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【完結済】悪女にされた公爵令嬢、二度目の人生は“彼”が離してくれない  作者: ゆにみ
第二部

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28、私が倒れたら、彼は死ぬ

 ノエルの命の灯が、ふっと消えた。

 それも私の手によって。

 ――皮肉にも、その瞬間に呪いは解けた。


 涙も出なかった。ただ胸の奥がえぐられるように痛む。

 けれど立ち止まれない。今ここで手を離したら、彼は本当に戻ってこない。



 私は崩れ落ちるノエルの体を抱き留め、その胸元に手をかざす。


 (戻す……絶対に)


 意識を一点に集中させる。

 掌からあふれた光が、夜を切り裂くように部屋を照らした。


 短剣はまだ刺さったまま。

 でも、まだ引き抜けない。抜けば大量に血が溢れてしまう。

 “心臓を修復しながら、刃を押し出す”――そんな無茶な芸当を、私はやり遂げなければならなかった。

 焦ったら、彼の命は本当に終わる。



 私は震える指先に力を込め、慎重に――あまりにも慎重に短剣を動かす。


 光が溢れ、視界が白くなる。

 どれほど時間が経ったのだろう。世界が揺れて見えた。


 (倒れられない。諦めたら……ノエルが死ぬ)


 それだけが私をつなぎ止めていた。

 手は震え、吐き気が込み上げても、止まらない。


 ノエルの言葉が蘇る。



 ――「セレナが死んだら、俺も後を追う」


 そんな言葉、聞きたくなかった。

 けれど理解できてしまった。

 胸が熱く、切なく、どうしようもなく愛しくなった。


 私だって、ノエルのいない世界なんて歩けない。


 だから、絶対に助ける。


 さらに深く集中する。

 崩れかける意識を強引に繋ぎとめ、光を強める。


 短剣をゆっくりと動かす。

 視界が波打ち、膝が折れそうになる。



 「……っ、ごほっ」


 喉の奥が痙攣し、吐気が走る。

 それでもノエルの痛みに比べれば、こんなの――。


(ノエル……戻ってきて……!)


 祈りにも似た叫びが届いたのか、手のひらの光が一気に輝きを増す。



 視界が揺れ、膝が折れそうになった瞬間――

空気が震えた。



 ――セレナ! 私たちも協力するわ!



 顔を上げると、四大精霊が光の粒となり現れる。

 水のウンディーネ、炎のサラマンダー、大地のノーム、風のシルフ。



 「ノエルを絶対助けるわ!」

 「任せろ、セレナ」

 「ここまでよくやった。もう少しだ」

 「ノエルは、ここで死ぬ男じゃない!」



 その声を聞いた瞬間、張り詰めていたものが一気に緩んで涙が滲む。


 「……ありがとう……!」


 私は全身の力を集め、慎重に、慎重に――短剣を引き抜いていく。


 (あと……少し……)



 彼らの力が重なるのを感じながら、私は最後の力を振り絞った。


 最後の抵抗がふっと抜け、短剣が抜け落ちた。

 傷口は閉じている。心臓も、修復は終わった。


 あとは――動くかどうか。



 「お願い……ノエル……」


 震える声で囁きながら、心臓に手を当てる。

 光が脈打ち、部屋中を満たす。



 そして。


 ――どくん。


 一度だけ、確かに脈が跳ねた。



 「ノエル……! もう少し……!」



 気力だけで身体を支えながら、さらに光を送り込む。

 倒れれば終わり。

 だから踏ん張った。


 部屋中を埋めるほどの光が広がる。

 光は強まり――

 やがて。


 ――どくん。どくん。


 耳を澄まし、ノエルの胸にそっと顔を寄せる。


 規則正しい鼓動。

 微かな呼吸。

 戻ってきた体温。


 ノエルが……生きている。



 「ノエル……ノエル……!」



 嗚咽が漏れそうになるほどの安堵が胸を満たした。


 未来を信じて二人で誓った。

 未来は、まだ――ここにある。


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