51、再び誓い合う、甘い夜
私とノエルは、しばらく広場で抱きしめ合ったあと、静かに馬車へと乗り込んだ。
並んで座る私たちの手は、自然に絡み合ったまま離れない。
誰も言葉を発さず、車輪の音だけが響く。
でも不思議と居心地は悪くない。
胸の奥は穏やかだった。
張り詰めていた糸が、ようやく緩んでいくように感じる。
(やっと……二人で帰れるのね)
そう思ったとき、ノエルが小さく息を吸って、そっと口を開いた。
「ねえ、セレナ」
「ノエル、どうしたの?」
「……あの時のこと。コゼットがセレナの力を奪っていたこと、話さなくてよかったのかなって、ふと思って」
私は一瞬だけ瞼を伏せ、ゆっくりと頷いた。
「そうね。あの場で彼女はもう十分追い詰められていたもの。それ以上、私が突きつける気にはなれなかったわ」
そして、顔を上げ、彼としっかりと目を合わせる。
「でも……真実は必ず明らかになるものだと思っているから」
「……そうか。確かに、そうだね」
ノエルも静かに頷く。
再び沈黙が落ちた。
けれど、繋いだ手は先ほどよりも強く、しっかりと互いを確かめ合うように握られている。
――もう二度と離さないと、お互いに誓うみたいに。
(この手を、私は離さない。彼と同じ未来を歩くと決めたのだから)
***
夜。
いつものように、ノエルと私は同じベッドに横になっていた。
けれど今日は、胸の奥から溢れ出る感情に突き動かされるように、私はそっと彼の方へ身を寄せる。
「......セレナ!?」
いつもはノエルから抱きしめてくれていたのに、今日は私から彼に腕を回した。
「ふふ、ノエル......だいすき」
私の声に、彼の肩がわずかに動いた。
「俺……セレナが積極的なの、ちょっと反則だな……」
耳まで赤くして視線を逸らす彼が、愛おしくてたまらない。
「でも……うれしい。俺も、だいすきだ」
「うん」
自然に唇が触れ合った。
軽く触れるだけのはずが、次第に確かめ合うように深くなっていく。
(本当に、すき。だいすき――)
彼の手が背中を這い上がり、頭に回される。
指先が髪の毛の根元をくすぐるように触れて、私は思わず甘い声を漏らした。
ノエルの唇がほんの少しだけ笑っている気がした。
「セレナ……」
囁きが耳元で溶ける。名前を呼ばれただけで胸がきゅっとなる。
再び唇を重ねるたびに、二人の呼吸が重なる。
「もう、離れないから」
ノエルの声はあたたかく、少しだけ震えている。
「うん、絶対に」
私はそっと笑って、もう一度唇を求めた。
今度はお互いが迷わず深く、ゆっくりと確かめ合うキスを交わす。
――世界に二人きりになったような、甘く静かな夜だった。




