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【完結済】悪女にされた公爵令嬢、二度目の人生は“彼”が離してくれない  作者: ゆにみ
第二部

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22、かわいいね、君は

 目を覚ました時、天蓋の縁がゆらゆらと揺れていた。

 白い天井。知らない部屋。

 柔らかい布。嗅ぎなれない香り。倒れた時の痛みは、もう消えていた。


 ――ここは……どこ?


 身を起こそうとした瞬間、低く、やけに穏やかな声が響く。



 「気がついた?」



 声の先にはルシアン様。椅子にもたれて片足を組み、彼の笑みはいつもの優雅さを保っている。



 (ノエル、じゃない……)



 その微笑は、心配しているようで……どこか、底が見えない。



 「ルシアン様……」



 名前を呼ぶと、彼は少し目を細めて微笑んだ。

 その笑顔に安堵しながらも、心の奥がざわつく。

 ノエルがいない――その事実が、少しだけ胸を締めつけた。



 「助けてくださったのですね。ありがとうございます」


 「うん。公爵も同意してくれたよ。倒れた夫人をすぐに王宮で治療したよ。目も覚ましたことだし、公爵にはすぐに連絡しよう」


 「ありがとうございます」


 彼は立ち上がると、ゆっくりとこちらへ歩み寄った。近づくたびに、嫌な音を立てて心臓の音が耳に大きく響く。



 「本当に……可愛い人だね、君は」



 その声の甘さに、背筋が凍る。

 彼の指先が頬に触れた。冷たい。

 微笑んでいるのに、そこに温度がない。



 「……何を、なさっているのですか?」


 「いやね。思ったんだ。君って本当に――お人好しだなって」



 笑いながら言う声が、優しいのに狂気を孕んでいた。

 彼の瞳が、底知れぬ闇を湛えている。



 「……お人好し?」


 「うん。人を疑うことを知らない。

 “信じたい”って思いが強すぎる。そんな君は……とても可愛いと思うけど、同時に、危うい」


 頬をなぞる指が、首筋へと滑り落ちる。

 逃げようとしても、なぜか身体が動かない。



 「君は、もう少し“疑う”ことを覚えた方がいい」


 その瞬間だった。

 胸の奥に、冷たい刃のような痛みが走る。

 何かが身体の中へと入り込む感覚。息が詰まり、喉が凍りつく。



 「……っ、ルシ……アン……様……」



 呼吸を取り戻す頃には、痛みは消えていた。

 ただ、心臓が妙に重い。



 「何を……なさったのですか」


 ルシアン様は微笑んだまま、まるで子どもをあやすように言う。


 「呪いだよ」


 「……え?」


 「“愛する者を殺さなければ、君が死ぬ”――そんな呪い。ふふ、美しいだろう?」



 一瞬、時が止まったようだった。

 彼の笑みが、絵画のように凍りついて見えた。


 囁く声が甘く耳を撫で、微笑が狂気に変わる。



 「なんで、呪いなんてこんなことを......」



 単純に疑問だった。私はルシアン様に呪いをかけられるようなことをした覚えがない。

 その瞬間、ルシアン様から笑みが、ふっと消えた。



 「僕は、精霊という存在がこの世から消えればいいと思っている」


 「えっ、それはどういう――」



 言い終える前に、ルシアン様は私の声を遮るように囁く。

 再び底の見えない笑顔を宿したまま。

 ルシアン様はゆっくりと立ち上がり、背を向けながら言った。




 「君がどんな選択をするのか……楽しみにしているよ」




 ルシアン様は、そう言い残して部屋を後にする。

 突然の出来事に、思考が追いつかない。



 (呪い......? 愛するものを殺さなければ死ぬ......?)



 意味はわかるのに、理解ができなかった。

 愛するもの――つまり、ノエル......?



 そんなのできるわけがない。

 でもどうしよう。それは、つまり私が死ぬということで……。

 ノエルを二度と一人にしたくない。



 ぐるぐると考え込んでいたその時。



 部屋にノックの音が鳴り響く。



 「......セレナ。俺だ、入るよ」



 愛する人の声。今はそれだけで涙が出そうだった。

タイトル詐欺でしたね。すみません。ルシアンついに本性が。

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