幕間「疑念と黒魔法」
コゼットが目覚めてから数日。
彼女は王宮で療養を続けており、この日は気分転換を兼ねて、庭園での茶会に招いた。
広い庭園の片隅、白い丸テーブルを挟んで向かい合うのは、俺と彼女だけ。
涼やかな風が、紅茶の香りをふわりと運んでいく。
衛兵も給仕も、視界の外に下がらせた。
「体調は大丈夫か」
「はい、もうすっかり……。ありがとうございます、ノクス様」
控えめな口調と、怯えを隠すような笑み。
まだ関わって日は浅いが、悪い印象はない。
──その静けさを破るように。
「殿下! ご報告が!」
砂利を蹴る音と共に、側近が駆け寄ってきた。
足音の響きが、庭園の静寂を切り裂く。
「……何事だ」
耳元に身を寄せた側近が、低い声で告げる。
「セレナ様がアストリッド公爵家で光を放ち……ドアを破壊したとのことです」
「……何?」
思わず眉間に皺が寄る。
光を放つ──そんな能力、少なくとも王都の記録では類例が少ない。
しかも破壊と伴うとなれば……。
(まさか……黒魔法か?)
思考の奥で、数日前のコゼットの言葉がよみがえる。
「――挨拶のとき、お姉様と肩が触れたんです。その瞬間、なんとも言えない嫌な感覚があって……」
……偶然だろうか。
視線を戻すと、コゼットが不安げにこちらを見つめていた。
俺はテーブルに肘をつき、低く告げる。
「君の義姉が、アストリッド公爵家で光を放ち、ドアを破壊したそうだ」
「……え!?」
「今まで義姉に、そのようなことは?」
「はい……全く。でも……なんだか怖い、ですね......」
「……俺は黒魔法ではないかと疑っている」
コゼットの瞳が大きく見開かれた。
その反応は、驚きか──あるいは別の感情か。
「黒魔法は、この国では禁忌だ。……詳しく調べる必要がある」
そう告げながらも、胸の奥に残る違和感は消えなかった。




