32、もう、進むしかない
無邪気に騒ぐ精霊たちと、ノエルの爆弾発言に、私はさらに混乱していた。
でも……!私が冷静にならなきゃ……!
必死に呼吸を整える。
ここは一旦、ノエルの爆弾発言は聞かなかったことにしよう。そうしよう。
「ええっと、ノエル?」
「うん?」
「この子たちは……精霊なの」
もう、彼には全てを話そう。
私がそうしたいのだから。
ノエルは、確認するように口を開く。
「そう、だよね……?じゃあ、セレナは……」
「......うん。そう、私が本当の精霊使い」
ノエルの目が少し大きく見開かれた後、少しの沈黙が落ちる。
「やっぱり」
「……やっぱり?」
やっぱりって、どういうこと――?
ノエルは真剣な眼差しで続ける。
「うん。前にコゼットから嫌な空気を感じたって言ったよね?」
「う、うん」
「でもセレナからは、あたたかな光みたいな空気を感じていたんだ」
「え?」
思わず息を呑んだ。
そんなこと、ノエルに言われるなんて思ってもみなかった。
ノエルは頷きながら続ける。
「それにね......寝るときも、いつも包まれるように眠れた。単純にセレナがそばにいてくれるから安心できるんだと思っていたけど――」
ノエルはゆっくり息を吐き、微笑む。
「違った。本当にセレナには“力”があったんだ。……いや、力だけじゃない。俺はずっと、セレナそのものを感じてたんだ。だから、確信した」
「……ノエル」
真っ直ぐに信じてくれる気持ちが、胸の奥にじんわりと伝わる。
(彼は、本当に――)
少しだけ暖かくなる胸。
その横で、水を刺すような声が飛んでくる。
「さっすがセレナのダーリンね!」
ウンディーネが無邪気に跳ね、きゃっきゃっと笑っている。
(もう、さっきからこの子は……!)
「もう、揶揄わないで......!」
「まあまあ、落ち着きなさい。せっかくだし、他の精霊も紹介するわね」
さらりと流されたけれど、彼女のいうことも一理ある。
私が大人になろう。うん。
「この、ぶっきらぼうなのが火の精霊、サラマンダーよ」
「おい、余計なことを言うな」
炎を身に纏い、真面目な瞳が印象的な火の精霊。
「それから、この落ち着き者が地の精霊、ノームよ」
「まったく……賑やかなのは嫌いじゃないけどな」
深みのある声で、ゆったりとした存在感を放つ地の精霊。
静かに私たちを見守るその姿に、少しだけ安心感を覚える。
「そして、ふわふわ浮かんでるのが風の精霊、シルフ」
「ふふっ……でも、幸せそうでいいと思う」
軽やかに漂いながら、にっこり微笑む風の精霊。
その視線は柔らかく、心まで包まれるような温かさを感じる。
「みんな、揃って紹介できてよかったわね」
ウンディーネがにこにこと手を振る。
(もう……!無邪気すぎる……!)
「でも、こうして見ると……本当に、四大精霊が揃ってる……」
驚きの混じった声で、ノエルがぽつりとつぶやく。
「ふふ!ここに主様がいるのだから、当然よ!」
ウンディーネは明るく言ったかと思うと、急に瞳を鋭くさせた。
「でも、なんだか世間では、また”あの女”が精霊使いだと思われているらしいわね」
それまでの賑やかさが嘘のように、空気がぴんと張り詰めた。
「さぁ、セレナ。このままやられてばかりじゃいけないわ。私たちはあなたの味方。そして――あなたはもう、力を扱えるでしょう?」
ウンディーネの真剣な眼差しに、思わずごくりと息を呑む。
「……今度は、あなたから仕掛けるのよ」
胸の奥がざわりと震えた。
――もう、後戻りはできない。今回は失敗できないのだから。
ブクマ&評価ありがとうございます!
とても励みになります!




