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【完結済】悪女にされた公爵令嬢、二度目の人生は“彼”が離してくれない  作者: ゆにみ
第二部

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26、二人で生きる道を

 「……ごめん。心配で、外から聞いてた」



 ゆっくりとノエルが歩み寄ってくる。

 一歩ごとに床板がわずかに軋み、その音が胸の奥をざわつかせた。



 (……ノエルに、聞かれてた)



 全てを話す覚悟なんて、まだできていなかったのに。



 「俺……前に言ったよね。セレナが話したくなったらでいいって。いつまでも待つって」



 足を止めたノエルは、俯き、握りしめた拳を震わせていた。

 影が床に滲むように揺れている。



 「でも……こんな内容だなんて思ってなかった。呪いだなんて……どうして、ひとりで抱えてたの」



 胸が締め付けられるほどの苦しさが彼から伝わってくる。

 でも――言えなかった。

 言えば、壊れてしまう未来が怖かった。



 「……ごめんなさい」



 小さな声しか出なかった。

 その瞬間、ノエルは顔を上げ――息を呑むように目を見開き、私を抱き寄せる。



 「違うんだ……責めたかったわけじゃない。ただ……あまりにも衝撃すぎて、息ができなかったんだ」



 震える腕が、壊れものを扱うみたいに私を抱く。

 その震えが、私の中で押し込めていたものを次々に緩ませてくる。



 「私も……言えなかったの。ノエルの命と、私の命を天秤にかけるなんて……そんな残酷な話……」


 「セレナの命が大事に決まってる」



 優しすぎる声。愛しすぎる声。

 胸の奥がじりじりと焼ける。



 「ねぇ、セレナ……」



 ノエルの指が私の頬に触れた。



 「……俺を殺して」


 「っ……そんなの、できるわけないじゃない!」



 ノエルの瞳が、痛いほど熱を帯びた。



 「でも、このままだと君は死ぬんだ。やっと守れると思ったのに、やっと隣で未来を見られると思ったのに……君がいなくなるなんて、耐えられるわけない」


 「でも、ノエルが死んじゃうのよ!?そんな未来、私だっていや……!」


 「セレナを守って死ねるなら、本望だよ」




 ――パシンッ。


 気づいたときには、ノエルの頬を叩いていた。



 「馬鹿言わないで! じゃあ私をひとりにして消えるつもりなの!?」



 吐き出した声は震えていた。

 ノエルの瞳も、大きく揺れていた。



 「……ごめん。セレナの気持ちを、ちゃんと考えてなかった。……そうだよね、二人で生き残る方法を考えないといけなかった」


 「私こそ……ごめんなさい。取り乱してしまって」


 「違うよ。俺が悪い。でもね……これだけは知っててほしい。セレナが死んだら、俺も後を追う」



 息が止まった。



 「……え?」


 「ごめん。回帰前も、そうするつもりだった。セレナがいない世界に意味なんてないって。……それくらい、君が全部なんだ」



 (……聞きたくなかった。だけど――)


 胸の奥が焼けるように熱く、苦しいのに愛おしさが満ちていく。



 「……二人で生きる道を、探しましょう。絶対に」


 「うん。──でも、そのためにも……セレナ、俺を殺して」


 「な、何を言って……」


 「そして、セレナの精霊の力で俺を引き戻して。……君ならできると信じてる」


 「でも......失敗するかもしれない……!」



 ノエルは私をそっと抱き寄せ、背中を優しく撫でる。

 あやすように、優しく、優しく――。

 そして囁くように優しい声が落ちる。


 「覚悟はできてる。もしだめなら……それが運命だったってだけのこと。回帰して勝ち取った未来なのに、結局届かなかったって、そういう……」


 「そんな悲しいこと、言わないで……!」


 「俺は信じてるよ。俺たちの未来を。……ねぇ、セレナ。そうでしょう?」



 ノエルの抱きしめる腕が、強くなる。

 彼の声は揺れているのに、どこまでも真っすぐだった。

 だけど、どこか甘くて、触れれば溶けてしまいそうなほどに優しい。



 「私も......信じているわ。私たち二人の未来を」




 私の心を、逃げられないほど強く掴んでいた――。

次回、流血描写あります。閲覧注意。

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