27、確信に変わった夜
結局最後まで、冷たい視線が私に突き刺さったままパーティーは幕を閉じた。
屋敷へ戻るため、私はノエルとともに馬車へ乗り込む。
車輪の揺れに身を任せながらも、頭の中では先ほどの出来事が何度も繰り返されていた。
――もしかして。
私が回帰前にコゼットをいじめていた行動は、人々の記憶に確かに残っている。
けれど、その“理由”が曖昧なのは……最初から仕組まれていたから?
だとしたら。
前の私は、加害者ではなく被害者だったの……?
そう考えた瞬間、全ての辻褄が合う気がした。
ぞくりと背筋を冷たいものが走る。
――私は悪女に、仕立てられていた……?
それに、今までの状況からして、私を毒殺したのは......。
(コゼット......?)
思考に沈みかけたとき、すぐ横から声がした。
「……セレナ」
はっと顔を上げると、心配そうなノエルの眼差しがあった。
「ごめんなさい、考え込んでいたわ」
「そっか……そうだよね」
彼はぎゅっと私の手を握る。
「そばにいることしかできないけど……ひとりで抱えないで。俺がいるってこと、忘れないで」
胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
「……ありがとう」
「うん」
互いの手を強く繋いだまま、しばし沈黙が落ちる。
だがやがて、ノエルがその静けさを破った。
「言うべきか悩んでいたけど……俺、コゼットから嫌な空気を感じるんだ」
「……!」
思わず息を呑む。
少しの安堵――私以外に、あの子の違和感に気づく人がいたなんて。
彼は真剣な眼差しを、こちらに向けたまま続ける。
「誰も気づいていないみたいだけど、ね」
安堵と驚きが入り混じり、心臓が早鐘を打つ。
(どうしよう、なんて答えよう......)
私が言い淀む様子を、ノエルはじっと見つめていた。
「......」
私もなんて答えればいいのかわからないまま、二人の間に再び沈黙が落ちた。
その時。
ノエルがポツリとこぼす。
「......やっぱり」
「え?」
やっぱり......?
それってどう言う意味――?
問い返そうとした瞬間、ノエルは体をこちらに向け直し、低く言葉を落とした。
「……ねぇ、セレナ。君は……」
酷く真剣な表情。
その表情に思わず、心臓がどくん、と跳ねる。
「......覚えて、いるんだろう?」
「ノ、ノエル......っ」
きっと、彼が言っているのは――回帰前の記憶のこと。
私もずっと感じていた違和感。
もしかしたら、彼も記憶を……?
その疑いが確信に変わった瞬間――。
――ぽろり。
一筋の涙が頬を伝った。
それをきっかけに、堰を切ったように涙が溢れ出す。
「ノエル......っ」
思わず抱きつき、彼の胸元に顔を埋める。
「ノエル......っ ノエル......!」
涙が止まらない。
心も体も、もう制御できなかった。
ノエルは黙って抱きしめ返す。
そして、静かに囁いた。
「セレナ......ごめんね、守ってあげられなくて」
「ううん......っ」
胸に響いたその言葉の意味を、私はまだ深く考えようとしなかった。
ただ、ようやく見つけた拠り所にすがるように――涙が止まらなかった。




