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【完結済】悪女にされた公爵令嬢、二度目の人生は“彼”が離してくれない  作者: ゆにみ
第二部

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21、……妻を、よろしくお願いします(sideノエル)

 セレナが突然、目の前で崩れ落ちた。

 その細い身体を抱きとめた瞬間、腕の中の重さがほとんどなくて――

 冷たさに、呼吸が止まる。



 「……血の気が、ない……どうして」



 まだ何も、話せていない。

 ちゃんと向き合いたかった。ただ、その手を取って名前を呼びたかった。


 数日かけて、やっと気づいたのだ。

 自分の弱さを晒すのが怖くて、プライドが邪魔していたことに。

 

 夫婦なのだから、逃げてはいけない。

 セレナの思いを受け止める覚悟が、俺にはある。

 彼女だって、そうであるはず。だから、自分の思いを話すべきだったのだ。

 

 なのに、どうして。



 (君は、また眠っているんだ......?)



 胸の奥を抉るように、回帰前の情景がよみがえる。

 腕の中で息を引き取ったセレナ。

 あの瞬間、世界は音を失った。


 ダメだ。あれはもう二度と繰り返さない。


 呼吸を確かめる。

 胸は上下している。生きている。



 生きている――今は、その事実だけで十分だった。



 「大丈夫だ……大丈夫だから……」



 セレナの頬をそっと支える。


 その時、背後から声がした。



 「何があった!?」


 ルシアン殿下。

 なぜここに、という疑問がよぎるが、それよりセレナだ。



 「突然倒れたのです。意識が……戻りません」



 殿下はセレナに視線を落とす。

 驚きも焦りもない。

 まるで、最初から知っていたかのような静けさで。



 (……なんだ、この違和感は)



 殿下はしゃがみ込み、セレナの胸元に手を添えた。



 「呼吸も脈もある。命に危険はない。すぐ王宮へ運ぶ。医師を集めさせよう」


 「公爵家はすぐそばです。俺が連れ帰り、治療を――」


 「いや。夫人は国にとって重要な存在だ。王宮で預かるのが最善だ」


 「しかし……!」



 確かに、王宮の設備の方が万全だ。

 それはわかっている。だが胸騒ぎがする。

 

 黒い影のような、得体の知れない警告が頭をよぎる。

 この男は危険だと。



 その時、殿下の瞳が鋭く光を帯びた。



 「――これは、王命だ。理解したね?」



 喉が痛いほど飲み込んだ。

 王命とあれば、これ以上は反論できない。



 「……妻を、よろしくお願いします」



 頭を下げる。

 握り込んだ拳は、白くなるほど強く。


 俺がこの手で救いたかった。

 手放したくなかった。


 でも、今は祈るしかない。

 ただひたすらに、彼女が目を覚ますことを。




 ***



 公爵家に戻ると、部屋はやけに広く、静まり返っていた。


 窓辺に立つ。

 夜風が、ひどく冷たい。

 


 先ほどの殿下の落ち着きすぎた態度。

 あれは本当に、気のせいなのか。



 ウンディーネが言っていた。

 黒魔法を使う何者かが、精霊と精霊使い――セレナを狙っている可能性が高いと。


 この前の誕生パーティーや精霊祭で怪しい動きをしているものは、俺が調べた限りではいなかった。

 だが、パーティーでセレナが黒い光に飲まれかけた時も、今回倒れた時も、近くにいたのは――ルシアン殿下だ。



 (……考えすぎ、なのか?)



 王族が黒魔法など使うはずがない。

 精霊使いを守る側の人間だ。



 理由がない。



 だが――

 胸の警鐘は鳴り止まない。



 見落としている何かがあるはずだ。




 だけど今は――




 (目を、覚ましてくれ。セレナ......)



 目を閉じて、拳を握りしめる。





 セレナが目を覚ましたと連絡を受けたのは、それから三日後のことだった。


ノエルのトラウマ再び。

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