31、もう少し余韻に浸らせてもいいじゃない!
キスの後、そっと顔を離す。
一瞬だけ視線が重なり、心が熱くなる。
「……ノエル」
「……セレナ」
また強く抱きしめ合った。
(……このまま、ずっとこうしていたい)
どのくらいそうしていただろうか。
やがてノエルはゆっくりと身体を離し、穏やかな笑みを浮かべる。
「これからも、よろしくね」
「うん」
心がつながった――確かにそう感じた。
胸の高鳴りが収まらない。
同時に、打ち明けたくなった。
――精霊のことを。
ノエルはコゼットに違和感を抱いていると言っていた。
もう彼に秘密は作りたくない。そう思うのに……怖さもあった。
私は、回帰前に殺された。
もう二度と、失敗は許されない。
言うべきか、まだ黙るべきか――悩んでいると、不意に空気が震えた。
――もう!じれったいわね!
透き通るような声が、突然響き渡る。
(え……!まさか……!)
ウンディーネ?!
まずい、ノエルの前だわ……!まだ、心の準備ができてないのに......!
次の瞬間、空気を震わせながら精霊が姿を現す。
透き通る水のような髪が、重力に逆らうようにふわりと揺れていた。
(……ちょっと待って)
(ひとりじゃない……!いっぱいいる……!)
ウンディーネの後ろから、炎、地、風の気配が広がっていく。
次々と姿を現す精霊たち。
(――これって……伝承でしか聞いたことのない、四大精霊……?)
ちらりと横に立つノエルに目をやる。
「え……?これは……」
彼は驚きで固まっていた。
(まって、まって、まって......!)
私もパニックだった。
なんで今、揃って出てくるのよ……!
「ええっと、ノエル……?これはね……」
しどろもどろに言いかけたその瞬間――
「もう〜セレナったら〜。はじめまして、セレナのダーリン!」
ウンディーネがひらひら手を振りながら、軽快に爆弾を落とした。
「……は?」
ノエルが瞬きをする。
私の顔は一瞬で真っ赤になった。
彼は固まったまま、私をじっと見下ろして――
「……だ、ダーリン……って……」
「ちがっ!今のは違うの!ノエルほんと誤解しないで!」
慌てふためく私をよそに、精霊たちは好き勝手に笑っている。
「ふふ〜照れてる〜。かわいい〜」
「おい水、からかうな」
炎の精霊がきっぱりと諫める。
「全く、水は......」
地の精霊が落ち着いた声でぼやく。
その近くでふわふわと浮かびながら笑う風の精霊。
「でも、否定しきれてない顔してるわよ?ほらほら〜」
「ちょ、ちょっと!やめてってば!」
もう顔から火が出そうだった。
でも――ちらりとノエルの表情を盗み見ると。
……真っ赤なまま、視線を逸らしつつも。
「……ダーリン、か……悪くないかも」
小さく、聞き逃せない声で呟いた。
「っ!?!?!?!」
耳の奥まで熱くなる。
もう、どうしたらいいのよこれ……!
かわいい




