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【完結済】悪女にされた公爵令嬢、二度目の人生は“彼”が離してくれない  作者: ゆにみ
第二部

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30、彼のいない日々

 精霊たちにノクス殿下への連絡をお願いした。

 寝室にはノエルと私だけ。

 いつもの寝室、いつもの匂い。なのに、ノエルの意識だけが――ない。


 医師は身体に異常は見つからないと言った。

 だから、大丈夫。きっと......大丈夫。


 私はノエルの手をぎゅっと握る。

 まるで自分に言い聞かせるように。

 心の奥ではまだ不安でいっぱいなのに。


 もし、このまま目を覚まさなかったら――。


 その想像が背中を冷たく撫でる。

 ダメ。そんなこと考えちゃダメ。

 私が信じなければ、誰がノエルを救うの。


 ノエルの頬にそっと手を触れる。指先に温もりが宿る。



 「ノエル......愛しているわ」



 そっと頬に口づけを落とし、彼の手をもう一度握り直す。


 

 (どうか……もう一度、私の名前を呼んで)



 祈りとともに光を込める。

 その時、部屋中が柔らかな光で満ちる。それはまるで、神聖な儀式のようだった。



 それからというもの、私は毎日ノエルに精霊の力を送り続けた。



 (今日も……目を覚まさない)



 そっと触れた頬は、相変わらずあたたかい。


 その日も、精霊たちに守られながら、私はノエルの世話をした。

 使用人たちには「彼の世話は私がする」と伝え、この部屋には医師以外を近づけなかった。

 公務に追われながら点滴の調整をし、身体を拭き、寄り添う日々。

 身体は確実に疲労していった。それに、ノエルはまだ、深い眠りの底にいたまま。


 

 そんな数日後のこと。

 静まり返った寝室に、控えめなノックの音が響いた。


 今は医師の時間じゃない……洗面用具が届けられる時間でもない。

 もしかして……殿下?


 心臓が跳ねる。緊張が走る。


 扉がゆっくり開く。

 黒いローブに身を包んだ背の高い人物。

 フードをそっと下ろされる。そこに現れたのは、漆黒の髪に、金色の双眸を持つ青年――ノクス・ヴァルディア第一王子だった。



 息を呑み、思わず一礼する。


 「殿下、ようこそお越しくださいました」



 ノクス殿下の金色の瞳が私を捉える。

 低く響く声が部屋に満ちた。



 「精霊たちから連絡を受け、内密に来た。......何があった?」



 私は覚悟を決め、告げる。



 「実は、黒魔法使用の疑いがある者を見つけました」



 ノクス殿下の表情がわずかに険しくなる。



 「……なんだと? それは、誰だ?」



 心臓が跳ねる。

 今、この場で殿下が信じてくれなければ、私は王家侮辱罪で処罰されるかもしれない。

 でも、ノエルを守るためには下がれない。逃げるわけにはいかない。


 私は殿下の瞳をしっかり見据え――告げた。



 「――ルシアン殿下です」



 ノクス殿下の金瞳が一瞬、鋭く光った。

 重い沈黙。

 寝室の空気が張り詰め、音という音が消える。



 「……その言葉、覚悟の上か」


 「――はい」



 喉が乾き、心臓が痛いほど暴れていた。

 それでも目だけは逸らさなかった。


 ノエルのために。

 未来のために。

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