42、あれ?何か大事なことを忘れてる?
ーーここは、どこ?
ふわふわ、あったかい。
見渡すと、一面の緑の草原。
私は大きな木の根元に座り込み、頬を撫でる風に身を委ねていた。
不意に、頭上から声が落ちてくる。
「……セレナ、起きたんだね」
顔を上げると、そこにはノエルがいた。
「私……寝てたの?」
「ふふ。気持ちよさそうだった」
ノエルは微笑みながら隣に腰を下ろし、肩が触れるほど近くに寄り添う。
風も陽も優しく、時が止まったように穏やかで――。
(……あれ? 何か、大事なことを忘れてる)
胸の奥にひっかかる違和感。
まって。
私、こんな場所に来た覚え......ない!!
「セレナ、どうしたの?」
ノエルが覗き込む。変わらない表情。
でも――本能が告げていた。
(違う。この人は……ノエルじゃない!)
「あなた……誰?」
「セレナ、何を言ってるんだ?」
ノエルは穏やかに笑い、私の手へと触れようとする。
ーーその瞬間。
バシッ、と私はその手を振り払った。
ーーチッ
耳元で、低い舌打ちが響く。
次の瞬間、ノエルの姿が淡く揺らぎ、変貌していく。
「……もう気づいたの?お姉様」
そこに立っていたのは、義妹――コゼットだった。
「コゼット……!」
「ふふ。戦う気なんてないわ。ただ……せいぜい足掻いてみせて?」
薄笑いを浮かべたまま、コゼットの身体に黒い靄がまとわりつく。
輪郭がぼやけ、やがて闇そのものに呑まれていく。
「えっ、待って……!」
必死に手を伸ばしたけれど、指先は空を掴むだけ。
彼女の姿は完全に闇に溶けて消えた。
――次の瞬間、世界が軋んだ。
草原は砕けるように崩れ、空の光が一気に奪われる。
黒い影が地の底から這い上がるように広がり、四方から押し寄せてきた。
「……なに、これ……!」
足元を呑み込み、息を塞ぐように迫る闇。
逃げ場はない。息が詰まり、心臓が暴れ出す。
(早く……出なきゃ……! ノエルが……!)
喉が焼けるほどの焦燥が胸を駆け巡る。
ーーノエル処刑まで、あと1日。
ブクマ&評価ありがとうございます!
とても励みになります!




