20、試練の夜
私はノエルに抱きしめられながら、自分の心を落ち着かせるのに必死だった。
(……だめ、心臓の音、絶対聞こえちゃう……!)
けれど当の本人は落ち着き払っていて、むしろ腕の力を優しく強めながら、ふと思い出したように口を開いた。
「……あ、そういえば手紙がきたよ」
「手紙?」
「第一王子とコゼットの婚約発表パーティーだってさ」
「殿下とコゼットが……?」
思わず声が大きくなる。ノエルは小さく頷いた。
「この前の精霊の件が決定打だろうね。王家としても、守りたいんだと思う」
「そ、そうよね……」
どくん、と心臓が大きく跳ねた。
やっぱり王家は、コゼットを“本物”だと認めている。
けれど、それよりも――。
(コゼット……あなたは、一体何を考えているの?)
私を排除しようとしている? 王家と組んで?
でも、あの子の普段の姿からは、とても信じられない。
けれど――私から力を奪ったのも事実。
……そして。
(私が、なんでコゼットをいじめていたのか覚えていないこと……もしかして関係ある……?)
行動は覚えているのに、理由は思い出せない。
私は、何かをされた?
思い込んでいる?
そんな思考を巡らせていると、ノエルがちらと私を見つめ、何か言いかけては飲み込んだ。
「でも、俺はあの力……なんだか……」
「……ノエル?」
「いや、なんでもない」
代わりに彼は肩をすくめ、くすっと微笑んだ。
「パーティーで着るドレスとか、選ばないとね」
「……それに、今日からの夜も楽しみにしてる」
「なっ……!」
にやりと細められる目。からかうようで、でも優しい眼差し。
「顔、真っ赤だよ。……可愛い」
「~~っ!」
(わ、忘れかけてたのに……!)
心臓は暴れるように脈打ち、熱が頬を染めていく。
***
(......ついに、夜が来ちゃった......!)
ベッドのそばのソファに腰を下ろし、私はそわそわと落ち着かない。
(どうしよう……ほんとに一緒に寝るなんて……!)
「ベッドで待ってていいよ」とノエルに言われたけれど、そんなことできるはずがない。
ひとりでベッドに横になるなんて、余計に落ち着かないに決まってる。
(……ノエル、遅い……!もう、いっそ早く来てくれないかしら……!)
--コンコン。
控えめなノックに、心臓が一気に跳ね上がる。
「……セレナ、入るよ」
扉が開き、現れたのは風呂上がりのノエル。
濡れた金髪から滴る雫。ほのかに紅潮した頬。
そして石鹸と、微かに甘い匂い。
その姿に――
(だ、だめ......!)
私は咄嗟に顔を伏せた。
まともに目を合わせられない。
( こ、こんなの……眠れるわけない……!)
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