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【完結済】悪女にされた公爵令嬢、二度目の人生は“彼”が離してくれない  作者: ゆにみ
第二部

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31、信じてもらえなければ、道はない

 ノクス殿下に、ルシアン殿下が黒魔法を使った疑いがあることを告げた。

 証拠は……ない。

 信じてもらえなければ、私は王家侮辱罪に問われるかもしれない。


 殿下はしばらく私を無言で見つめていたが、やがてゆっくりと近くにあった椅子に腰を下ろした。



 「……そうか」



 ――トントン。


 腕を組み、指先で規則的に叩く音だけが響く。

 沈黙が長く感じられ、息が詰まりそうだった。


 やがて殿下の金の瞳がゆっくりと寝台へ向けられる。


 「公爵は……意識がないのか?」


 話題が変わったようでいて、核心を探ってくる声音だった。



 「はい。医師によれば、身体に異常はないそうですが……」


 「噂では、夫人が寝込み、公爵が看病についていると聞いたが……」


 殿下の金の双眸が、横たわるノエルへ向けられる。

 そしてゆっくり、私へ戻った。


 「どうやら逆のようだ。……何故だ?」


 殿下の金の眼が鋭く細められる。

 心の底を見透かされそうなほどの光だった。


 逃げてはいけない。


 「身を守るために必要な嘘でした」


 「……というと?」


 殿下は姿勢を少し正し、足を組み直した。

 冷静な王族の表情。その奥には何かを探る光があった。


 「私は……ルシアン殿下に命を狙われています」


 ぴたり。


 殿下の動きが完全に止まる。

 空気が張り詰め、音が消えた。


 「……夫人が嘘をつくような人間ではないことは理解している。だが相手は王族だ。軽々しく扱える問題ではない。その発言に、責任は持てるな?」


 「はい。覚悟はできております」


 殿下に信じてもらわなくてはならない。

 ノエルのために。精霊たちのために。

 そして、私たちの未来のために。



 「――そして、殿下。もうひとつお伝えしたいことがございます」


 「……聞こう」


 「コゼットの黒魔法の件……あれにも、ルシアン殿下が関わっているかもしれません。まだ確証はありませんが」


 「……なんだと?」


 その瞬間、温度がすっと下がったように感じた。

 殿下の眉が険しく寄り、瞳が大きく揺れる。



 (……やっぱり)


 沈黙が続く中、殿下の感情が一瞬だけ露わになった。

 その反応が、私の確信をさらに強くする。



 殿下はコゼットのことになると冷静ではいられない。


 わかっていて、この話を持ち出した。

 ズルいと分かっていても、殿下には私たちの味方になってもらわなければならない。


 強く握った手に汗が滲んだ。


 殿下は、低く息を吐いた。


 「……ひとまずこちらでも調査を進める。また後日連絡しよう」


「はい。お時間いただき、ありがとうございました」


 深く一礼する。

 どうか、この一歩が未来を守る力になりますように。



 殿下は、再び黒いローブを深く被り、部屋をそっと出ていく。

 その瞬間、張り詰めていた空気が和らぐ。



 (......緊張した)


 心を落ち着かせようと、真っ先にノエルの眠るベッドへ向かう。

 眠っているノエルの手を、そっと握り直した。


 もう二度と、誰にも奪わせない。

 私が必ず、この未来を守る。


 ルシアン殿下――。

 これ以上、好き勝手にはさせないわ。


 ノエルのことだって――絶対に離さない。

次回、ノクス殿下視点です。

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