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【完結済】悪女にされた公爵令嬢、二度目の人生は“彼”が離してくれない  作者: ゆにみ
第一部

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8、抱擁の裏に

 まぶたの裏に光が差し込んできた。

 目を開けると、真っ先に飛び込んできたのは――深紅の瞳だった。

 柔らかな金髪の、その人。




 「……っ、セレナ……っ!!」




 強く、強く抱きしめられた。

 驚くほどの力で。



 抱きしめられた腕から、彼の焦りと安堵が伝わってくる。



 「よかった、本当によかった……!」




 胸元で絞られたような声が響いた瞬間、セレナの心がじわりと温かくなる。


 

 (......ノエル)


 (こんな風に、抱きしめられたことなんて――あったかしら……)




 

 「……ごめんね、心配かけて」




 そう告げる私に、彼はぎゅっと腕に力を込めた。



 「気が気じゃなかった」



 さらに腕に込められた力が強くなった気がする。




 「......本当は、君が答えを出せるまで待つつもりだった」


 「でも――」


 ノエルは、言い淀むように続けた。


 「もう、我慢ならない」


 「そばにいて欲しい。やっぱり、俺と一緒に暮らそう……?」


 


 その言葉に、不安げな、縋るような表情に胸が少し痛んだ。



 パーティーが始まる前は、ノエルの”一緒に暮らそう”という言葉に答えを出せないでいた。




 でも、


 ウンディーネの話が本当なら......




 (精霊使いはコゼットじゃない、私――)




 心優しいはずのコゼットが、私の力を奪った……?



 信じられない。

 だけど……どうして奪われたのか、理由も原因もわからない。


 そんな私が、彼女のそばにいるのは、あまりに無防備すぎる。



 それに――



 ”今回は騙されてはいけないわ......!”



 そんなふうに言っていた。

 最後のチャンスとも。


 

 立ち回り方を、間違えてはいけない。



 (今は......離れるべきだわ)



 セレナは確信する。


 そして、少しの沈黙の後、私は答えた。



 「……いいわ」



 「え……本当に?ありがとう、セレナ……!」



 ノエルは再び強く、私を抱きしめた。



 「……ええ。私も、あなたのそばにいたいの」




 嘘をついた。

 それは、目の前の彼を安心させるための嘘。


 ……でも、本当は――


 ノエルを彼を信じてみたい、頼りたいという気持ちも確かにあった。



 今の彼は、回帰前とはどこか様子が違う。

 でも――あの時代、私が“悪女”と呼ばれ、誰からも嫌われていた中で、彼だけは最後までそばにいてくれた。



 それに今感じた彼の言葉や表情が嘘だなんて、思いたくないの。



 セレナは無意識にノエルの服をぎゅっと掴んでいた。


 その瞬間、ノエルの身体が僅かに震えた気がした。



 (……ノエル?)



 彼と目が合う。しばらく沈黙の後、彼はゆっくり口を開いた。




 「……じゃあ、今日はこのままこの屋敷で休んでて」

 「色々、手配しておくよ」



 「ありがとう、ノエル」


 その言葉にノエルは優しく微笑み部屋を後にした。



 彼の温かさに触れて安堵すると同時に、心は静かに波立つ。

 ウンディーネとのやり取りを再び思い出していた。



 あのとき……



 力はもう戻ってるって言ってたわ。

 でも、使い方も実感もない。



 (今でも、信じられないわ)



 でも、もしまた奪われたら?

 そうしたら――


 また、あの未来が脳裏に浮かぶ。



 ――毒殺。



 (いやだ。そんな未来は、絶対に繰り返さない)




 この”力”は、きっと私にとっての切り札。

 今はまだ、切り札を晒すわけにはいかない。




 (今回は、うまく立ち回らなきゃ)

 (だから……ひとまず隠そう)




 コゼットにも、ノエルにも。



 セレナは静かに決心した。



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