48、王国の救世主
──”ノエルは王国の救世主”
その一言に周囲は再び静まり返る。
私も驚きでただ立ち尽くしていた。
(ノエルが、王国の救世主......?)
するとノクス殿下の顔が険しいものへと変わり、妖精たちに問いかける。
「......どういうことだ」
「あなた、腕輪で過去を見たのよね?それなら知っているはずよ。精霊たちが激怒し王国が崩壊する過去を」
「......ああ」
「でも今回は起きていない。なぜって?それは──”セレナが生きている”からよ」
(......え?)
王国の崩壊?私が生きているから......?
色々な情報が、一度に入ってきて頭が追いつかない。
一方、その時。
──コゼットは焦っていた。
(まずい、まずい、まずい......!)
(私が偽物だと、バレる......。どうすれば......?)
(っていうか、これは二週目なの......!?)
再び民衆は混乱の渦に呑まれる。
「精霊が言っているのは、どういうことなんだ......?」
「セレナ様が、本物ということ......?」
「しかも、過去に亡くなって、王国が荒れたって......」
「え、でも悪女という噂が......もしかして、仕組まれて?」
観衆がざわめく中、ウンディーネが澄んだ声で発する。
「やっと気付いたようね。本物の存在に」
その瞬間、周囲からの冷たい視線がコゼットに突き刺さる。
ノクス殿下も縋るような瞳で彼女を見つめていた。
「......コゼット......?」
ノクス殿下の声が震えた。視線は彼女に向けられているのに、どこか虚空をさまよっている。
彼は、信じたいのに信じられない現実に、ただ唇をかみしめるしかなかった。
「殿下、違うのです、私は──」
コゼットが縋りつくように叫ぶ。
「......やめろ、コゼット」
かすれた声が彼女の言葉を断ち切った。
「……今は、真実を見極めねばならない。君が罪人かどうか、調べる必要がある」
そう告げる彼の横顔は苦悩に満ちていた。目は彼女を見ようとしない。
「......彼女を、控えの間へ」
騎士たちが動き、コゼットの腕を取る。
「殿下! 違います、私を信じて──!」
その叫びにも、ノクス殿下は顔を上げなかった。拳を握りしめ、ただ小さくつぶやく。
「……すまない……」
その声は誰にも聞こえない。
私は、何も発せず、ただ呆然と見つめていた。
殿下は再び私たちへと向き直す。
「......すまなかった。知らなかったとはいえ、愚弄したこと、許してくれ──精霊使い殿」
「きっと、もう少し調べなくてはならないことが多いのだろう」
その瞬間、民衆の声が広場を揺るがした。
「処刑をやめろ!」
「王国を救った方を罰するなんて……!」
「ノエル様を……助けろ!」
ざわめきの中、騎士たちは一瞬足を止め、互いに顔を見合わせた。
ノクス殿下も民衆を見渡し、深く息を吸い込む。
コゼットは腕を取られながらも、なお足を踏ん張った。しかし騎士の手は容赦なく、彼女を引き離していく。
「公爵の処罰も、今ここで保留にする」
「我々は、王国のために真実を見極めねばならぬ」
その言葉が告げられた瞬間、広場に張りつめていた空気がわずかにゆるむ。
人々のざわめきが消え、代わりに緊張と期待が入り混じった沈黙が満ちた。
私は胸に手を当てる。鼓動が耳の奥でドクドクと鳴り、息を吸うのも苦しい。
視界の端でノエルがうつむくのが見え、その姿に胸がきゅっと締めつけられた。
(……ノエル、助かったの……?)
胸の奥に芽生えた安堵は、まだ小さな灯火のように心もとない。
それでも、さっきまで凍りついていた世界に、ほんのかすかな温もりが戻った気がして、私はそっと目を閉じた。
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