43、閉じ込められた謎の空間
「ここは......?」
さっきまでいた草原は、いつの間にか黒い海にのみ込まれていた。
辺りは真っ暗で、足元すらはっきりしない。
ここは夢?それとも――精神世界のどこか?
わからない。でも現実ではないことだけは間違いない。
コゼットに不意を突かれ、気を失った先にきた謎の空間。
(コゼットも、もういないし......)
もうすでに彼女はいない。
私は今、完全に閉じ込められている。
一刻も早く、ここから出ないと......!
まずは明かりが欲しい......。
手に力を込めると、ほんのりと温かな光が掌に宿った。
十分な灯りではない。けれど、指先の光があるだけで心が少し落ち着いた。
光を頼りに歩き出す。だけど目に映るのは、同じ黒が延々と続くだけ。
前に進んでいるのか戻っているのかすら分からない。
時間の感覚は薄れ、終わりが見えない。焦りだけが胸を締めつける。
(これ、本当に出られるの……?)
足取りが鈍るたびに、頭に浮かぶのはノエルの穏やかな微笑み。
(……ノエル)
彼がいない世界なんて、もう想像できない。絶対に戻らないと。
ただ歩くだけではだめだ。
思考を働かせる――冷静に、手掛かりを探すのよ......!
この空間は黒魔法で間違いない。
そうでないと説明がつかない。
黒魔法で意図的に作り出した空間であれば、何か綻びがあるはず。
無からは何も生まれない。
きっと核となるものがあるはず......。
光をわずかしか生み出せなかったように、この空間では大きな力は使えない。
であれば――今の自分にできる、小さな力で探るしかない。
掌の灯を針先のように細く絞り、意識も細い糸のように周囲へと伸ばす。
闇の中を、感覚だけを頼りに、ひたすら探る。
(……ここじゃない)
さらに奥へ、さらに深く。
(……ここも空っぽ……)
焦りが胸をかきむしる。それでも冷静でいなければ。
呼吸を整え、もう一度、意識を研ぎ澄ます。
……そのとき、ひとつの場所だけが、かすかにざわついた。
「......!ここだわ......!」
灯りを胸元に抱え、私はその一点へと駆けだした。
(......あった)
闇の海の奥に、ぽっかりと浮かぶ黒い塊。
周囲の闇よりもなお濃く、なお重く、底知れない気配を放っている。
見るだけで息が詰まりそうな異様な存在。
けれど同時に、胸の奥に小さな希望が差し込むのを感じた。
でもその反面、私の心には確かな光が差していた。
(きっとこれを壊せば、出られる......!)
ノエル......必ずあなたの元へ向かうわ。
どうかそれまで無事でいて。
――ノエル処刑まで十二時間。
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