49、今の私にできること
空気は和らぎつつも、まだ広場には緊張の残り香が漂っていた。
きっとみんな混乱している。
ノエルのためにも、この場は落ち着かせた方がいいのだろう。
今、私にできること──。
精霊たちと視線を合わせる。
ふわり、と風に溶けるように小さな羽音が返ってきた。
(……うん、同じ気持ちだわ)
私はそっと手のひらに力を込める。
すると、淡い光が身体を包み込み、胸の奥にあった決意が形になる。
人々の息を呑む音が、静まり返った広場に重く響いた。
私は光を放つように両手を開く。
淡い光の粒がふわふわと空中に舞い上がり、夕刻の空に溶けていく。
──まるで、夜空が地上に降り立ったかのよう。
その幻想的な光景に、誰もが目を奪われていた。
「……きれい」
「こんなの初めて見たわ……」
「これが、精霊の力……」
「心まで癒されるようね……」
人々の声が自然に漏れ、張り詰めていた空気がゆっくりと変わっていく。
その時、不意に温もりが胸に飛び込んできた。
顔を上げると、いつの間にか拘束を解かれたノエルが、私を抱きしめていた。
その腕はかすかに震えている。
「……セレナ、ありがとう」
「ノエル……!」
救いたかった彼の温もりが、すぐそばにある。
それだけで、涙が込み上げてくる。
その時、ゆっくりと足音が近づいてきた。
現れたのは、ノクス殿下だった。
「……素晴らしいものを見せてもらった。此度は申し訳ない」
「いえ、殿下は秩序を守られただけです。ただ、コゼットは……」
「まだ真実はわからない。ただ君たちには必ず知らせよう」
殿下は一瞬だけ私たちを見やり、そして傍らのノエルにも目を向ける。
「公爵もすまなかった。王国を救ってくれたこと、感謝する」
わずかに目を伏せ、ほんの少しだけ息を吐いてから、殿下は続けた。
「だが秘宝に手を出した事実は変わらない。処罰は避けられないだろう。だが、できるだけ軽くできるよう尽力しよう」
「……覚悟していたことです」
ノクス殿下はふっと微笑み、広場全体に響くような声で宣言した。
「では皆の者、この場はお開きとする!」
「新たな精霊使いの誕生に祝福を!」
高らかな宣言が響いた瞬間、広場はどよめきに包まれ、民衆の歓声が波のように広がっていく。
「ヴァルディア王国に幸あれ!」
祝福の声が空へと昇っていくのを、私は胸の奥でかみしめた。
(……ああ、これで本当に──)
ノエルを救うことができたのだ。
その証のように、私と彼の手はしっかりと結ばれていた。
なんかクライマックス感ありますが、もう少し続きます。
回収してない伏線まだあるので!




