45、急がないと時間がない!
謎の空間に閉じ込められたけれど、核を見つけて破壊することができた。
安堵とともに、私はゆっくりと瞼を開ける。
柔らかなシーツの感触が肌を撫で、鼻先に漂うのは馴染みのある花の香り。
(……ここ、ベッド? 夢? そんなはず……)
胸の奥で疑念が渦を巻く。
その瞬間、四方から声が降り注いだ。
「「セレナ〜〜〜!!!!」」
驚いて半身を起こすと、見慣れた精霊たちがそこにいた。
青い光の軌跡を残して、ウンディーネが勢いよく飛びついてくる。
「う、ウンディーネ……!」
頭に柔らかな衝撃が走る。抱きついてくる彼女の腕が震えていた。
他の精霊たちも、ほっとしたように微笑んでいる。
「本っっ当に心配したんだから!」
「……ごめんね」
「いえ、私たちも何もできなくてごめんなさい」
「あなた、あの黒い闇に包まれたと思ったら、突然意識を失って……」
「でも、こうして目覚めてくれて本当によかったわ」
感謝の言葉が喉までこみ上げるが、それより先に確かめることがあった。
「ありがとう……でも、それよりも――私、どのくらい寝てたの?」
「……今日で三日目よ」
「三日!? 大変!! 急がなきゃ!!」
勢いよく立ち上がろうとすると、サラマンダーが制した。
「その前に、セレナ。体調が整っていない。まずは回復を優先しろ」
「回復は任せて〜〜?」
「休むのも戦いのうちだ」
シルフとノームもそれに続く。
「でも!!こうしている間にもノエルが...... !!」
だって......!三日後に処刑だって......!!
時間がないじゃない!!
するとウンディーネが勢いよく近づく。
「だからこそよ!!そんなんでどうやって助けるの!!」
その声に、はっと動きを止める。
焦りだけが先行していた――本当に助けたいなら、ここで倒れるわけにはいかない。
「私たちが力を使ってあげるから......こっちにきて!!」
頷くと、精霊たちが一斉に私を囲んだ。
暖かな光が彼女たちから溢れ、私の身体を包み込んでいく。
(……あったかい)
疲れがゆっくりと癒えていく。焦りも落ち着いてきた気がする。
決意の光が胸の奥に戻ってくる。
「みんな、ありがとう。でも、もう時間がないわ。行かなきゃ」
「もちろん!! 私たちもついてるわ!」
「ダーリンの元へ――急ぐわよ!!」
光に包まれながら、私は静かに拳を握りしめた。
ノエルを救うために、もう一度立ち上がるのだ。
***
一方その頃、王都の広場。
ノエル・アストリッドは観衆に囲まれ、鎖に繋がれたまま跪いていた。
壇上には、漆黒の髪に金の双眸を持つ第一王子ノクス・ヴァルディア。
冷たい声が広場に響く。
「この者は、王族のみに使用が許された王国の秘宝に手を出した」
「よって――死罪が与えられる」
観衆がどよめく。
「ノエル様が??」
「信じられない......」
「でも事実なら罰せられるべきよね」
様々な声が飛び交う中、ノエルは静かに目を閉じた。
鎖に繋がれた手が、わずかに震えている。
結局、俺は......何もできないまま、この日を迎えた。
でも、セレナだけは巻き込みたくない。
あの時、セレナを助けると決めた時からとっくに覚悟していたことだ。
「はい。異論はありません」
......ごめん、セレナ。
――愛してる。
セレナ......!早く......!!




