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【完結済】悪女にされた公爵令嬢、二度目の人生は“彼”が離してくれない  作者: ゆにみ
第一部

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33、この先に、何があっても――覚悟してる

 「……今度は、あなたから仕掛けるのよ」


 ウンディーネの言葉が頭の中で繰り返される。


 そう、あの未来を繰り返さないためにも、失敗はできない。

 奪われたものを奪い返すため、私は戦わなくてはいけない。



 「でも、私から仕掛けると言っても、まず何をすれば……?」



 覚悟はしても、具体的にどう行動すればいいのか。

 コゼットに直接話す?戦う?......どれも違う気がする。


  悩む私の横で、ノエルが静かに口を開いた。


 

 「セレナが、本物の精霊使いだって、大勢の前で証明するのがいいと思う」



 彼の言葉に、精霊たちがすぐ反応する。



 「そうね!あの女が偽物と暴かれれば、これ以上悪さはできないはずよ!」

 「俺たちも姿を見せれば、誰も否定できないだろう」

 「うふふ、楽しそう〜」



 ウンディーネに続いて、サラマンダーとシルフも楽しげに声をあげる。

 ノームは静かに頷くだけだが、その落ち着いた存在感が心を少し和ませた。



 まずは私が本物であることを、みんなの前で示す――それが第一歩。



 「じゃあやっぱり大勢が集まる……式典とか舞踏会?」


 「そうだね。もうすぐ王家主催の舞踏会が開かれるし、人も集まると思う」



 ノエルが答えた後、ふと表情を曇らせた。



 「でも、ちょっと気になったんだけど……」



 小さく息を吐き、口元がわずかに引き締まる。



 「これ以上悪さできないって……どういうこと?」



 胸の奥が強く締め付けられる。

 ……そうだ、ノエルにはまだ話していなかった。

 コゼットが自分に敵意を抱き、回帰前に精霊使いの力を奪っていたことを。



 「そ、それは......」



 その情報を伝える重さに、息が詰まりそうになる。

 もう、彼に隠し事はしたくない。



 でも……コゼットの力がまだわからない以上、巻き込むことになる。

 もし、ノエルまで狙われたら――?



 (そんなのは、絶対に……)



 沈黙がしばらく続く。

 その沈黙を破るように、ノエルがそっと一歩近づき、私の手を包み込む。


 掌から伝わる温もりと力強さに、胸の奥が少しずつほぐれていく。



 「……ねぇ、セレナ?」


 彼の声は静かで、揺らがない。



「俺はね、もう君を失いたくないんだ」

「この先にどんなことが起ころうと……覚悟してる」


 その瞳は、真紅に燃え立つように熱を帯びていて、見つめられているだけで心が震える。



 「だから……話してもらえないかな?」



 ......本当は、話したい。

 だけど、もしノエルに危険が及んだら――その想いが頭をよぎる。



 「で、でも……もし、ノエルに何かあったら……」

 「巻き込みたくないの……」



 彼は優しく笑みを浮かべ、私の指をぎゅっと握り返す。


 「そっか……セレナは本当に優しいね。出会った頃から変わらない」

 「でも、俺は君の力になりたいんだ」



 一言一言、ゆっくりと、深い真剣さを宿して。



 「この先に何があっても――それを選んだのは俺だから」

 「安心して、俺を頼ってほしい」



 握られた手の温もりが、不安を少しずつ溶かしていく。

 そして、その手がさらに強くなる。



 「ねえ、お願い。力になれない方が辛いんだ……」

 「もう、君を、本当に……失いたくない」



 

 ――真剣すぎて、心をぎゅっと掴まれた。



 「……ノエル」



 視線を合わせると、そこには懇願にも似た熱があった。

 胸がさらに締め付けられる。


 

 抗うことなんて、もうできなかった。

 いや、むしろ彼と同じ高さで立ちたくなった。


 私だって、離れたくない。



 「わかった……でも、絶対に無理はしないで」

 「私も、ノエルのこと、守るから」



 (そう、守られるだけの私じゃない)

 

 けれど、心の奥に残っていた不安が零れ落ちた。




 「……だから、置いていかないで……?」



 震える声を、彼は力強く抱きとめる。



 「……セレナ」



 握られた手が背中へと回され、温もりが広がる。



 「......ありがとう」



 影が重なり、強く抱き合った。

 

 ふたりの心が、さらに深く、固く結ばれた瞬間だった。

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