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【完結済】悪女にされた公爵令嬢、二度目の人生は“彼”が離してくれない  作者: ゆにみ
第一部

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29/109

25、絵画のような二人を前にして

 「おふたりとも、落ち着いてください……

 私は……少し眩暈がしただけですので、大丈夫です」



 コゼットは涙を拭いながら、小さく笑みを浮かべてみせた。

 その健気な様子に、周囲から「まぁ……なんてお優しい……」と感嘆の声が上がる。


 まるで舞台の上で演じられる一幕のように、場の空気は一気に彼女へと傾いていった。



 ――完全に、私が加害者に見える。

 これこそが、コゼットの狙い……。



 (分が悪い……!)



 冷や汗が頬を伝い落ちた。



 「コゼット……本当に、大丈夫なのか?」



 ノクス殿下はコゼットのそばに膝をつき、その肩を支える。

 彼女は弱々しくうなずき、寄り添う殿下の姿は絵画のように美しかった。


 そして、殿下は私を真っ直ぐに見据える。

 金の瞳は、強い光を宿していた。



 「セレナ嬢。……確かに、証拠もなく責め立てたのは悪かった」

 「だが、俺は必ず真実を追う。それだけは、覚えておいてくれ」



 その言葉に、胸の奥がざわめいた。

 真っ直ぐな金の瞳に圧倒される。

 私は何もしていない。なのに、あたかも罪を暴かれるのを待つような心地になる。



 殿下はそのままコゼットを横抱きにし、立ち上がった。



 「ノ、ノクス様……!?」

 「君は少し休んだ方がいい。安心しろ、俺がそばにいる」



 甘やかな言葉とともに寄り添うふたりの姿は、誰が見ても「主人公と聖女」。


 周囲の囁きが波のように広がっていく。



 「本当にお似合いのおふたりだわ」

 「コゼット様は、なんて慈悲深いの……」

 「でも、セレナ様は.....やっぱり平民上がりね……」



 ちらちらと冷たい視線が突き刺さる。

 ――これでは、私が悪女そのものだ。



 最悪の未来が脳裏をかすめる。



 (……毒殺)



 心が折れそうになったその時。



 「……セレナ、戻ろう」


 温かな声が耳に届いた。

 顔を上げると、ノエルがそっと私の手を包み込んでいる。



 (……ノエル)



 思わず涙が滲みそうになったが、ぐっと堪えた。

 泣いてはいけない。ここで弱さを見せれば、さらに立場を失う。



 「……ありがとう、ノエル」


 ぎゅっと、彼の手を握り返す。

 


 本当は、この場を離れたくてたまらなかった。

 冷たい視線が背中に突き刺さり、真っ直ぐ立っている自信など微塵もない。


 けれど、今ここで離れてしまえば――

 犯していない罪を認めてしまったかのように、周囲には映るだろう。



 (......大丈夫、私にはノエルがいる)



 その思いだけが、冷え切った心を少しだけ温めてくれる。

 そして、私は決めた。



 「……でも、ここで逃げたりしない。私、何もしていないもの」



 言葉にした瞬間、胸の奥にじんわりと熱が広がる。

 目の前のノエルの瞳は変わらず真っ直ぐで、その視線が私を包み込むように感じられた。



 会場のざわめきも、冷たい視線も、一瞬だけ遠くに消えた気がした。

 それでも、心の奥にはまだ緊張と不安がくすぶる。



 けれど、この瞬間だけは――踏ん張る覚悟が、静かに自分を支えていた。



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