47、私のために......命を投げ出すことないじゃない......!
壇上へと駆け上がった瞬間、ノエルの瞳が大きく見開かれ、震える声がこぼれた。
「……え? セレナ? 本物……?」
「ええ、私よ」
その一言に、彼の喉がごくりと鳴る。
呆然と私を見つめていたノクス殿下が、はっと我に返り、鋭く向き直った。
「セレナ嬢......これはどういうことだ?」
その時、群衆をかき分けてコゼットが駆け上がってくる。肩で息をしながら叫んだ。
「お姉様......!こんな時に、いきなり何をしているんですの!!」
(......コゼット、白々しいわね)
苛立つ気持ちを抑えて、殿下へと視線を移した。
「ノエルが処刑されると聞きました。どういうことですか?
ノエルは、罰せられるようなことをする人じゃない……!」
必死に訴える私の声を、冷たい吐息が嘲るようにかき消した。
「セレナ嬢。先ほど申し上げた通りだ。公爵は、王族以外が手を出せば即刻死罪となる秘宝に触れた。それだけだ」
「......どういうことですか」
さらに言い募ろうとしたその時、ノエルの声が遮った。
「セレナ、いいんだ......」
「ノエル......!?」
――だめ。そんなの、いや。
彼がいなくなるなんて、そんなこと……!
頭の奥で思考が絡まり、視界が揺れる。
「......ふっ」
その混乱を嘲るように、低い笑い声が落ちてきた。
「......殿下?」
「いや、美しいことだなと思ってな。公爵が王国の秘宝に手を出したのも、セレナ嬢、君のせいだというのに」
「......え?」
「おやめください、殿下......!」
鎖が擦れる鈍い音が、静まり返った広場に重く響いた。
「ははっ!回帰前、セレナ嬢を亡くしたショックで時間を巻き戻そうと、秘宝に手を出したんだよな......!」
「殿下......!!」
必死に声を上げるノエル。
「君も愚かだな。よりによって我が婚約者のコゼットをいじめているような女のために、命を投げ出すとはな」
「もう、やめてください殿下……!!」
広場に、重い沈黙が落ちた。
(え……どういうこと……?)
――回帰したのは、ノエルが王国の秘宝に手を出したから?
それが、私のため……?
「なんでよ......」
俯いたまま、震える声がこぼれる。
「......セレナ?」
ノエルがそっと呼びかける。
その瞬間、私は顔を上げ、声の限りに叫んでいた。
「私のために......命を投げ出すことないじゃない......!!!」
頬を伝う涙が、光に弾けた。
その時、空気が震え、透き通る声が響く。
――”そういうことね”。
隠れていた精霊たちが一斉に姿を現す。
「......みんな?」
そして、観衆がどよめいた。
「あれは精霊......?」
「初めて見た......」
「確か、コゼット様が精霊使いなのよね」
「でもセレナ様の近くにいないか......?」
混乱が渦巻く中、精霊たちは光の粒を散らしながら宙を舞い、やがて一斉に静止した。
その光景は、神秘的で美しかった。
ウンディーネがゆるやかに口を開く。
「――話は聞かせてもらったわ」
澄んだ声が広場を満たす。
「セレナのダーリン......いえ、ノエルは――王国の”救世主”よ」
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