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【完結済】悪女にされた公爵令嬢、二度目の人生は“彼”が離してくれない  作者: ゆにみ
第二部

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15、君は……誰の隣にいるのかな?

 ルシアン様と別れて、馬車に乗り、公爵家へ戻る道のり。

 さっきの言葉が、ずっと頭の中で渦を巻いていた。



 「大切にされている人ほど、隙ができるものだ」



 ……どういう意味なのだろう。

 まるで、私に隙があると言っているみたいで、胸がざわつく。



 そんなはずはない。

 私はノエルがいちばん大切だし、精霊の力だってもう慣れてきた。

 守られてばかりの私ではないはずなのに。



 気づけば、馬車は屋敷へ着いていた。

 思考に気を取られたまま外へ降りると、前を見ていなかったせいで人とぶつかった。



 「ごめんなさい、前を見ていなかったわ......ってノエル?」



 ノエルだった。

 表情は柔らかい。けれど、いつもの穏やかさとは少し違う気配がした。



 「……随分と遅かったね。それに、何か考え込んでいたみたいだ。どうしたの」



 声は静かなのに、低い響きが胸に刺さる。

 どきりと心臓が跳ねた。



 「いえ、少し……ぼんやりしていただけなの。それに精霊祭について話した後、少しお茶をしていて……」



 

 何も後ろめたいことはないはずなのに、まるで尋問されているみたいに息が詰まる。




 「そう、何か話し合ったのかな」


 「ええ、国王と王子お二人と私で精霊祭の打ち合わせを。それで、パートナーはルシアン様に……」



 言った瞬間、言葉が止まる。


 ノエルのまなざしが、すうっと細くなったから。



 「……ルシアン、様?」



 語尾は柔らかいのに、逃げ道を塞ぐような響きだった。



 「ええっと、精霊祭の間だけ、そう呼ぶようにと言われて……」



 説明しようとするほど、声がか細くなる。


 ノエルは短く息を吸い、ゆっくりと笑った。

 だけど、その笑みはどこも温度を帯びていない。



 「そう。ずいぶんと仲良くなったんだね」


 「そんなつもりじゃ......」


 「つもりかどうかは、関係ないよ」



 ノエルの指が、私の手をとらえる。

 優しいはずの手なのに、焦りの熱がこもっていた。



 「ねぇ、セレナ」



 呼ばれただけで、胸の奥が痛くなる。



 「君は、誰の隣にいるんだっけ」



 声は低く、静かで、どこまでもやさしいのに。

 そこには、逃げ場がなかった。



 「……だから、他の誰かを、そんな風に呼ばないで」



 怒鳴っていない。責めてもいない。

 ただ、壊れそうな静けさだった。



 「でも、殿下から精霊祭の間は対として呼びやすい方がいいと提案されて……断れなくて」


 「そう。セレナは、それを受け入れたんだね」


 「......ええ」


 「王族に言われたら、仕方ないよね」



 ノエルは、少しだけ視線を落とした。



 「でも……ごめん。今日は一人にさせて」



 穏やかな声なのに、ひどく苦しかった。



 「きっと、このままだと……俺は君に酷いことをしてしまうから」


 「……わかったわ。本当に……ごめんなさい」


 「ううん。戻ろうか。俺たちの家に」




 ノエルがそっと手を差し出す。

 私もその手に触れる。


 歩き出したのに、二人の間に言葉はなかった。

 沈黙だけが、胸の奥を締めつけていた。

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