13、閉ざされた部屋と呻き声
夜――。
ふと目が覚めたセレナは、喉の渇きを覚えた。
呼び鈴で侍女を呼ぶには、時間が遅すぎる。
それに、胸の奥にこもる妙な窮屈さが、じっとしていられなくさせた。
(……自分で取りに行こう)
そっとベッドから降り、静かにドアに近づく。
ノブに手をかけ、回そうとした瞬間――
「……え?」
外から鍵がかかけられていた。
何度もノブをひねるが、硬い手応えは変わらない。
どうして?
(まさか……ノエルが?)
その時だった。
部屋の外から、低く押し殺した声が響いた。
「……っ……やめろ……っ」
息を詰める。
聞き間違えるはずがない――ノエルの声だ。
(ノエル……!?)
胸がざわめき、慌てて扉を叩く。
「ノエル! 大丈夫なの!? 返事をして!」
しかし返事はなく、代わりに何かを蹴り飛ばす鈍い音と、苦しげな呻き声が響く。
焦りと共に、胸の奥が熱くなり――セレナの手が淡く光を帯びた。
けれど、その光はすぐに消えてしまった。
扉は依然として固く閉ざされたままだ。
(助けに行きたいのに……!)
歯を食いしばり、音が止むのを待つしかなかった。
しばらくすると、音が止み、夜の静けさが戻っていた。
***
翌朝。
何事もなかったかのように、ノエルが食事を運んできた。
「おはよう、セレナ。よく眠れた?」
その穏やかな笑みに、昨夜の出来事が胸に刺さる。
「……昨日、ノエルの部屋から声が聞こえた気がして……大丈夫だった?」
一瞬、ノエルの動きが止まる。
だが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「気のせいじゃないかな? 俺はなんともないよ」
「でも……心配してくれて、ありがとう」
笑みは優しい。
けれど、底が見えなかった。
食事を終えて、ノエルは部屋を後にする。
部屋に再び静寂が落ちる。
(……あの声、本当に気のせいだったの?)
いや、違う。
彼は何かを隠している。
それに――なぜ扉に鍵がかかっていたのか。
誰が、いつ、何のために?
考えた瞬間、背筋が冷たくなる。
同時に、昨夜の一瞬の光が脳裏をよぎった。
──あれがもっと強ければ、私はノエルを助けられた?
胸の奥で何かがざわめく。
昨夜の声と、扉の手応えが、いつまでも離れなかった。




