表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】悪女にされた公爵令嬢、二度目の人生は“彼”が離してくれない  作者: ゆにみ
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/109

10、第二王子とセレナ

 庭園の噴水前で抱きしめ合う私たちは、言葉もなく、ただ互いの温もりを確かめ合っていた。

 視線も言葉もいらない。ただ、心の奥にある愛だけが静かに伝わっている――そんな確信があった。


 そっと身体を離し、見つめ合う。



 (……もう、このまま帰ってしまいたい)



 そう思うほどに、名残惜しい。

 結婚して毎日一緒にいるはずなのに、想いは留まることを知らない。

 ――怖いくらいに。


 ノエルは熱を宿した瞳で、穏やかに囁いた。



 「……そろそろ、戻ろうか」


 「……そうね。パーティーはまだ終わっていないものね」


 きっと彼も、同じ気持ちでいる。

 けれど高位貴族として、理由もなく会場を後にすることはできない。



 庭園でのひとときを胸に、私たちはゆっくりと会場に戻った。

 華やかなシャンデリアの光に照らされ、男女が優雅にステップを踏んでいる。

 音楽が柔らかく空間を満たし、踊る人々の笑顔が眩しい。



 「俺たちも、踊ろうか」


 ノエルが穏やかに手を差し伸べる。

 私は自然とその手をとり、軽く会釈して彼に身を委ねた。



 二人で踊るのは、久しぶりのこと。

 手のひらに伝わるぬくもりに、胸が高鳴る。

 周囲の喧騒が遠のき、世界がふたりだけになっていく感覚――心が静かに満たされていった。



 (ノエルと一緒なら……怖くない)



 一曲が終わる頃、私たちはゆっくりとステップを止め、微笑みを交わす。

 その瞬間、後ろから軽やかな声がかかった。



 「セレナ夫人、踊っていただけますか?」



 背後からかけられた声に、思わず振り返る。

 そこに立っていたのは、ルシアン殿下だった。穏やかな笑みを浮かべながらも、瞳の奥には王族らしい確固たる意志が宿っている。

 ノエルが繋いだ手に、ほんのわずか力を込めたのがわかった。



 (......ノエル)



 本当は、離れたくない。

 でも相手は王族。誘いを断ることなど、できるはずがない。


 ちらりとノエルを見ると、彼は小さく息を吐き、私だけに聞こえる声で囁いた。



 「......セレナ、大丈夫だよ」


 優しさと、少しの切なさが滲む声音。

 胸がきゅっと締め付けられる。


 「喜んで......ルシアン殿下」


 「光栄だよ」



 殿下は微笑み、私の手を取った。

 その瞬間、会場の空気がふっと変わった気がした。まるで、柔らかな夜に一筋の風が差し込むように――。




 ***




 「セレナ夫人……そんな顔をされると、まるで僕が悪役みたいじゃないか」



 軽やかな声音に、はっと顔を上げる。



 (……そんなに、顔に出てた!?)



 しまった、と内心で冷や汗が滲む。



 「す、すみません……」


 「謝らないでよ。夫婦水入らずのところに割り込んだのは僕だから」


 

 殿下はさらりと笑って見せた。その笑みは柔らかく、しかし底に何かを秘めているようにも感じられる。



 「でもね、精霊使い様と一度話してみたかったんだ。許してくれる?」


 その声音に、張り詰めていた肩の力が少しだけ抜けた。


 

 「……いえ。光栄です、殿下」


 「ありがとう。じゃあ、少し質問してもいいかな? ――セレナ夫人は、精霊界に行ったことはある?」


 「精霊界、ですか? いえ……行ったことはありません。いつも、精霊たちの方から来てくれるので」


 「呼べば来る、ってことなのかな?」


 「うーん……呼んだことは、ないかもしれません。気づくと、傍にいてくれるんです。私と精霊は“繋がっている”と……昔、言われました」


 「へぇ、やっぱり特別なんだね。興味深いよ」

 

 

 殿下はふわりと笑った。その柔らかい表情に、思わず胸の緊張がほどける。



 「殿下は、柔らかい雰囲気で……なんだか安心感がありますね」


 「そお? 自分じゃわからないけど……なんか嬉しいね」


 「はい。ノクス殿下とはまた違った雰囲気で」


 「あ……兄上は真面目だからね」



 殿下はいたずらっぽく目を細め、楽しげに笑った。

 その表情はどこか無邪気で、兄である王太子とは正反対の印象を与える。


 そんなやりとりを交わしているうちに、曲はいつの間にか終わりを迎えていた。

 私たちは身体を離し、一礼を交わす。



 「あ......旦那様がやきもきしているみたいだし、じゃあこれでね?」



 その言葉にチラリと会場を見渡す。


 見慣れた金髪が目に入る。

 目があった瞬間、ノエルは安心したように微笑んでいた。



 「......一瞬、睨まれたような」


 「殿下......? 何か仰られましたか?」


 「いや、なんでもないよ。早く行ってあげて?」


 「ありがとうございます」



 一礼し、ノエルの元へ向かう。



 その瞬間、プラチナブロンドの青年は、笑顔を崩さぬままに誰にも聞こえない声でポツリと呟く。



 「......精霊使い、ね」

ブクマ&評価ありがとうございます!

とても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ