46、私が、必ず助けるわ
私はただ、走っていた。
胸を裂くような鼓動と、ひたすらに呼ぶ名前だけが頭の中を満たす。
(ノエル......ノエル......!)
息はもう限界を超えている。けれど、止まるわけにはいかなかった。
向かう先は――王都の広場。
回帰したばかりの頃、彼の以前とは違う態度に困惑していた。
一時は疑ったことさえあった。
行動を制限し、着替えや入浴以外の世話まですべて彼が請け負い、時には部屋に鍵をかけられたことさえあった。
なのに、どうして信じられたのか。
――あの瞳に、嘘がなかったから。
回帰前も、今も、彼の優しさは変わらずそこにあったから。
どれほど、その温もりに救われてきたことか。
待ってて、私が必ず助けるから――!!
広場が視界に飛び込む。人波はうねるように押し寄せ、空気はざわめきに満ちていた。
そしてその中心にいたのは――
(ノエル......!!)
彼は壇上の上で鎖に繋がれ、跪いている。
その隣には、冷徹な瞳をしたノクス殿下。
群衆の向こうにコゼットの姿もあった。
ノクス殿下の声が、刃のように響き渡る。
「この者は、王族のみに使用が許された王国の秘宝に手を出した」
「よって――死罪が与えられる」
胸の奥が一瞬で凍りつく。思考が止まる。
でも、今は立ち止まっている場合じゃない。
声を振り絞った。
「――お待ちください!!」
その声が広場を裂き、人々の視線が一斉にこちらへと向かう。
息が止まるほどの沈黙。
後に、この瞬間は後世にまで語り継がれることになる。
それほどまでに、人々は息を呑んでいた。
彼女の美しさに。
セレナは光をまとっていた。
歩みを進めるたび、まばゆい粒子が宙に弾け、周囲の空気さえ震わせる。
ノエルの瞳が大きく見開かれる。
(これは……幻か? 最期に、こんなものが見られるなんて……)
セレナはまるで光に抱かれるように進む。
その一歩一歩が、広場全体を支配していく。
誰もが息を呑み、目を奪われていた。




