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【完結済】悪女にされた公爵令嬢、二度目の人生は“彼”が離してくれない  作者: ゆにみ
第一部

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56/109

50、あなたは......大ばかよ......っ

 広場のざわめきは遠ざかり、人々の姿も消え、やがて私とノエルだけが残った。

 夕風だけがそっと吹き抜け、沈黙が二人を包む。



 私は何も言えず、ただノエルの胸にしがみついた。

 胸元に顔を埋めると、どくどくと早まった鼓動が掌に伝わってくる。

 その音を確かめるたびに、ああ本当に生きているんだと、胸が熱くなった。




 「……セレナ」



 彼の腕が腰を抱き寄せる。その指先はかすかに震えていた。

 その震えに気づいた瞬間、押し殺していた想いが溢れ出す。



 「……ノエルの、ばか……っ」


 「……ごめん」



 

 胸元を叩く。涙が頬を伝い、彼の服を濡らしていく。




 「本当に、あなたは……大ばかよ……っ」

 「危うく命を落とすところだったじゃない……」



 服の裾をぎゅっと掴む。手のひらに彼の体温が熱く残る。




 「本当にごめん……でも、セレナのいない世界なんて考えられなかったから……」




 その瞬間、私は顔を上げ、声を震わせて叫んだ。



 「でも……! ノエルがいなきゃ意味ないじゃない……!」




 ノエルの瞳が驚いたように大きく開かれる。




 「……ごめん」


 「もう、離れないで」


 「セレナ......」



 ノエルの腕に力がこもり、私はその温もりに応えるように強く抱きしめ返した。

 頬に彼の体温と鼓動が当たり、涙がそこに吸い込まれていく。




 「……絶対よ」


 「うん……離れない......いや、離さない……絶対に……!」



 その瞬間、二人はもう一度強く抱きしめ合う。



 もう、二人の間に言葉はいらなかった。

 ただ抱き合うことで、すべての後悔も、愛情も、許しも伝わっていった。




 ノエルのいない世界なんて考えられない。

 彼の温もりに包まれながら、私は静かに誓う。



 

 たとえどんな困難が待っていようとも、もう彼をひとりにしない。

 この手を離さず、彼と共に歩み抜く。

 何度でも、彼を守り、愛し続ける。

 彼の光にも、彼の闇にも、私が隣で寄り添っていく。




 ――彼と同じ未来を、生きていくために。

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