p.33 真相解明の時間
エルシーが通う教会にダリルは関係者を集めた。
すなわち、犯人候補のルーベン司教、シスターソフィア、ブレイク神父の三人と、侯爵家の執事にも同席してもらっている。
三人は戸惑った顔をして佇んでいた。
それはそうだろう。いきなり王子に呼び出されれば何事かと身構えて当然だ。
「あの、ダリル殿下……どうして我々を……?」
「突然呼び出して悪かったね。今日、君たちを呼び出したのは我が婚約者エルシー嬢が怪我をした件について話しておきたいことがあるからだ」
「エルシー様の怪我について……? エルシー様の怪我が事故と伺っておりましたが、違うのでしょうか?」
ソフィアが困惑したように尋ねる。
「ただの彼女の不注意による事故――ではあればよかったけれど……どうやら今回のことはもっと根深い事情があったようでね」
「根深い事情……?」
「端的に言わせてもらおう。エルシー嬢を階段から突き落とした犯人はこの中にいる」
そう言い切ったダリルに三人は動揺する。
そしてお互いの顔を見合う。
「我々の中に犯人が……? そんなまさか」
「そうだぜ、殿下。オレたちにはお嬢を階段から突き落とす動機がねえ。むしろオレたちはお嬢には感謝しているんだ」
「そ、そうですわ。エルシー様に感謝しこそすれ、恨むことなど決してありえません。それは私も司教様もブレイクさんも同じです」
「そうですよ。私たちがエルシー様を恨むことなど、神に誓ってありません」
三人は一様にありえないと主張する。
まあ、当然だ。自分が犯人だとここで告白するくらいならば、とっくに自首をしていただろう。
「そうだろうとも。犯人はエルシー嬢を恨んでいたわけではない。ただ、のっぴきならない事情があって、仕方なしにやった……もしくは、衝動的にやってしまったのさ」
「のっぴきならない事情……?」
「その事情には、最近起こっているとある事件に関係がある。君たちはここ最近、王都で突然行方知れずになっている人がいることを知っているかい?」
ダリルの質問に三人は一様に頷く。
「ええ、存じ上げております。そのことで神に祈りに来ている方もいらっしゃいますから」
「うちのチビも行方知れずになっているからな……だが、まあよくあることだろう?」
「よくあることだね。だが、その数が多すぎるんだ。王都の人口が約五百万人。それに対し、ここ一カ月で行方不明とされている人数は千人を超える。それも警察に報告があるだけの数だ。実際にはもっとたくさんいるんじゃないかな」
「そんなに人が消えているのか……」
ブレイクが呆然としたように呟く。
戸籍のない無法者や、旅行者を含めればその倍近くは人数が膨れるのではないかとダリルら思っている。
実際、道端に寝泊まりをしている者の姿が激減したという報告も上がっている。
「その人物たちはどこへ行ってしまったのか? これは僕の憶測であるけれど――おそらく彼らは売られたんだよ」
「売られた……? それはまさか……」
驚愕したように目を見開くソフィアにダリルは頷く。
「君の考えている通りだ、シスターソフィア。この王都で、人身売買が行われているんだ」
「そんな……! ああ、なんてことでしょうか……人身売買なんて口するのもおぞましいことが身近に起きているなんて……!」
ソフィアは首から下げたロザリオを握り、神に祈り出す。
ルーベンもブレイクも心なしが顔が青くなっている。
「残念なことに、警察も王家もその実態は把握できていない……だけど、この街に住む人が攫われ、どこかに売られていることは確かだ。それも最近、急速にそのスピードが上がっている。それにもなにか理由はあるのだろうけれど……今は置いておこう。僕が言いたいのは、エルシー嬢を怪我させた犯人は、この人身売買に関わっているということだ。そのことに気づいたエルシー嬢はそれを止めるために犯人に接触し、怪我を負うことになった――そうだろう? ルーベン司教?」




