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【完結済】悪女にされた公爵令嬢、二度目の人生は“彼”が離してくれない  作者: ゆにみ
第一部

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21、はじめてのふたりの夜

 ノエルが部屋に入ってきて、ふわりと柔らかな香りが漂う。

 お風呂上がりのせいか、石鹸の香りに少し甘い匂いが混じっている。



 (……だめ、余計に意識しちゃう……!)



 

 私はソファに座ったまま身じろぎし、まともに顔を上げられなかった。


 ノエルは静かに歩み寄り、目の前に立つと小首をかしげる。




 「ベッドに入ってていいよって言ったのに」


 

 穏やかな声色に、じっと射抜かれるような視線。

 心臓が跳ねて、私は思わず目を逸らす。




 「え、えっと……やっぱり、別々に……」


 「だめ」



 優しいのに、抗えない声音。

 ノエルの手が私の腕を取り、ぐいっと引かれる。

 そのままベッドに腰を下ろさせられた。



 「ノ、ノエル......」



 恐る恐る視線を上げると、彼はにっこりと微笑み返す。

 当然のように隣に腰を下ろし、ゆっくり横たわると、私に手を差し伸べた。



 「おいで」


 「え、えっと……」



 戸惑う私を見て、彼は小さく笑い、有無を言わせず手を取って引き寄せる。

 気づけば、私たちは同じベッドに並んで横になっていた。



 「緊張しなくていいよ。……大丈夫、何もしないから」


 「な、何もしないって……」


 「うん。ただ一緒に寝たいだけ」


 さらりと告げられて、胸が大きく跳ねた。

 彼はそれ以上何も言わず、目を閉じてしまう


 「じゃあ、おやすみ」


 「え!?」


 

 

 (う、うそでしょ……! これで眠れるわけないじゃない!)



 横で静かな寝息を立てるノエル。確かに彼は“何もしていない”。

 けれど距離が近すぎて、吐息が髪にかかる。

 胸板の上下が、肩越しに伝わってくる。



 (近い……近すぎる……!)




 必死に背を向けてみても、温もりと香りはすぐそばにある。

 落ち着くどころか、ますます意識してしまうのに――。

 不思議と、瞼は次第に重くなり……。


 いつの間にか私は、安心感に包まれながら眠りへと落ちていった。




  ***




 「ん……」


 ぼんやりと目を覚ますと、身体が何かに包まれている。

 あたたかくて、心地よくて、柔らかい。



 (……え?)



 視線を動かすと、私は固まった。



 「っ……!? ノ、ノエル?! な、なにこれ!」



 私の身体は、ノエルの腕の中にすっぽり収まっていた。

 腰にしっかりと腕が回されていて、逃げ場なんてない。



 「……あれ?」



 寝ぼけた声でノエルが目を開ける。

 掠れた声と、少し乱れた金髪。

 その寝起きの顔で、穏やかに微笑まれた瞬間――胸が一気に熱を帯びる。




 「ほんとだ。……いつの間に」


 「い、いつの間にじゃないわよ!!」



 私は慌てて身をよじるが、彼の腕はすぐには解いてくれない。

 むしろ、抱きしめる力がほんの少し強くなった。



 「……ごめん。無意識だったみたい」




 (っ……!! ぜ、絶対嘘でしょ、それ……!)




 心臓が耳元で暴れるように鳴り、顔が熱くて仕方ない。

 なのにノエルは平然と、悪びれる様子もなく柔らかく微笑む。




 「でも、不思議だな」


 「な、なにがよ……!」


 「無意識でも……俺、セレナに触れてたいんだね」


 「~~~~っっ!!」




 枕を掴んで顔を隠す私に、くすくすと笑うノエル。



 (こんな毎日……心臓がもたない……!)


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