50、あなたは......大ばかよ......っ
広場のざわめきは遠ざかり、人々の姿も消え、やがて私とノエルだけが残った。
夕風だけがそっと吹き抜け、沈黙が二人を包む。
私は何も言えず、ただノエルの胸にしがみついた。
胸元に顔を埋めると、どくどくと早まった鼓動が掌に伝わってくる。
その音を確かめるたびに、ああ本当に生きているんだと、胸が熱くなった。
「……セレナ」
彼の腕が腰を抱き寄せる。その指先はかすかに震えていた。
その震えに気づいた瞬間、押し殺していた想いが溢れ出す。
「……ノエルの、ばか……っ」
「……ごめん」
胸元を叩く。涙が頬を伝い、彼の服を濡らしていく。
「本当に、あなたは……大ばかよ……っ」
「危うく命を落とすところだったじゃない……」
服の裾をぎゅっと掴む。手のひらに彼の体温が熱く残る。
「本当にごめん……でも、セレナのいない世界なんて考えられなかったから……」
その瞬間、私は顔を上げ、声を震わせて叫んだ。
「でも……! ノエルがいなきゃ意味ないじゃない……!」
ノエルの瞳が驚いたように大きく開かれる。
「……ごめん」
「もう、離れないで」
「セレナ......」
ノエルの腕に力がこもり、私はその温もりに応えるように強く抱きしめ返した。
頬に彼の体温と鼓動が当たり、涙がそこに吸い込まれていく。
「……絶対よ」
「うん……離れない......いや、離さない……絶対に……!」
その瞬間、二人はもう一度強く抱きしめ合う。
もう、二人の間に言葉はいらなかった。
ただ抱き合うことで、すべての後悔も、愛情も、許しも伝わっていった。
ノエルのいない世界なんて考えられない。
彼の温もりに包まれながら、私は静かに誓う。
たとえどんな困難が待っていようとも、もう彼をひとりにしない。
この手を離さず、彼と共に歩み抜く。
何度でも、彼を守り、愛し続ける。
彼の光にも、彼の闇にも、私が隣で寄り添っていく。
――彼と同じ未来を、生きていくために。
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