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【完結済】悪女にされた公爵令嬢、二度目の人生は“彼”が離してくれない  作者: ゆにみ
第一部

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26、この笑顔に騙されていた

 パーティーのざわめきはまだ続いていたけれど、ノクス殿下とコゼットが会場を離れたことで、少しだけ空気が落ち着いたように感じた。



 私はその場に残る決意をした。

 逃げることは、犯してもいない罪を認めることになる——そんな気がしたから。



 ノエルは静かに私の隣に立ち、安心させるように微笑む。



 「セレナの判断を尊重するよ」



 その一言に、張り詰めていた心が少し緩む。二人で人目を避けるように後方へ下がり、賑わう会場を見守っていた。




 やがてノエルがそっと肩に触れ、柔らかく声をかける。



 「少し、バルコニーに出ない?」



 私はうなずき、手を取られるまま彼に導かれる。

 外の風は冷たく、けれど心地よい。緊張で硬くなっていた肩が、少しずつほぐれていく。



 「ごめんね、セレナのそばを離れちゃって」

 「ううん、来てくれてありがとう……」



 ——ぽろり。


 (あ、れ……?)



 言葉にした途端、張りつめていたものが決壊するように、ぽろりと涙がこぼれた。

 ノエルは驚いたように目を見開き、そして優しく私を抱きしめる。



 「大丈夫。……俺は、セレナを信じているから」


 「うん……」


 「辛かったね……」


 「......うん...っ」



 胸に顔を押しつけ、彼の服をぎゅっと握る。

 その温もりが、不安で冷え切った心を少しずつ溶かしていった。

 言葉よりも確かなぬくもりが、互いの気持ちを確かめ合う。



 ノエルがいてくれる。

 ……それだけで、私は立っていられる。



 しばらくそうしていると、会場からざわめきが戻ってきた。



 「……あれ、なにかしら?」


 「ふたりが戻ってきたのかも。見に行こうか」



 ノエルに手を取られ、私は再び会場へ足を踏み入れる。



 ――そこには、ノクス殿下とコゼットが再び姿を現していた。



 「主役なのに、すまない」


 殿下の低い声に、周囲から心配の声が飛ぶ。



 「コゼット様……!もう大丈夫なのですか?」



 コゼットは気丈に微笑み、背筋を伸ばして答えた。



 「少し眩暈がしただけですので、大丈夫ですわ」



 毅然とした微笑みに、人々は安堵の息を漏らす。



 (……何が、眩暈よ……)



 私には、その全てが計算された演技にしか見えなかった。



 

 ――その時。



 コゼットと視線がぶつかる。

 一瞬だけ、彼女の瞳に影が走った。

 けれど次の瞬間には、天使のような光を宿した笑みを浮かべ、私の方へ歩み寄ってくる。



 「お姉様!」



 歓声が上がる中、彼女は迷いなく私に抱きついた。

 人々は驚きと感嘆の声を上げる。


 けれど耳元に届いたのは――甘く、冷たい囁き。



 「今日のところは、これで終わらせてあげる」



 凍りつくような声音。私の心臓を鋭く突き刺す。


 次の瞬間、コゼットはそっと離れ、穏やかな微笑みを浮かべた。



 「ご心配おかけしましたわ。お姉様」



 その姿は、姉を許す慈悲深い妹にしか見えない。

 だけど私は知っている——その微笑みの裏に潜む、本当の意図を。




 (この子は、本当に……!)




 怒りと悔しさ、そして孤独が胸を締めつける。

 天使のように笑うその顔が、誰よりも恐ろしく、憎らしく見えた。




 (どうして誰も、この笑顔の裏を見抜けないの……?)




 ——きっと、回帰前の私はこの笑顔に騙されていたんだ。



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