その手紙は......男?
医療支援や農業支援をはじめてから、視察のために現地へ足を運ぶ機会が増えた。
研究そのものは専門家に任せているけれど、資料に目を通したり、現場の人と話して意見を伝えたり……。
そんな日々を続けていたある日だった。
公爵家に、一通の手紙が届いた。
封を開けた瞬間、背後から影が落ちる。
「……だれ?」
ノエルの声は落ち着いているのに、すこしだけ棘が混じっていた。
「これは……作物研究所の方だわ。よく意見交換するから」
そう説明したのに、ノエルはさらに覗き込んでくる。
距離が近すぎて、息が頬にかかってくすぐったい。
「その“よく”って、どれくらい?」
「どれくらいって……普通よ? 仕事の話をするだけ」
「ふぅん。――おとこ、だよね?」
「えっ……嫉妬してるの?」
「する。あたりまえだよ」
ぴしりと静かな声。
いつもの柔らかさとは違う、ひそやかな熱を帯びていた。
「きみに手紙を出せるくらい近いってことでしょ。……そんな距離、俺以外に許した覚えないけど?」
腕を取られ、ぐっと引き寄せられた。
次の瞬間、唇が触れ合う。
触れただけのはずなのに、ノエルは角度を変え、逃げ道を塞ぐように深く――まるで私の息ごと奪うように重ねてきた。
「……んっ、ノ、ノエル……っ」
離してもらえる気配はまるでない。
むしろ、甘く縋るようにさらに深く求められ、膝から力が抜けてしまう。
ノエルの唇が、ゆっくりと首筋へと滑っていく。
肌の薄いところを、息を探るみたいに触れられた瞬間――背中が震えて、声にならない息が漏れた。
「セレナ、ここ弱いよね……」
低く囁かれ、熱が一気に胸の奥まで広がる。
指先が腰に回され、逃げようとしたら逆に引き寄せられた。
「わからないなら、ちゃんと教えてあげる」
耳元で落ちた言葉に、膝から完全に力が抜けた。
次の瞬間、軽々と抱き上げられていた。
「ちょ、ちょっと……! い、いま昼間よ……?」
「うん。そうだね」
ゆっくりした足取りで扉へ向かうノエル。
いつもより視線が低くて、腕の中から逃げられないのが余計に心臓をくすぐる。
「ねえセレナ。そんなに真っ赤になって……」
目が合うと、ノエルの表情がゆっくり緩んだ。
「なにを想像してるの?」
「えっ……!」
一瞬で顔が熱くなっていく。
ノエルは余裕の微笑を浮かべている。
その差が、余計に恥ずかしかった。
(え、これ……わたしが勝手に……?)
釣られるように視線を上げると、ノエルは満足げに口角を上げる。
「……まあ、想像通りであってるけど」
耳元に落とされた低い囁きに、心臓が跳ねた。
ノエルの腕の中はあたたかくて、どこにも逃げられない。
逃がすつもりも、ないんだろうけれど。
手紙がただのファンレターだと知ったのは――数時間後。
「……だから言ったのに」
むくれながら訴える私とは対照的に、ノエルはやけに機嫌が良かった。
「そんなに、拗ねないで?」
「......誰のせいだと思っているのよ」
髪を撫でる指先はひどく優しい。
そのまま包み込むように抱き寄せられ、胸へ顔を埋めると、頭にそっと口づけが落ちた。
「……ごめん。でも、セレナのことになると不安になっちゃうんだよ」
そんな声を出されたら、さっきまでの気持ちがどうでも良くなる。
「......もう」
軽く息を吐き、ノエルの頬へ触れながら唇を寄せる。
小さく触れた瞬間――ソファに押し倒された。
「......今のは、セレナのせいだからね」
「ノエル――」
言い終える前に唇が重なる。
さっきよりも深く、甘い。
――ああ。今日はまだまだ終わりそうにない。
かわいい




