて嬉しく思う。私は兄の補佐として国の為に働く。君達も様々な道を選んだだろうが、この国の民として誇り高くあってくれ」




 第二王子殿下のお陰で無事に私は婚約解消出来た。若気の至りとか学生時代の遊びは愚かだと言ってくださったから。

 父は母から無視をされて落ち込んでいるけれど自業自得よ。元婚約者のところは大変な事になっているらしい。親子揃って浮気していて、夫人が限界に来て実家に戻ったらしい。貴族の離婚は難しいし、離婚したら愛人が後妻となるかもしれなくて、幸せにしてやるものかと婚姻は継続中。愛人を罪だと第二王子殿下が言い切ったので家に連れ込めばそれだけで罪に問われるだろう。


 この歳で婚約者が居なくなったけど、元婚約者は堂々と浮気をしていたから私に瑕疵は無いとされているので、そこまで酷い条件にはならないだろう。


 数年後、どこかの国の社交の場でその国の王族の誰かが婚約の破棄を宣言したそうだ。しかし、その場に第二王子がいて「婚約という大事な契約を守れやしない王族のいる国とは良い関係など結べる気がしない」と言って断交しかけたと聞いた時、私は変わらないな、と笑った。

テンプレの

「〇〇!貴様は■■に~~した!よって貴様とは婚約破棄する!」って、マジでなんで悪い方が堂々と言ってんだよってなりますよね。


この時の第二王子は訳分からん年下の礼儀知らずな女にストレス溜め込み、側近候補が馬鹿を露呈し、婚約者に癒されてもどうにもならないレベルでやっと処分出来てテンション上がりまくってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これを王族がスピーチで言ってくれるからこそ意味がある……いいぞ!第二王子! 融通がきかないとか思われてそうだけど、こういう潔癖の第二王子が鞭を担当するからこそ兄王子は人心掌握やりやすいだろうなーと思い…
元々は結婚は両者の合意によってなされると言う現代の法に基づく恋愛もののテンプレを中世風の世界に持ち込んだから起きたバグよね。
いや、そりゃ、悪い方が堂々と言わんと「ざまぁ」出来ねぇじゃん。 まぁメタ的アレコレは置いておいても、そもそも、大抵の作品では、悪役も浮気·不倫はしても良い事って認識してないよ。大半は、やっちゃいけない…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ