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【完結済】悪女にされた公爵令嬢、二度目の人生は“彼”が離してくれない  作者: ゆにみ
第一部

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29、溶け合う想い

 胸に押し付けられた頬から、彼の熱と鼓動が伝わってくる。



 「俺こそ、ごめん」



 低く震える声。抱きしめる腕が、まるで離すまいとするかのように強まる。



 「セレナを、守れなかった」



 その一言に、胸がぎゅうっと締め付けられる。

 ノエルの後悔が痛いほどに伝わってきて、息を吸うことさえ苦しい。



 「……ううん、私こそ」


 「でも、こうしてまた会えた……」


 拙い言葉を並べても、彼の悲痛な声は止まらなかった。



 「本当に、俺は……!」

 「……ノエル」



 震える背中を、私はそっとさする。ぽん、ぽん、と。子どもをあやすみたいに。



 「目の前で、君が倒れて……何もできなくて……」


 「世界が終わったような、そんな気分だった……」



 言葉とともに、彼の肩がかすかに震える。

 彼の苦しみが、痛いくらいに伝わってくる。



 「俺が記憶を取り戻してから、何度も夢に見るんだ」


 「セレナが目の前で倒れる瞬間を……何度も、何度も……!」



 抱きしめる腕が震えていた。

 痛いくらいに、切ないくらいに。



 「ノエル……もう、言わなくていいわ」


 「......わかったから」



 濡れた胸元が、自分の涙なのか彼の涙なのか、もう区別がつかない。



 「ノエル......本当に、ごめんね」


 「あなたを……置いていって……本当、ごめんなさい……!」




 互いに謝り続ける言葉は途切れなくて、涙は止まることを知らなかった。

 溢れる後悔と痛みを抱えたまま、それでも――私たちは、固く、固く抱きしめ合っていた。



 夜の静けさの中で、二人の鼓動だけが響いている。




 「......今日は、もう、このまま寝てしまいたい」


 「うん......わたしも」



 そう答えると、ノエルは私の手を優しく取り、静かに、丁寧に導いた。

 そして、そのまま二人並んでベッドに入る。




 背後から回された腕に包まれ、彼の体温がじんわりと伝わってくる。

 胸元に落ちる吐息が熱くて、心臓の鼓動がうるさく響いた。




 「......もう、置いていかないで」




 耳元で囁かれた声は、震えているのに、どうしようもなく切実で。

 その一言だけで、胸が痛くなるほど締めつけられる。




 「セレナがいないと、眠れないだけじゃない」


 「俺自身が、もう......いないと、ダメなんだ」




 すがるような瞳が、闇の中でも赤く揺れて見えた。

 その想いの重さに、涙がまたこみ上げる。




 「......ずっと、いるわ」


 「もう二度と、あなたを置いていかない......」



 言葉を重ねながら、私は自分からも抱きしめ返す。

 互いの鼓動がぴたりと重なり合い、夜の静けさの中で響き合っていた。


 そのまま、二人は誓い合うように身を寄せ合い、眠りに落ちる。




 でも、この時の私は、まだ知らなかった。



 ノエルの言葉に込められた、深い、深い想いを。



 ――彼がすべてを投げ打ってでも守ろうとした想いを。


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