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【完結済】悪女にされた公爵令嬢、二度目の人生は“彼”が離してくれない  作者: ゆにみ
第一部

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18/109

15、もしかして、あなたは......

 ドアを砕いた衝撃の余韻が、まだ手のひらに残っている。

 木片を踏み越え、私は一直線にノエルの寝室へ向かった。


 扉を開けた瞬間――息を呑む。


 部屋は荒れ果て、床には倒れた椅子や破れたカーテンが散らばっている。

 その中央で、ノエルが床に這いつくばるようにうつ伏せていた。肩が荒く上下し、背中が小刻みに震えている。



 「……ゔっ、あ……」



 低い呻き声が、胸を刺す。

 私はためらわず駆け寄った。


 「ノエル!」


 私の声に、ノエルは顔を上げる。

 虚ろな瞳が、ぼんやりと私を映す。


 「あれ……セレナ……?」

 「よかった……無事、だったんだね……」


 (……無事?)

 何を言っているの――そう思う間もなく、ノエルは再び顔を歪めた。


 「……っ、う……まって……行かないで……」

 「……っ、ゔあ……」



 その掠れた声は、切実にすがるようで。

 胸の奥が、きゅうっと痛くなる。



 「ノエル! しっかりして! 私よ、セレナよ!」



 汗が額からこめかみに流れ落ち、肌は恐ろしく冷たい。

 ――どうしよう。このままじゃ……!



 (お願い……助けたい。ノエルを……ノエルを……!)



 必死にそう願った瞬間。



 (……え?)


 私の手が熱を帯びる。

 淡く透き通るような光が、掌から零れる。


 そしてその光は、柔らかくノエルを包み込んでいく。


 それは温かく、澄んでいて――まるで彼の苦しみを溶かしていくようだった。


 


 荒かった呼吸が、次第に穏やかに変わる。

 こわばっていた表情が緩み、静かな吐息だけが部屋に残った。



 (……これ、浄化? さっきのドアも……もしかして、精霊の力……?)



 

 確信はない。けど、彼が楽になった――それだけでいい。

 安堵が胸に広がり、張り詰めた糸がふっと解けた。



 そして、静かに眠るノエルを見下ろしながら、胸の奥で何かがざわめく。





 「ねぇ……ノエル……」




 そっと頬にかかる髪を払い、唇をかすかに震わせる。





 「あなた……もしかして――」


 



 一瞬、言葉が喉でつかえる。





 「記憶が……あるの……?」


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