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【完結済】悪女にされた公爵令嬢、二度目の人生は“彼”が離してくれない  作者: ゆにみ
第一部

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7、本物の契約者

 静寂の中、セレナの意識は深く、深く沈んでいった。

 まるで底のない水の中をゆっくりと落ちていくように、重力も感覚も、すべてが遠ざかっていく。


 


 ――気がつけば、そこは白く満ちた、どこまでも静かな空間だった。


 光も影も境界もない、けれど息苦しさはない。不思議と心地よいぬくもりに包まれていた。

 何かの夢だろうか――そう思った瞬間、ふわりと水面が波打つような気配がした。


 


 そこに現れたのは、一人の少女だった。


 少女……いや、少女の姿を借りた“何か”。


 透き通る水のような髪が、重力に逆らってゆらゆらと漂っている。

 肌は白磁のように滑らかで、澄んだ瞳は深い湖の底を思わせた。

 身にまとう衣は水のしぶきで織られたように軽やかで、動くたびにしずくのような光をこぼしている。


 


 「……あなたは」


 


 問いかけるより早く、その存在は微笑みを浮かべて口を開いた。


 


 「私はウンディーネ。水の精霊よ」

 「他の者には聞かれたくなかったから、この空間にあなたを呼んだの。急にごめんなさいね」


 


 優しい声音。けれどその奥には、確かな切迫感があった。


 


 「それよりも……危なかったわ」

 「また奪われるところだった」


 


 「……奪われる……?」


 


 意味がわからず、セレナは思わず聞き返した。

 ウンディーネはため息をひとつ漏らすと、肩をすくめた。


 


 「全く、うちの主様ったら……」


 


 「え……?」


 


 「あなたのことよ。セレナ」

 「あなたが――私たち精霊の、真の契約者なの」


 


 「……えっ」


 


 頭が真っ白になる。思考が止まる。

 耳に届いたはずの言葉が、まるで夢の中のセリフみたいに実感を伴わない。



 契約者って......

 


 (私が……? 精霊使い……?)


 


 そんなはずはない。だって――

 回帰前、この世界で“精霊使い”として力を開花させていたのは--コゼットだった。


 


 「でも、それは……コゼットのことじゃ……」



 声が自然とかすれる。


 


 ウンディーネの瞳が、きっぱりと険しさを帯びた。


 


 「違うわよ。あんな偽物!」

 「……あの女のせいで、どれほどのことが歪められてきたか……!」


 


 水面のように穏やかだったウンディーネの声が、一瞬、怒りを含んで揺れた。


 


 「精霊の力を勝手に盗み、都合のいい物語を演じていた……。私たちも、騙されていたのよ……」


 「それに、あの時......私たちも冷静じゃなかった……」

 


 ウンディーネの声に怒りと苦しみのような何かが滲む。

 静かな湖面が風でざわつくように、その感情が空間全体に波紋のように広がっていく。




 (……苦しそう?)




 でも--


 もし、彼女の言うことが本当なら――私が本物の精霊使い……?



 じゃあ……もしかして、精霊たちが歪められた運命を戻そうとした?


 


 「……だから、時間を巻き戻したの?」


 


 セレナの問いに、ウンディーネは小さく首を振った。


 


 「いいえ。確かに奇跡的に時間が戻って、再びチャンスが与えられた……。でも、私たち精霊にそこまでの力はないわ」


 「私たちが運命に干渉することはできないの」


 「じゃあ、どうして……?」


 


 「誰かが、私たちじゃない“何者か”が、運命を巻き戻したのよ」

 「時間が戻ったのは、偶然なんかじゃない」


 


 その言葉が、胸に重くのしかかる。


 


 「誰……なの?」




 「……ごめんなさい、そこまでは分からないの」


 「ただ確かなのは、あなたが“選ばれた”ということ」

 

 

 「そして、もう――あなたは精霊の力を取り戻しているわ」


 


 「えっ……!?」


 


 自分が、力を……?


 思わず手を見る。

 何も変わっていないようで、どこか、確かに……感覚が違う気がした。


 


 「このままでは、この世界は――」


 「……いえ、いいの。あなたを怯えさせるつもりはなかったの」


 

 ウンディーネは、しばらく沈黙した。

 そして、真っ直ぐにセレナの瞳を見つめる。



 「でも、覚えておいて。あなたこそが、本物の精霊使い。今度こそ、奪われてはいけないの」


 「私たちにとっても、あなたにとっても、これは――最後のチャンスよ」


 「今回は騙されてはいけないわ......!」


 


 ウンディーネはそう告げると、静かに手を伸ばしてくる。



 (最後のチャンス......?騙されていたって......?)



 疑問に思うより先に指先が触れる。

 その瞬間、白い世界が水面のように波紋を描き――


 


 視界が、一気に光で満たされた。



 


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