7、第二王子の誕生パーティー
ある朝、ノエルが手紙を片手に私に話しかけた。
「そういえば、もうすぐ第二王子の誕生パーティーが開かれるって」
「......ルシアン第二王子の?」
思わず声が漏れる。そうだった、もうそんな季節だったんだ。
ルシアン・ヴァルディア第二王子。王宮のメイドとの間に生まれた妾の子――それでも正統な王族として認められている。母は数年前、流行病で亡くなってしまったらしい。
兄ノクス殿下とは違い、ルシアン殿下は穏やかで、誰にでも親しみやすい性格。だからこそ、王族の中でもひときわ特別な雰囲気を纏っている。
「うん。黒魔法のことも心配だけど、大事な行事だからね。……当日は怪しいものがないか、アンテナは張っておくよ」
「そうね」
ふと、ノクス殿下の顔が浮かんだ。
「......ノクス殿下は、お元気かしら」
「どうだろうね。でも、当日会えるだろうし、心配いらないよ」
ノエルの処刑騒動の後、コゼットの罪が暴かれた。ノクス殿下は、裁かれるべき彼女を庇った――愛ゆえの罪。気にならないはずがない。
でも今は――向き合うべき問題がある。集中しなきゃ。
***
そして迎えた、ルシアン第二王子の誕生パーティー当日。
会場は煌びやかなシャンデリアの光に包まれ、王族や貴族たちの笑い声が華やかに響いていた。
シルクのドレスが揺れるたび、微かに香る花の香りが混ざる。私は少し緊張しながら、ノエルの腕にそっと手を添えた。
「セレナ、大丈夫?」
「うん……ちょっと緊張してるけど」
そんな私たちの前に、ゆったりとした足取りで現れたのは、プラチナブロンドの髪と碧眼を持つ青年――ルシアン・ヴァルディア第二王子。
「やあ、精霊使い殿に救世主。お会いできて光栄だよ」
柔らかな笑みを浮かべ、穏やかな空気を纏っている。
ノエルが一歩前に出て、恭しく頭を下げた。
「恐れ多いことです。この度はおめでとうございます」
私も続いて礼をする。
「殿下、おめでとうございます」
ルシアン殿下はにっこりと微笑み、一歩近づいた。
「君たち二人がいれば、この国は安泰だね。今日はどうか楽しんで」
手を軽く振りながらその場を後にする姿に、王族とは思えないほどの親しみやすさを感じた。
「柔らかい雰囲気の方ね」
「うん。ノクス殿下とはまた違った雰囲気だね」
そんな穏やかな会話の最中だった。
――突然、背筋をなぞるような冷たい視線を感じた。
「......っ!?」
息が詰まるような圧迫感。刺すような、いや……絡みつくような不快な気配。
まるで闇そのものに見つめられているような――そんな感覚だった。
思わずノエルの手を強く握る。ノエルが驚いた顔で覗き込んだ。
「どうしたの? まさか、また何か感じた?」
「うん……今のは――」
言い終える前に、背後から聞き慣れた声が響いた。
「久しぶりだな。アストリッド公爵夫妻」
振り向けば、そこにいたのは――ノクス・ヴァルディア第一王子だった。
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